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第23話「致命的な失敗その2」

 正直なところ、No.1が最明蓮華に勝てるかは定かではない。

 当然勝つのが最良だが、それを座して待つ選択肢はない。ただの時間稼ぎと割り切ってサブプランも同時並行する。


 まずは国会を襲撃する。


 色々と国に対して工作をしてきたが、もう限界を迎えている。No.1を使うとなれば尚更だ。

 だからここらで手ゴマの整理をし、国に混乱をもたらす。仮に最明蓮華が勝ち残ってもそちらに意識を割かせる。私はその間にトンズラだ。

『ミュージアム』も大半は使うことになる。私の最終目的も遅延は避けられないだろう。


「さて、どうなるかな」


 計画決行日は12月24日。楽しいクリスマスにしよう。




  *




「もうすぐクリスマスじゃんね」


 小鳥遊が言った。


 最近は2人でいることが多い。

 零次が死に、時巡も行方不明となっている。元々4人で居たのだが、随分と寂しくなってしまった。


 俺たちは最明蓮華に捕まった後、拠点の1つに軟禁されていた。その時には既に本部が『コレクター』の襲撃により壊滅しており、混乱した状況を立て直すためか、尋問もなくほとんど放置状態だった。

 そしてこちらが立て直すよりも速く、『コレクター』が俺たちが居た拠点を襲撃。為すすべなく共に捕まっていた『コレクター』の配下が奪還され、そして時巡もその日を境に行方不明になった。


 当然だが、俺も抵抗した。だが1人だけ、突出した強さを持った相手が居たのだ。


 変身系能力。犬か狼の爪を部分的にだけ展開した、手を抜かれた戦い。変身系能力は部分展開が可能だが、その戦闘力は完全変身に対し10分の1程度が限界だという。

 舐めた真似をされた。それでも敵わなかったのだ。


 手加減してなお圧倒的な戦闘力。以前戦ったNo.3を名乗る相手もそうだった。

『コレクター』の配下は、明らかに戦闘力の次元が違いすぎる。ステージが上がった程度では太刀打ちできない才能の暴力。


「ねえ、聞いてる?」

「あ、ああ」


 また小鳥遊が言った。そういえば、小鳥遊も変身系能力で、高い身体能力の持ち主だった。


(その小鳥遊と時巡は戦いになっていたんだよな)


 小学、中学時代はよく模擬戦を行っていたという。

 よくよく考えれば凄い話だ。圧倒的な身体能力を体験した今だからこそ実感できる。単純に時巡の超能力エネルギーが多かったのもあるだろうが、果たしてそれだけであろうか。


(聞いてみる……か?)

「いきなりで悪いんだが」

「話ぶった切るよね」


 小鳥遊はぶつくさと言いながらも俺の言葉に耳を傾けてくれるらしい。それが何というか、とても心地よかった。

 悩みがあっても、相談できる相手がいるというのは良い。


(……ああ、やはり友達が出来たのは、悪いことな筈ない)


 復讐を決意してから、それは不要なものだと思った。

 それでも出来てしまった友人を失ってから、自分は途轍もない愚か者だと自分を責めた。


 だが今は、少しだけ、友情を切り捨てなかったことだけは、自分を肯定できるような気がした。




 その後何故か戦闘訓練をすることになり、思っていたより遥かに強い小鳥遊の実力に青ざめることになるのだが。それもまあ、後から振り返れば良い思い出になってしまうのだろう。




  *




「小鳥遊さん、準備は良いですか?」


 最明さんに肯定の意を返す。

 私たちはこれから、『コレクター』が指定した座標に向かう。


 私は自身の能力である竜の翼で。最明さんは念動力で飛行して向かう。船での移動よりも安全だと判断されたためだ。アリスは最明さんが運ぶとのこと。


(多分、優子は居ないだろうな)


 時巡優子は『コレクター』に殺された――などとは当然思っていない。表向きはその方が都合がよかっただけだ絶対。

 私はあいつの親友だ。組織間の抗争に巻き込まれて死ぬような間抜けではないと断言できるし、理由があれば悪に付くとも知っている。

 行方不明? 単にその理由とやらに本腰を入れるため姿を晦ましただけだ。あの馬鹿は軽い気持ちで取り返しのつかないことをする女なのである。


(とんでもない親友がいたものだよ)


 私の仕事は、あいつの脳天をぶっ叩いて事の重大さを叩き込むことだ。

 しかし今度の舞台は、明らかにあいつが出る幕じゃない。だから本当は行きたくなかったが、今この組織を抜けるのはちょっと都合が悪い。


(岳人の馬鹿が馬鹿じゃなければなあ)


