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第4話「予選トーナメント」

 学生闘技大会には我が校から4席分用意されている。

 男女2席ずつだ。

 学内トーナメントの優勝者、準優勝者が学生闘技大会へと参加する。


 優勝は華だとして、私も頑張れば参加券を手に入れられるだろう。最悪一般枠から出るという事も可能なので、そちらを利用することになる。


「え、華出ないの!?」

「うーん、そこまで頑張りたくないかなって」


 そんな私の目論みは、意外な形で裏切られた。


 中間試験も無事終わり、ホッとしたのもつかの間。次なるイベントの闘技大会についての説明がされた。

 昼休み、参加用紙に記入していた時に、何気なく華が参加を否定したのだ。


「……まあ、ハイレベルな戦いなら全力出す必要あるかもだしね」

「全力って、何か問題あるの?」


 記入を終えたのか、それともこいつも参加の意志がないのか、零次が話に入ってきた。


「俺は授業中にもう書いたから。それで、全力って?」


 私は華に視線を向けた。

 案の定、華は説明をしたくないようだった。


 それはそうだろう。華の能力は竜への変身で、竜というのはかなり大きい。そして大きくなるのは自分だけなので、服が破けてしまうのだ。


 完全な変身には、全裸になるという多大なるリスクがある。

 彼女が話すのも嫌がるのは当然だった。なので親友として言った。


「それ以上詮索するなら殺す」

「え、えぇ。分かったよ」


 話を続けるのは止めたようだが、立ち去る気はないようだった。空いた席に適当に座ると、記入用紙に書き込んでいる岳人へと話を振った。


「意外だな、岳人はこういうのに興味ないと思ってた」

「……興味ない。興味はないが仕方がない」


 心底嫌そうに十字岳人は言った。


 彼は上官命令をしっかりと全うするようだ。


 彼の視線がこちらに向いた。

 不意打ち気味だったのでドキリとする。


「時巡も、興味がないと思っていたが」

「優子は負ける戦いはしないもんね。確かに意外かも」

「確かに負けず嫌いだもんね」

「うるさいよ。私だって、自分がどこまでやれるか興味あるの」


 実際、制限下でどこまでやれるかは興味ある。

 興味はあるが、やはり能力者探しが本命。自分の実力は3だ。


(2番目はとの接触)


 。姓のない女。

 無効化能力を持つあの白い少女の名だ。


 結局のところ、分かったのは盗み聞きから得たその情報だけだ。

 おそらく真っ当な産まれではあるまい。


 彼女を匿っている男については詳細が知れた。


 水無月みなづき竜輝りゅうき。都内に2つある能力科のうち、私たちが通っていない方の高校に所属している1年生だ。


 雷の能力を持つが、完全な素人。

 ただ正義感が強く、そして喧嘩っ早い。


 中学2年生の折、いじめを止めるため電撃放射を用い、その場にいた者全てを病院送りにしている。無論、いじめられていた者も含めてだ。

 それからは能力に向き合うことにしたようで、能力科に進学することを決めた。

 といっても、我流であり大した強さでもない。


 だがもしも、闘技大会に出場できたなら、接触のチャンスになる。

 彼と仲良くすればアリスの確保もしやすくなるだろう。保護という形で。


(結局、能力のことはよく分からないままだし)


