弘人全力の死ね。
「あらひろ君そんな悪口言っちゃだめよ」
燐菜は諭すように弘人の頭を撫でる。
「お前はママか」
振り払おうと試みるもやはり振り払えない。この女、実は笊斗以上の脳筋疑惑がある。
幸音はそんな二人の姿を見て、力なくうなだれた。
「……仲良いんだね二人は。どっちも素が出てるっぽいし……」
「残念だけどこいつの素はこれじゃねぇよ。俺は大体こんなんだけどこいつはもっと腹黒い」
「ひどいわひろ君」
「おいアバズレこれ以上俺を馬鹿にすんな」
「私相手には猫被ってるの?」
幸音は何が言いたいのだろうか。弘人は思考が読めず上手い回答が思いつかない。
「え? いや被ってないって言うか君にも割と普通に接してると思うけど……」
「まだ分からないの? ひろ君は好きな相手には奥手なのよ」
「なっ!」
「ちゃうわぼけい! 好きじゃないわい!」
燐菜は口を開けば爆弾発言ばかり。味方撃ちに長けたこの女をどうにか静かにせねば、関係が今以上こじれかねん。弘人は幸音に対する注意の九割を燐菜に向ける。
「そうなのぉ?」
この女、弘人の考えに気づいている。静かに距離が、しかし着実に離れている。遠距離狙撃か。
「あ、えっとさ……言っておこうかな……」
幸音は本当に言うべきか否か迷っているかのようにうーんとしばし沈黙する。
「何を?」
幸音にまでとんでもない言葉を言われたら弘人は死ぬだろう。そう確信できた。
「私、ちょっと前に告白されたんだ」
「おめでとう僕たち二人はあなたの恋路を応援しますなぁ燐菜?」
「えぇ乙女の恋は何よりも美しいのだから私は永久に味方よ」
弘人にとっては全く恐ろしい言葉では無く、寧ろ歓迎すべき発言だった。燐菜と手を繋いで笑いながらその場を回る。
「……おっけーした方がいいの……かな?」
幸音は弘人と燐菜に問う。二人はもう彼女が付き合い始めるとばかり思っていたもので、唐突なダンスは中断された。
「してないの? したほうがいいって。誰かは分からないけど」
「石倉君」
その名前は。
弘人と燐菜は顔合わせ発言に戸惑った。
「つ、繋がっちゃうのか―……」
だからしつこかったのか? なんて弘人は思う。毎日のように言ってきたのには理由があったのか。
「あらあら面白い展開ねひろ君」
「つまんねーと言って欲しいな。俺はつまんねぇ。てっきり平川かと思ったわ」
「平川君? なんで?」
「いや適当だけど。石倉と話したことあるの?」
弘人は幸音が石倉と仲睦まじい様子を確認したことは無かった。
「去年も同じクラスだったから」
「ほへぇ~……」
去年からの繋がりであればそれはもう強固なものであろう。まさか年度を超えた恋があるとは。弘人にとっては初体験だ。
「で、許可するの? 彼は犯罪者よ」
「お前が言うと何か気持ち悪いな燐菜」
本当に気持ち悪かった。