ここは遙か昔のイタリア:アヴェザ
ここでは奴隷国家の真っ只中。
俺もその奴隷の1人である。
15歳の頃、俺の父親が性悪の大富豪の奴に売り飛ばして、今年で3年が経つ。
この大きな壁の向こうへいつか大冒険出てやるんだ。
こんな性悪な奴の所で生涯を終えるなんて真っ平だ!
俺は絶対自由を手に入れてやるんだ!!!
俺の名前はトイ。
意味はよくわかんないけど、俺の親父が付けた名前らしい。
金欲しさに俺をこの富豪に売りつけた張本人なのに。
まぁ、過去のことなんてどうでもいい。
俺は今を生き延びて、自由を手に入れて安心して生きていける冒険にでるんだ。
さぁ、今日も最悪の1日が始まる。
富豪「さぁさぁ!!奴隷達よ!今日も私の為に朝から晩までしっかり働け!!口答えはするな!さぁさぁ働け!」
トイ「あぁ。今日も始まった。ちょっとでも手が止まれば直ぐに目を付けられる。ほんと困ったオッサンだよ」
メリ「そうだなぁ。俺はもう面倒事は勘弁だよ。早くこの壁の向こうへ出たいよ」
ダン「僕は・・・・もう希望が何にもないや。ずっとこのままなんじゃないかって思ってるよ。でも、壁の向こうには行きたいな。トイとメリと一緒に。僕も冒険にでたいな」
イシシっと笑うトイとメリ。
遠くを見つめながら何かに思いふけるダン。
そこへ兵隊の1人がやってきた。
兵「お前らっ!手を止めるな!喋ってる暇があるなら働け!旦那様に見つかるぞ!」
3人「は〜い」
口々に返事をしながら作業に入る。
そう。この兵隊も奴隷なのだ。
この壁の中は奴隷達で成り立っている。
何の壁を作っているかって?
俺らも知らない。
ただ、1つ聞いた事があるのはヴェローナで争い事が起きて、その飛び火がここにも来るかもしれないから、
旦那様の大切な大切な豪邸を守る為の高くて丈夫な壁を作ってるらしい。
俺はそれしか知らない。
飛び火なんてくるはず無いのに。
無駄なことに金をかけて、俺ら奴隷には1セントもくれない。
飯だって、その日あたるかあたらないかの瀬戸際。
必ず全員分くれるわけじゃないし、全員あたらない時もある。
そのせいで、野垂れ死んで逝った奴を何人も見てきた。
皆、俺よりも幼い子供だったり、体の弱い人や、年寄りだっていた。
神なんて信じない。
もし、本当にいるなら、この奴隷国家を終わらせて欲しい。
そんなことを、柄にもなく毎晩空に向かって祈る。
神なんて信じない奴が、そんなことをするんだぜ?
笑っちまうよな。
そんなことを続けて半年が過ぎた。
トイ「さ〜。今日も働きますよ〜っと。おーい!メリー、ダンー、起きろー朝だぞー」
ダン「トイ!大変だ!メリがいない!どこにも居ないんだ!」
トイ「は?いないってどういうことだよ!便所とか、朝飯とかじゃないのか!?」
ダン「僕も、そうだと思って見に行ったんだけど、居なかったんだ!」
トイ「なんで急に・・・と、とにかく作業場に行こう!何か分かるかもしれない・・・」
こんな急な事があってたまるか・・
昨日まで一緒にいたのに、毎日俺たち3人で一緒に壁の向こうへ行こうって話をしていたのに・・・!!
メリ・・どこにいるんだ・・!!
