「でさでさー」
「……」
幸音の事が特別嫌いなわけでも無いため強く拒むことはしないが、正直話しかけてこないで欲しかった。話自体は良くてもそれより早く眠りたい。授業中なるべく寝ないためには休み時間の10分間を寝ていなければならない。かなりあからさまに嫌がる顔もしてみたが、幸音には全く効いてないようで、そのまま授業まで話す羽目になった。
「弘人くーん。また誰かに使ってみてよ」
授業が始まったのにこちらとの会話を続ける幸音。流石にこればかりは眠いのもそうだが生徒としてどうかと思うので弘人は黙らせることに決めた。
「今度は坂下さんが寝てみれば?」
「私に使ってくれるの!?」
大声。
「坂下さん、授業中ですよ」
「あ、ごめんなさい」
数学教師に怒られてやっと黙る幸音。
「じゃ、後で弘人く」
弘人は幸音に向けて手を振る。
「あ、ちょっとすっごい眠気が……ごめん寝る……むにゃむにゃ……」
急に眠り出す幸音。小さく呼吸をして気持ちよさそうにこちらへ笑みを浮かべて寝ている。弘人はそれを一瞥すると大きくため息をついた。
「……」
「梓苅君この問題を答えてください」
指名される弘人。前を向くと問題を指でコンコンと叩きながら教師がこちらを見ていた。日付には丁度自分の番号。今日はラッキーデーのようだ。
「はい」
弘人は大きな声で返事をすると、軽い足取りで問題を解きに行った。いつもと違う姿に教師は驚く。
「な、何か元気ですね梓苅君」
「なんでですかねぇ」
曖昧な返事をすると、一番前の席にいた男が言う。
「さっきの授業ずっと寝てたからだろ!」
「おい言うな」
「ハハハ!」
周りは騒々しく笑い、久しぶりにクラスの一員となった雰囲気があった。これはこれで気分が良い。そしてここで完璧な回答を行えば、クラスメイト達は自分に感心しめでたく友達多い人に格上げされることだろう。
「不正解です梓苅君」
「え」
駄目だった。
頭の回転は絶好調では無かったようだ。
だがこの授業は一切眠ることなく終えることが出来た。十分良かったといえる。
「すぴー……むにゃむにゃ……焼き芋……」
また、幸音はすごく幸せそうに寝ていた。
放課後――
「弘人く」
幸音が何か言いかけていたが、弘人は聞くことなく駆け足で教室から消えていく。
「……」
幸音が不満そうにその背中を見ていると、弘人とすれ違うようにラケットを持ったショートボブの生徒が顔を出す。
「ゆーっきね! 部活いこー!」
「陽花里! 待ってて―!」
―――――
「……」
弘人はカビ臭く澱んだ空気の廊下を歩く。蜘蛛の巣も至る所に張っており、如何にも何か出てきそうな雰囲気だ。おまけに何やら事の後が垣間見える物も落ちている。床に足を付けるだけで埃が舞い起こり、ズボンの裾が汚されていくが気にする様子は見せない。
やがて無駄に手入れが施されている部屋の前まで行くと、ガラッと扉を開け中に入る。
奥の方を覗くと、制服の上に黒のコートを羽織った長い黒髪の少女、柔道着を来たはちきれんばかりの肉体を持つ男が両手を手錠で拘束されていた。
少女の表情からは恐ろしい程の殺気を感じ、男は息を荒くして異常な大きさの局部を脈打たせている。
まさに異様の光景といえるが、弘人は平然と近づいて行った。少女が弘人ににこやかな笑みを浮かべ口を開く。
「今日もお願いするわね」
「あぁ」
弘人は静かに答えると少女の背中に向かい、その後どこからか一本のありふれたスプーンを取り出した。