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イア;メメント モリ
イア;メメント モリ
円野燈
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年03月25日
公開日
1.5万字
連載中
 この世界はいったい誰のせいなのか。

 中央ヨーロッパのとある都市。この街には、人間の濁った魂を食らう悪魔が現れていた。その悪魔を祓い、濁った人間の魂を救う特別な力を持つ『使徒』と呼ばれる者たちは、人々にヒーローのように慕われていた。
 ある日、使徒の戦いに遭遇したペトロはユダに声を掛けられ、仲間になってほしいと誘われる。使徒にはなれる条件があり、それを自覚するペトロは使徒になることを決意する。
 使徒の一員となったペトロは、仲間たちと共同生活を始める。世間に存在を認められている使徒は企業のイメージキャラクターを生業にするモデルの一面もあり、事務所も立ち上げていた。戦いの経験を積み、使徒とモデルの二足のわらじが始まると、記憶喪失でありながらも社長を務めるユダが自らマネージャーとなり、二人三脚で仕事をしていく。ペトロに恋愛感情を抱くユダは少しずつ思いを伝え、優しいユダにペトロも次第に心を許していくが……。
 ある時、悪魔とは違う存在が現れる。その名前は『死徒』。この世に彷徨う怨念の集合体で、『ゴエティア』という悪魔を使役する彼らの存在は新たな戦いを呼ぶとともに使徒の精神を脅かし、ユダとペトロの運命を動かし始める。
 ユダの記憶喪失と関係する、彼に課せられていた“責務”と、死徒との“因縁”。それが明らかとなった時に突き付けられる現実とは。
 使徒は亡き者たちの思いを受け止め、未来を切り開けるのか。そして、ユダとペトロの未来は……!?

第1話 守護する者



 近世と現代が入り混じり、所々に現れる感性溢れ出るクリエイティブと、忘れ得ぬ痛みの記憶が残る街に多様な人々が住まう、中央ヨーロッパの緑豊かなとある首都。

 今この街には、異様な事態が起きていた。




「次は……。ブランデンブルク門の方が近いな」


 デリバリーのアルバイトをするペトロは、スマホで最寄りの配達先を確認すると、愛用の電動キックボードに乗って目的地を目指した。芳春の街を走り出すと、ヘルメットでは隠しきれないブロンドが風に靡く。