メリ「おいオッサン。早くここから出せよ。毎朝毎朝、働けって言ってる奴が、何故俺をこの地下牢に閉じ込める?俺が何をした!!」
富豪「まぁ、落ち着け。よしよし。実は昨日、私の大事な大事なお宝が盗まれてな。足跡が残っていたんで、辿ってみたら、お前さんの寝床まで続いていてな。お前・・・昨日どこにいた?」
メリ「俺は昨日、トイとダンと仕事が終わって直ぐに寝たよ。俺じゃない。寝てる時に扉が開く音が時間差で2回あったのは聞こえたけど・・俺はやっていない!!」
富豪「お前さんの言い分は分かった。だがな、お前さんが盗むのを見たという人物がいるんだよ」
メリ「誰だよ其奴。俺に罪を擦り付けたのか?」
富豪「誰かは言えんな、守秘義務と言うのがあるんでな」
メリ「くそっ・・・!!」
地下牢で鎖に繋がれ、濡れ衣を着せられるメリ。
どんなに暴れても、大きな声を出しても、誰にも聞こえない。
助けなんて以ての外。
誰も来ない、聞こえない。こんな地下牢で一体何をされるんだと不安になりながらも、
地下牢から脱出出来ないか辺りを見回す。
富豪「言っとくが、誰も助けには来んぞ?ここは地下30階の牢獄だからな!!!ハーッハッハッハッ」
メリ「・・・・っ(くそっ・・なんとしてでも此処を出なければ・・・何か方法は・・・トイッ・・ダンッ・・・!!)」
その頃、トイとダンは仕事はそっちの気で、メリをずっと探し走り回っていた。
トイ「ダンッ!!いたか!?」
ダン「ダメだ・・居ない・・」
体力に自信のある俺らですら、少し息を切らしている。
ここまで探してもいないなんて・・
本当に1人で壁の向こうへ行ったのか?
それとも、違うとこにいるのか?
違うとこ・・?
トイ「おいダン!ここ以外の作業場ないか!?」
ダン「作業場?僕たちがいる所以外は無いはず・・・後は、地下牢くらいしか・・・あっ!!」
2人「それだ!地下牢!!」
トイ「けど、その地下牢ってどうやって行くんだ?」
ダン「そもそも、本当に地下牢にいるなら、何でメリは地下牢に連れて行かれたんだろう・・・」
メリを見つける手がかりを見つけたのに、その場所が分からない2人。
そして連れていかれた理由が謎に包まれて居た。
トイ「ダン、とりあえず可能性があるだけだ。
後は連れていかれた理由と、その場所までの経路を俺たちで見つけないと。一度作業場に戻って、仕事をしながら、手がかりがないか探ってみよう」
ダン「うん。メリ、大丈夫かな・・ご飯食べてるかな・・」
トイ「きっと大丈夫だ。俺らよりも一番体が丈夫だからな!」
俺たちは急いで作業場へ戻り、2手に分かれて手がかりを探った。
俺は、地下牢までの入口や道がないか、ダンは昨日までの出来事で何か噂になってる物がないか、
俺たちの寝る部屋が同じで良かったと心底思うよ。
しかし、手がかりが無いまま1週間が過ぎてしまった。
トイ「何の手がかりもないまま、1週間が過ぎちまったな」
ダン「そうだね・・誰も何も知らないみたい・・」
トイ「何か、少しでも違うとこが見つかれば・・・」
ダン「トイ!静かに!シッ!!」
トイ「ッ!!」
反対の廊下から話し声が聞こえ、瞬時に旦那様の声だと分かった。
思わず俺らは物陰に隠れて聞き耳を立てた。
富豪「全く!!あいつはまだ盗んだ私の宝の隠し場所を吐かんのか!!」
兵「はい。数人でムチ等を用いて吐かせようとしているのですが、一行に吐く様子がございません。なので、ムチではなく、アイアン・メイデンを使用して吐かせようと思っている所存であります!許可頂けますか!」
富豪に向かって敬礼をしながら、この時代最凶の拷問器具アイアン・メイデンを使うと言う。
しかし、それは誰に向けてなんだろうか・・・
宝を盗んだやつなんて、ここ最近いたか?
