弘人はスプーンをクルクルと回すと、それを少女の背中へと向けた。掬うような動作を行う。
すると、どす黒く不吉な色の光がスプーンに乗るように発生した。上でもぞもぞと蠢き、まるでムカデが集まって球体を成していると感じるほどの禍々しさ。
だが弘人は特に気にすることはなく、流れるようにネズミの入ったケースを開け、中に球体を入れた。
「これでしばらくは大丈夫だ」
弘人はそう言いながら瞬時にケースを閉め、雑に床へと置く。何やらケースがカンカンと激しい音を鳴らすが一切気にしない。
「ひろ君ありがとう。これで今日も人を殺さなくて済むわ」
弘人に好意を持っているのかいないのか、透き通った声で妖艶な表情を向けてくる少女。何やら不謹慎な言葉を発している。
「ひろ君言うなきもい」
弘人は不吉な言葉には触れず返事をした。
「あら、私みたいな可愛い女子高生にあだ名で言われたことが気に入らないなんて枯れてるわね」
「……」
弘人はこれ以上何か言うことは無かった。
「俺も頼む。もう今すぐにでも燐菜の身体をしゃぶりたくてやべぇんだ……」
また一人と犯罪者発言が響く。弘人ははいはいと顔を向ける。
長髪の少女―燐菜の匂いを嗅ぐように顔を近づけ、勢いよく息を吸い込んでいるどう見ても変態な男。柔道着を着ておりいかにも武闘派というような風貌だが、局部が服を突き破るかのようにたくましく咲き誇り、その勇ましさは遥か彼方へと消えていた。
視線は胸に向かっており、舌なめずりも止まらない。
「そんなことしたらすぐにでも息の根を止めてあげるわ」
燐菜は冷たく見下した目を男に向ける。
「ハッ! やってみろよ女風情が」
男も何やらやる気満々のご様子だったので、弘人は面倒そうに頭を掻いて制止する。
「喧嘩すんな犯罪者予備軍共」
「わりぃ」
誰の言うことも聞かないような男ではあるが、弘人の言うことには素直に従うようで大人しく黙る。
「ネズミももういないからお前は自分に向けさせるのがいいよね」
「ハハッ! 自分をおかずに抜くってのも悪くはねぇな。構わねーよはよやってくれい」
弘人は頷き男の背中に回ると、燐菜と同じ動作で球体を取り出し改竄を経て静かに戻した。
「うぃ~……ありがとよ……」
男が気色悪く感謝すると、弘人はポケットから鍵を取り出し二人の手錠を外した。
「じゃ、トイレで抜いてくるわ」
男は自由になるや否やすぐさまズボンを脱ぎ捨て局部を強く握り、あろうことかその場でしごき始めた。
「笊斗は相変わらず変態だなぁ」
弘人は苦笑いする。
柔道着の男―笊斗は、心なしか燐菜に見せつけるかのように事を行っている。辱めたいのだろう。しかし、燐菜は表情を一切変えることなく凝視していた。
「あらあら、質素なものをこちらに向けないでくれませんか? ざーるちゃん?」
男としては中々に辛い言葉を投げかけられたが、笊斗は寧ろ興奮する。
「へっ! そう言ってもらえるとうっ! はぁはぁはぁもっともっとだ燐菜。もっと罵ってくれ!」
「おい笊斗さっさとトイレ行け。そのぶっ放したのは掃除しといてやるからさ」
この男はこのまま続けるつもりのように感じ、面倒ごとを嫌った弘人は追い出すようにジェスチャーする。
「あー、わりぃわりぃ。いい女に見られてしこるってのは気持ちよくてよ。じゃ、行ってくるわ」
笊斗は軽く謝罪すると、局部を高速で動かし白濁液を飛び散らせながら廊下へと出て行く。
「きゃっ! 高梨君何してるのっ!?」
可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。
運悪く新人教師の亜紀平優実と出くわしたようだ。
「すまん優実ちゃん。ちょっとトイレ行ってくるんだ」
「は、早く行って来て!」
亜紀平は二十五という若さで顔も良く親しみのある性格であることから、まれに男子生徒に下ネタを振られることがある。
特に笊斗とはかなりの頻度で出くわしており、よく生活指導部に通報していたが、最近は通報が追いつかないレベルの遭遇の為諦めている哀れな先生。
「ざるちゃんは相変わらず気持ち悪いわね」
燐菜が声の方に顔を向けて言う。それには弘人も同意だ。
「先生に見られて平気って、いつも思うが相当イカレてる気がする」
笊斗は性欲が異常に強いだけでは済まない何かがあるような気さえするほどだ。
「それにしても、相変わらず凄い力ねひーろちゃん?」
「ひろちゃん言うな」
自他の溢れ出た欲求のなすりつけ、またはその矛先の変更。
弘人は、人の暴走しかけた欲を操作し制御する力を持っている。
特に燐菜と笊斗は人とは思えぬほどの欲求を持っており、今回で言えば燐菜は人外へと移し替え、他者を犯すことに向いている笊斗は自分自身に変更させていた。
「ひろ君かーえーろ?」
燐菜は服装を整え可愛らしく弘人を見つめる。笊斗に関してはもうどうでもいいようだ。
「そうだね」
弘人もそれに同意した。
二人が教室を後にする。
その場に放置されたケースは血まみれとなっており、中にいたネズミは息絶えていた。