 あいつが馬鹿して組織を追い出されていなければ、私はもっと自由に動けた筈なのだ。


 そう、十字岳人は今回蚊帳の外だ。

 今までは(甚だ遺憾だが)私がそうであったが、この組織に入って色々なことを知った。今まで遊んでいた私も馬鹿だ。弱いのに首突っ込んだ零次も馬鹿だ。私たち4人は全員馬鹿だった。


(馬鹿螺旋から抜け出すのに、ちょっとは本気出さないとね)


 私は自分の能力が嫌いだ。可愛くない。戦いでしか使えないなんて現代日本では役にも立たない。

 そう思っていたが、考えが変わった。私はこの無益な争いを終わらせるために、この能力を与えられたのだ。


 翼を生やし、特別強く羽ばたいた。


「……む、これは私は休んでいた方が良さそうですね。抱えてもらって良いですか?」


 了承し、最明さんとアリスを抱え込む。

 音を置き去りにする前に、最明さんが呟いた。


「世界には隠れた強者がこんなにもいる。全くだから油断できないんですよ」




  *




 華が向こうに付いちゃってる!


 遂に恐れていた事態が起きてしまった訳だが、状況としてはそこまで悪くない筈。


 あちらにはNo.1の他に、異界化した世界でも生存可能なNo.2も付けている。あいつなら華は問題にならない筈だ。アリスについても一度異界化してしまえば、それは能力ではなく環境になる。アリスの能力は効かない。そもそもアリスの能力は効果が強引すぎて1人でないと使えないのだ。

 まあ、何はともあれ華、最明蓮華、そしてアリスの移動は確かに確認した。前回の二の舞を防ぐために常に観察は続けるが。予想外のところに最明蓮華が現れる事態は絶対に防がねば。


 国会も今は開会されていないし、それほど手間はかからないだろう。『コレクター』としての分身が無理難題を国に要求して時間を稼ぎ、その間に精鋭は国外に逃げる。


 精鋭は、『ミュージアム』からはNo.6、10を選抜する。他No.3、5、9は顔が割れているのでお留守番だ。とにかく逃げたと思わせないことが重要である。

 No.9である私の分身は適当なところで消滅し消息を絶つ必要があるだろうが。『レジスタンス』の残党に不穏な動きがあるから、そこで適当に使い潰せば良いだろう。


 逃亡先はメキシコだ。基盤を一から作るなら暴力が一番で、あそこなら隠れ蓑だらけである。最終的にはアメリカへの足がかりにもしたいし。


『姉さん』

「……チ」


 幻聴だ。最近特に多い。事態が悪くなって、精神的に弱くなっているのだろうか。


(これも霧江が妙な夢を見せた……)


 ……霧江の、


「『コレクター』」

「……!?」


 不意打ちだった。体が条件反射的にびくりと震える。

 声の主は、私以上に驚いた様子だった。


 No.10、時枝真希絵。治療能力者で、今の私には不要な存在だ。彼女は彼女で逃亡用に準備を整えていたはずだが。


「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫、何の用かな」


 平静を取り戻し、彼女に向き直る。

 彼女のことだ、きちんとノックして部屋に入っただろう。気が付かないとは本当にどうかしている。


 彼女は躊躇いがちに、次のように言った。


「本当に、大丈夫なんでしょうか。あなたが残るだなんて、もしものことがあったら」


 本当は残らないので要らない心配だ。

 どうして私の部下を続けているのか不思議なくらい、彼女は優しかった。

 私はなだめるように言った。


「問題ないよ。私は強いからね。それよりメキシコは治安が悪いんだから、気を付けなきゃ駄目だよ」


 何せ真希絵は要領が悪くて、どんくさいところがある。



 ――ノイズ



「そ、それは気を付けます。でも私、心配なんです」


 意外に頑固だな。そんなところも



 ――ノイズ



「心配性だな。どうしてそんなに気にかけるのさ」


 しまったと、訳も分からずそう思った。

 撤回する理由も、その間もなく、彼女は言った。


「だって、あなたは私にとって、


 体が勝手に動いた。

 彼女の首をつかみ、壁に押し付け能力を発動する。


 彼女は見る間にしわくちゃになっていく。


 見ろ。私の妹はババアだったか?

 違うだろう。あの子は違う。時枝真希絵は妹ではない。


「あ」


 正気に戻った時には、全てが遅かった。真希絵は力なく四肢をぶら下げ、眼球は乾ききっていた。


 ことりと、壁にぶつかった衝撃で、棚から何かが落ちた。

 円柱状のそれは、そのまま転がり続け、私の足にぶつかり止まる。


 その物体はいつかオカルトかぶれの科学者が渡してきた、砂のない砂時計だった。何気なく持ち帰った後、この部屋の棚にしまい込んでいたのか。


 砂時計には当時なかった筈の砂が、ほんの少し溜まっていた。

 そして今、砂が僅かに量を増した。

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