そう考えたりしている間に、あれよこれよと話が進んでしまった。
富豪「うむ。いいだろう、許可しよう。あの拷問器具は地下15階の器具室にあるはずだ。重たいから数人で運ぶように。もし壊しでもしたら、お前さんらもメリと同様に地下牢に閉じ込めるからな!ハーッハッハッハッ」
兵「はっ!!肝に銘じます!!決行は3日後に行います!」
会話が俺らの目の前を通り過ぎていった。
全て繋がった。
キーワードは3つ。
メリ、1週間、地下牢。
俺らが求めていた手がかりの糸が繋がった。
恐らく、ダンも同じ事を考えてるはずだ。
トイ「ダン、聞こえたか?」
ダン「全部聞こえた。メリが盗みなんてするはずない。濡れ衣を着せられてるんだ。早く助けに行かないと!!」
走り出そうとするダンを引き止めた。
トイ「待てダン。焦るな。アイアン・メイデンはかなり重たい器具だ。あれを運ぶには最低でも10人はいるぞ。俺が考えてることわかるか?」
ダン「・・・ごめん、早く助けに行きたくて・・」
トイ「気持ちは分かる。俺も同じだ。けど、まず先にやるべき事は?」
ダン「濡れ衣を着せた張本人、つまり真犯人を探しだして、上手くそいつと一緒に器具を運ぶ要員として、地下牢に行く」
トイ「正解。じゃあ、まずは1週間前に旦那様の宝を盗んだ犯人探しだな。あの日の夜に何か変わった事あったか?」
ダン「んー。あの日の夜、いつも通り寝たはずなんだけど・・・あ!そういえば、足音がした!」
トイ「足音?」
ダン「そう!時間差で2回もしたんだ。一度目は僕らが寝静まった直後で、二度目はその4時間後くらいにしたんだ」
トイ「さすがショートスリーパーだな」
ダン「トイかメリがトイレに行ったのかなって思って、あまり気にしていなかったんだ」
トイ「なるほどな?てことは、誰かが俺らの部屋に忍びこんで、メリに濡れ衣が被るようにアリバイを作ったわけだな?」
ダン「でも、メリの寝姿の影がうっすらとだけど見えていたから・・・」
トイ「誰かが入ってきたりは?」
ダン「あったような・・・でも、その影もタンクトップに長髪で、メリのシルエットとそっくりだったから・・」
トイ「てことは・・・だ。」
ダン「誰かがメリに成りすましてアリバイを作り、濡れ衣を着せたってことか!!」
トイ「そういうこと!!」
ダン「じゃあ、まずはメリと背格好似てる人を片っ端から・・!!!」
トイ「ダン?ダーン?ダンくーん?」
ダン「あ、あ・・・」
トイ「ちょっと出てる出てる。お前のブラックな部分が出てる。とても滲み出てる」
ダン「ご、ごめん」
トイ「いいよ。早く見つけにいこう!」
ダン「うん!」
俺らは、メリと背格好が似た奴探し始めた。
早く・・・早く見つけないとメリがアイアン・メイデンで処される・・
それだけは何としてでも避けたい。
急げ。見つけるんだ。助けるために!!
トイ「ダン!ダメだ!もう一度、二手にわかれよう!終業の時間にここで合流だ!」
ダン「分かった!気をつけてね、トイ」
トイ「ああ。ダンも気をつけろよ」
僕らは二手にわかれた。
トイはいつも、僕に比較的安全な方を探すように言ってくる。
ねえトイ。僕も男、なんだけど。
どうして自分だけ危ない方に行くの?
トイは優しいから、きっと僕に危ない思いをさせて怪我をさせたくないんだと思うんだ。
でもね、それは僕も同じだよ?
友達、でしょ?
そう思いながら、本来の目的を遂行し始めた。
その時、曲がり角である人物にぶつかってしまった。
ダン「あ、ご、ごめんなさい!」
?「ああ、こっちこそ申し訳ない・・怪我はないかい?」
ダン「はい、大丈夫です・・・・(見ない顔だな。新入りか?)」
?「良かった。じゃあ、僕はこれで」
ダン「あ、はい。よそ見しててすいませんでした!」
誰だろう・・新入りが入るなんて珍しいな・・
にしても、身長も歩き方もメリと似ていたな・・
ダン「まさかね・・・」
一応、トイと合流したら報告しとこう。
そして、念の為あの人もマークしとこう。
きっと何かあるはずだ。
メリ、きっと助けに行くから・・・
トイと一緒に助けに行くから・・・
続く