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第26話「もしも」

 時巡の能力は、生物を成長させる能力だ。成長は成熟を指すものではなく、死まで含めてが成長なのだろう。少なくとも時巡の能力はそうなっている。

 能力発動の条件は接触。この手の能力としてはオーソドックスな条件だろう。触れるだけで相手を死に至らしめると聞くと恐ろしいが、実際は特異ではあるが戦闘向きな能力ではない。


 恐ろしいのは時巡のエネルギー量、そして操作精度だ。


 相手に直接能力を作用させるのは、かなりの抵抗を伴う。こちらのエネルギーとぶつかり合うからだ。

 にも拘らず即死に匹敵する能力に昇華されたのは、時巡の能力を通すエネルギー量と緻密な操作精度故である。


 恐らく、俺にも通る。過去の『コレクター』の被害者には、俺以上の能力者が存在した。


 そしてもう1つ、時巡は分身に近いステージ2を発現していると考えるべきだろう。


 ステージ2は既存の能力から大きく外れるものではない。俺のステージ2が重力に関係する斥力と引力の操作であるようにだ。

 だから時巡の分身も、成長を発展させた能力。クローンのような、自分の欠片を急成長させる能力ではないだろうか。


 警戒は必要だ。、これにも接触が必要。相手を観察していれば何時分身させたかわかる筈。


 勝てる。いや、勝たなければならない。ここで負ければ時巡を救うことなどできないのだから。


 そして十字岳人は能力を発動した。




  *




 十字岳人の能力は重量操作からステージ2を経て斥力と引力の操作へと発展している。

 エネルギー差を考えれば私の能力は通り岳人は通らない。しかし岳人は空間そのものに能力を掛けることでエネルギー差での能力軽減を無視できる。

 身動きが取れなければ流石に私の負けだ。だから不可視の範囲攻撃を躱し何とか接触する必要がある。


 中々きつい相手だ。無法な分身能力さえなければ。


「な、に?」


 私の分身能力の生成射程は60mだ。リスクなく一瞬で接近できる。

 そして前途の通り、触れば私の勝ちである。


 念のため二体分身を作成したが、それも不要だった。私の二つ目の能力の子細が割れていない時点で、岳人に勝ち目なんてなかったのである。


「何ぼんやりしてんの。感傷にでも浸ってる?」


 控え用に作っていた分身の一体が私に話しかけてきた。


「別に感傷なんてないわ」


 わざわざ言う必要もなかったが、答えてやると分身が鼻で笑った。こいつ妙に私をイラつかせてくるな。


「言いたいことあるなら言えば?」

「じゃあ言うけどさ、遊んでないでやることやりなよ。この戦闘だって無駄だったでしょ」


 無駄?


「……無駄じゃないでしょ」

「無駄だよ、馬鹿か」


 無駄な筈がない。岳人が――岳人と戦ったことは。こいつ私の分身の癖にそんなことも


「無駄じゃない!」

「うるさい。唾飛ばすのも止めてくれる? とっととこの場から」


 心が乱れる。衝動が抑えきれない。


「消えろ、消えろぉ!」


 しょうもない反論など聞きたくない。有無を言わさず分身を消滅させる。静かになった。だからこれで解決。これで良い。このやり方が正しい!


 私は自らのやり方を肯定するように呟き続ける。


「私は正しい。私は正しい。私は正しい」


 いつの間にか乱れていた呼吸を整える。動機を抑えるように、拳を胸に押し付ける。


「私は正しい。私は正しい。私は正しい」


 気がつけば膝をついていた。

 いったいどれほどの時間そうしていただろうか。喉がやけに乾いていた。

 咳き込むように、私はしかし繰り返す。


「私は、正しい……」


 私は正しい。私の行動に間違いはない。だからその結果も受け入れるべきだ。


「私は」


 目の前の躯に視線を投げる。目の奥がじくりと痛む。だが、逸らしてはいけない。


「正しい。私は、正しい」


 そうだ。私は正しい。だから証明しろ。

 のが正しいのだと。


「私は正しい」


 ふらりと立ち上がる。膝が震える。ちょっとでも気を抜けば崩れ落ちてしまいそうだ。


 そして、足を大きく持ち上げた。


「わた、私は」


 走馬灯?

 何故か今までの思い出が、脳裏を走り去っていった。

 その多くは高校生になってから、岳人との思い出だった。


 ああ、あの頃は楽しかっ――


「私は、正しい!」


 ぐちゃりと、膝まで血に染まった。

 血しぶきが頬に当たり、それが何らかの引き金を引いたのだろう。私の中の何かが確かに切り替わった。


 成長のステージ2。その超能力と共に、私の中の認識が確かに切り替わった


「……命も、それ以外の全ても、この世界のあらゆるモノは平等だ。私の能力が、それを証明する」


 私の能力のステージ2。それは命あるものにしか作用しないという制約を、取り払うこと。万物は流転する。不可避の変化を急速に促進させる。


 痛いほど握りしめていた拳を開く。気がついていたら握りしめていた砂時計を見つめる。


 その砂時計のような物の力は、絶滅にも等しい人類の命を糧にし、願いを叶えるという。


 ただのオカルト。与太話だ。でももし条件を満たすのが、これから『コレクター』の態勢を整えるよりも速いならどうだろう。やってみる価値はあるのではないか。


 私の成長の能力は無機物にも適用できるようになった。それでも加速できる時間には限界がある。しかし分身全てが同じ対象に能力を発動したら?


 出来るのではないか? 人類を滅ぼす行為が。


「私は、そう誓ったんだっけ……?」


 疑問符を飲み込み口角を上げ、また崩れていた足をもう一度立たせた。




  *




 1999年12月25日AM1:30。『コレクター』率いるテロリスト集団が最明蓮華により制圧された。国会襲撃は事前に防がれたが、集団は最明蓮華が到着した際には既に統率が失われており、『コレクター』と思われる存在は確認できなかった。何らかのトラブルがあったことは確かだが、『コレクター』は逃亡したと考えられ、最明蓮華をトップとする捜査本部が設立された時、それは起きた。

 まず棚が揺れた。次いで大きな揺れ。地震は治まらず、次第に大きくなっていった。それが全世界規模で起こっており、尋常の地震ではないことが判明したのは朝方になってからだ。

 地球規模での地震の原因。それは急速な地殻変動によるものだった。地球の活動が急速に加速していたのだ。いや、元凶の存在から考えれば、成長と呼ぶべきか。

 人間の社会はそのような変革に耐えられるようできてはいなかった。人間自身も、耐えられる者は非常に少なかった。ある者は崩れた建築物に押しつぶされた。津波に飲み込まれた。溶岩に焼かれる者さえいた。しかしそれらに耐えうる超人も確かに存在した。だが超人との境界線上に居る者、辛うじて超人の庇護下に在った者たちは時間経過と共に徐々にその命を落としていった。

 そして七日間続いたそれは、突如として止まった。誰もがその災害が止まった事を認識できなかった。ようやく認識できたのは、その日も終わり、朝日が見え始めた頃だった。


 2000年1月1日。生き残った人類は、終末が訪れた様を目の当たりにした。

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