 その頃、ペトロが向かっていたブランデンブルク門周辺では、ある騒ぎが起きようとしていた。


「うぅっ……ぐ……ああ……」

「お、おい。大丈夫か?」


 歩いていた男性が突然苦しみ出し、地面に蹲った。一緒にいた男性は友人が苦しむ姿に困惑しながら、クリニックに連絡しようとスマホを手にした。

 その時だった。


「ゔぁあああっ!」


 苦しみに足掻くように、血の気を引かせた男性は叫んだ。

 するとその身体から、黒い霧のようなものが大量に吹き出し、人と変わらない大きさの異形を形作った。男性と鎖で繋がったはもちろん人ではなく、悪霊でもなく。


「あ……悪魔だっ!」


 一緒にいた男性は友人に負けず劣らずの血の気を引かせて、腰を抜かした。


「悪魔だって!?」

「悪魔だ! 逃げろ!」


「悪魔」の一言を聞いた周囲にいた人々は反射的に逃げ出し、腰を抜かした男性も四つん這いになりながら悪魔に憑依された友人を見捨ててその場から離れた。


「グ@µゥ!」


 獣のような言葉にならない声を発する悪魔は、逃げ惑う人々をターゲットにして悪行を成そうと襲い掛かろうとした。

 そんな混乱の渦中に、三人の青年が丸腰で降り立った。


戦闘領域レギオン・シュラハト!」


 彼らを中心にして半透明のバリアが広がっていき、逃げ遅れていた一般人は展開とともに戦闘領域の外へと瞬間移動した。


「こんな感じで毎回近くなら、ダッシュしなくて済むんだけどな」


 アルバイト先の飲食店のユニフォームのままで来たヤコブがぼやく。そんなヤコブにヨハネは提案する。


「頼んでみるか? 僕たちがいる1km以内の範囲で出てくれって」

「話通じなそうだよなー。お前、通訳できない?」

「みんなができないならムリに決まってるだろ」

「それよりも、TPOじゃない?」


 ユダは締めていたネクタイを緩めた。


「わかるわー。だけどユダ。お前の今日の服装もTPO弁えてなくね?」

「スーツなのは勘弁してよ、ヤコブくん。仕事中だったんだから」


 三人が悠長に駄弁だべっているあいだ、捕食の邪魔をされた悪魔は倒れた男性と呼応するように苦しそうな唸り声を上げ続ける。


「⊅う§て、あのζ&……。自∂の§い、⊅……」


 その声は時に人の言葉を発した。


「やりましょう。ユダ」

「そうだね。開放してあげよう」

「んじゃ、オレが行くわ」

「よろしく。ヤコブくん」


《潜入《インフィルトラツィオン》!》


 倒れて気を失っている男性の傍らに移動したヤコブは目を瞑り、男性の深層へと自身の意識を潜入させた。

 そのあいだ、ユダとヨハネが悪魔の相手を引き受ける。


祝福の光雨リヒトリーゲン・ジーゲン!」


 ユダは雨のように無数の光の粒を降らせ、


天の罰雷ドンナー・ヒンメル!」


 ヨハネは雲もない空から雷のような光を悪魔を目掛けて落とした。


「グ&%ッ!」


 避けた悪魔だったが回避しきれず一部を食らった。それで完全に二人に狙いを変えた悪魔は、標識を根本からへし折り己の武器とした。

 武器を手にした悪魔は振り回し、ユダとヨハネに襲い掛かり突き刺そうとするが、二人は軽々と回避する。


「ウ"#€ァッ!」


 ヨハネが跳躍して避けると、コンクリートの地面にドリルを使ったように穴が開いた。


「原始的な戦闘をするやつだな!」


 ヨハネは停まっていたトラックの荷台の上に着地した。


「地面に穴開けないでよ……。戦闘領域を解除したら元通りだからいいんだけど」


 目標を変更した悪魔は今度はユダを狙うが、メガネを掛けたスーツ姿でも戦闘に支障はないユダも見切っているかのように攻撃を回避し、噴水前に着地した。

 その後も、ユダとヨハネが優勢のままで悪魔を疲弊させる。


「これなら、ヤコブくんが戻って来るまで少し大人しくしててもらえばいいかな」

「そうですね。あとは、拘束しておきましょう」


 ユダの判断で、ヨハネが悪魔に十字の楔カイル・クロイツェスを掛けようとした時だった。

 何を考えたのか、悪魔は二人とは真反対の方向の門の方に向けて標識を槍のように投げた。そっちには誰もいるはずがなかったが、なぜか一般人が一人だけ戦闘領域内に立ち入っていた。


「どうして……!?」

(領域内に一般人は入れないはずなのに!)


 ユダはその一般人を巻き込むまいと瞬時に反応し、地面を蹴った。


心具象出ヴァッフェ・ダーシュテーレン──── 〈悔責バイヒテ〉!」


 そして自身の武器の大鎌を出現させ、彼に直撃する寸前で標識を両断した。

 自分が今どういう状況に置かれているのかを半分理解して半分混乱するペトロは、驚倒しそうなほどの出来事に言葉が出なかった。


「きみ! 大丈……ぶ……」


 無事を確認しようと振り向いたユダは、ペトロの碧眼と視線がぶつかった。


「ユダ! その人、大丈夫ですか!?」


 悪魔を拘束したヨハネが訊くが、ユダは振り返りもしない。悪魔は身動きが取れないから、多少のゆとりはある。

 とはいえ戦闘中だというのに、ユダはとんでもない行動に出た。


「あの! このあと、お時間ありますか?」

「……え?」


 ペトロは思い切り怪訝な表情をした。命の恩人でまともそうな見た目だが、突然ナンパ紛いな声掛けをされれば仕方がない。


「あ。誤解しないで。変な勧誘とかじゃないので。ちょっと話をしたいんです」

「……」


 初対面で怪訝な表情を向け疑念の眼差しを向けるのも失礼だと思いつつも、ペトロは唐突な声掛けに少しだけ警戒する。


「ダメですか? 少しでいいんですが」

「いや。でも……」

「お願いします。私は、きみを探してたんです」

「えっ……」

「ユダ! 何してるんですか!」


 戦闘をサボるユダを、ヨハネはちょっと怒り気味で呼んだ。


「今戻るよ! ……すぐに終わるので、門の外でちょっと待っててもらえませんか」

「え……。あ。はい……」


 怪しい人物ではないことは承知していたペトロは、とりあえず了承の返事をしてUターンした。

 ペトロが領域外に出たのが確認されると、ちょうど潜入インフィルトラツィオンしていたヤコブも帰還した。


「大丈夫か、ヤコブ」

「問題ない。あとは頼む」

心具象出ヴァッフェ・ダーシュテーレン──── 〈苛念ゲクイエルト〉!」


 ヨハネも自身の武器の長槍を出現させ、男性と悪魔を繋いでいた鎖を断ち切った。


「天よ。濁りし魂に導きの光を!」


 そしてユダが〈悔責バイヒテ〉で悪魔を切り裂いた。


「グ$&ア#ァ……!」


 真っ二つになった悪魔は断末魔を上げ、塵と化して消え去った。


「ありがとう、ヤコブくん。大丈夫?」

「もう何度やってると思ってんだよ」


 同時に戦闘領域も解除され、逃げた友人が倒れた男性のもとへ駆け寄り、無事を確認すると安堵した。

 彼だけではなく、逃げた人々も喜びの表情を湛えながら三人に近寄って来た。


「来てくれて助かったよ!」

「やっぱり頼りになるわ!」

「ありがとう。『使徒』のみなさん!」


 悪魔を祓い一人の人間を救った彼ら『使徒』に一般人らは拍手し、感謝のハグをした。

 戦闘が終わると、彼らは毎度こんな感じで「ヒーロー」のような扱いを受けている。いつの間にか恒例となったが、市民に受け入れられ信頼されている証だ。

 するとユダはハグを切り上げて、門の方へ向かって行った。


「ユダのやつ、どこ行くんだよ」

「さっき見つけたみたいなんだ。探してた人を」

「なるほど」


 ペトロは約束通り、門の近くで待っていてくれた。


「待っててくれてありがとう。もしかしたら帰っちゃったかと思ってました」

「引き止められたんで、一応」

「実は、ぜひお話したいことがあるんです。今、時間は大丈夫ですか?」

「いや。まだバイトの途中なんで」

「あ。そうなんですね」

(そういえば、デリバリーの格好……)

「でも。夕方には終わる予定だから、そのあとなら……」

「本当ですか? よかった。じゃあ、この住所に来てもらえますか」


 ユダはジャケットの内ポケットから名刺を出して渡し、「それじゃあ、待ってますね」と仲間のもとへと戻って行った。

 ペトロは受け取った名刺に目を落とした。


J3Sヤットドライエス芸能事務所……」




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