 思い出すのは、ホークアイの解剖に口出ししてきた館長(私が集めた能力者たちの管理者)とのやり取りである。


「解剖などと、正気ですか『コレクター』」


 どこから聞きつけたのか、館長が電話口で怒鳴ったのだ。


 私はてっきり展示品が失われたことに文句を言うのかと思ったが、意外にもそういった事に忌避感があったらしい。と感心したのもつかの間、こいつは言った。


「それではツギハギだらけの剥製になってしまうではないですか!」

「…………は?」


 つまりは、彼はホークアイの剥製を欲しがっていたらしい。


 彼はミュージアム、即ち博物館の館長であることに並々ならぬ拘りを抱いてしまったらしく、能力者の剥製を展示したいようだった。

 生死に拘らない筈である。むしろ死んだほうが都合が良いのではなかろうか。


 頭痛がした。あのサイコの上司だという事実にだ。

 私は悪人になることは許容したが猟奇犯になるつもりまではなかった。


 結局、彼の意思を尊重して皮は綺麗に剥ぎ取り解剖したが、能力の詳細は分からずじまいだった。哀れホークアイ。


 怪訝な顔をしているだろう私に華は言った。


「どしたの?」

「いや、ちょっと。嫌な事思い出した」


 何はともあれ。

 私は自分のやるべきこと――記入用紙への記載を終え、トーナメントへ想いを馳せるのだった。




 *




 応募者は三十人。つまりは5回勝利すれば優勝で、その一戦を俺は勝利で飾った。


 相手は3年生だったらしいが、俺からすれば所詮は素人。当然の結果だった。


「いやあ、トーナメント表を見た時は駄目かと思ったけど、危なげない勝利だったな岳人」


 零次の労わりに「当然だ」と返す。

 彼は呆れた表情を見せたが、特に苦言を呈するでもなく言った。


「女子の部は、次は時巡らしいぞ。見に行こうぜ」

「ああ、そうだな」


 男子は砂のグラウンドだが、女子は人工芝のグラウンドが会場だ。

 能力によっては人工芝が破壊されることになるだろうに、問題ないのだろうか。


 要らない心配をしている間に、目的地に着いた。

 ちょうど今から始まるようだ。


「小鳥遊は、どこだろう。人が多くて分からないな」

「探している間に試合が終わるぞ。ここでも十分見える」


 女子の部は、男子に比べて随分人が多いようだった。

 純粋に戦いを見に来たやつが少ないのは、男子どもの顔を見れば明らかだったが。


 困った奴らだが、素人など所詮はそんなものだろう。

 試合は両者向き合い、審判が手を上空に真っすぐ伸ばしていた。間もなく始まる。


 審判が手を勢いよく下ろした。


 空気が張り裂けたような爆音が響く。

 同時に、時巡は両腕を交差させ、大きく後退していた。


「風の放出、操作か」

「それも結構な威力に思えるけど。何今の音」


 確かに威力は高そうだが、今のは所詮初撃でしかない。

 真の恐ろしさを目の当たりにした零次が唸るように言った。


「えぐ。近づけないじゃん」

「……器用だな」


 対戦相手は、暴風を周囲に張り巡らせていた。

 まさに小型の台風である。


 しかもそれだけの操作能力を保ちながら、風の大砲を時巡に飛ばしているのだ。


 時巡は大砲を躱し、次の装弾が済むまでに台風を突破しなければならない。


(さて、どうする?)


 時巡は大砲を避けると地面に手を突き刺し……いや、あれは掴んでいるのか?


(まさか……)


 嫌な予感が的中した。

 時巡が人工芝を引きはがしたのだ。


 ここの人工芝は大きな一枚のシートだ。

 芝がうねり、大きな波となって風の能力者を襲った。


 大きく体勢を崩し、風の制御も解かれる。

 無論、その隙を見逃す時巡ではない。


 その驚異的な身体能力を発揮し、瞬時に距離を詰め突きを放った。

 鳩尾に命中し、相手は時巡へと力なくもたれかかる。勝負ありだ。




 *




「あんなに怒ることないと思わない?」

「いやあ、あれは流石に怒られるでしょ」


 機転を利かして勝った私だったが、先生にこれ以上はないほど怒られた。

 先生達の赤かったり青かったりする顔は大変おもしろかったが、怒られるのは不快である。


 そして愚痴すらも私の友人たちは許してくれないようで。

 ヘラヘラと笑う華と零次を私は半目で睨みつけた。


「おっ怖ぁ」

「流石の目力だね」


 零次はこれ見よがしに肩をすくませて、「でも」と続けた。


「あの対戦相手、優勝候補だったみたいだ。次からはグレーなことしなくても勝てるんじゃない?」

「だと良いけどね」


 問題は、ノーマークの相手が想定以上に強かったこと。

 私の知らない強者の可能性。


 それこそアリスのような、凶悪な能力者が隠れ潜んでいるのかもしれないのである。


 私は身震いした。


(それは同時に希望でもある)


 未だ影さえ見せない異世界への扉を開く能力者が、目前に現れるかもしれないのだから。

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