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第13話「欠けたピース」

 〈アルキオネ〉と分離した〈マイア〉が、上昇しながら離脱していくのを傍目に、アカネはリリーの真横の位置についた。離脱した〈マイア〉は、このままクロアントゥウス採掘基地へと向かっていくのだろう。

 その正面では無数の光が明滅を繰り返しており、激しい攻防戦が繰り広げられるのが分かった。後方では、船の後部デッキから発艦した兵員輸送船〈アルバトロス〉が控えている。この船に採掘基地の人員を保護するというわけだ。

「基地の設備はほとんど自動化されているんだから、あんな小さい船でも足りるんだ......」

 左肩に増設されたプラズマランチャーの調子を確認しつつも、アカネはミナトのことを考えずにはいられなかった。

 アカネが最後に彼を見たのは、ガルダによってブリーフィングルームに押し戻される様子だ。そしてその時の表情、理不尽を目前にした時の表情が、目に焼き付いて離れない。

 それを感じ取ったのか、リリーがそっと近づいて手を触れた。接触回線でのクローズドな通信が開かれ、『彼が心配?』と声が聞こえる。

 戦闘時でのプライベート通信はご法度だが、今回はリリーが気を回してくれたのだろう。

 アカネは正直に言うかどうか迷って、彼女の言葉に同意した。

「うん、ちょっとね......たった二週間で私に追いつくほどの執念があって、ここまで来たのにさって」

『私は逆にこれで良かったんじゃないかって思うよ』

「......え?」

 リリーの言っていることがあまりにも予想外だったので、思わず困惑した。

『彼、向いてないよ。こういうの』

「向いてない?」

『だって、いい人だもの』

 いい人、という言葉が、丘の上で見た哀しい横顔を脳裏に蘇らせた。自分も同じだと告げたあの表情は、確かに失う悲しみを知っていた。

「そうだよ......彼は私とおんなじだって......」

 五歳の時に両親をテロで失い、それからずっと胸に穴が空いた気がしていた。タハティに入ってテロリストを殺しても、結局穴は埋まらなかった。

 そして言われるがままに任務を行い、人を殺していけば、胸に空いた穴の痛みなど気にしている暇などないのだ。

 リリーはずっと隣にいてくれたけど、それでも......

『気に掛けるの、分かるよ。私もそうだから』

「リリー......」

 だからさ、と言ってリリーが離れていくと、ノイズ交じりの声で『少し妬ける』とだけ聞こえた。

 自分だって彼とデートしてたくせに、と心の中で呟いたが、すぐにそれは違うと分かって自嘲気味に笑う。

「そうだ。自分のことみたいで、辛いんだ」

 口に出してしまえばなんてことない、ミナトに自分を重ね合わせていただけで、それ以上のものではないのだ。

 スッキリとした思考に、ガルダの声が流れ込む。

『俺とアカネが前線で時間を稼ぐ。リリーは〈アルバトロス〉と共に基地に降り立ち、地表から俺たちの援護を頼む。作業員を収容し次第、採掘基地は放棄し、前線を離脱する』

「——了解」

 腰から〈カレトヴルッフ〉を抜き放ち、ガルダと共に先行する。ガルダは両腕にプラズマキャスターの〈クレルヴォ〉を装備し、他にもありったけのマイクロミサイルなどを搭載した重装仕様になっていた。

 ミナトには自分と同じようになって欲しくない、と思う。だから、だからこそ......

「私たちでケリをつけなきゃいけないんだ......!」

 プラズマランチャーを展開し、照準を定める。そして、防衛隊の戦闘機に追いすがろうとするタイラント目掛けて、プラズマを照射した。

 プラズマがタイラントの胴体を貫き、爆発する。それを確認したアカネは、ランチャーを収納して一気に加速をかけた。

 ランチャーの再充填と冷却には時間がかかるので、その間は接近戦を挑まなければならない。通り魔的に一体を両断すると、すぐ横で防衛隊の船が爆発した。衝撃波に煽られながらも、そこから逃げようとするタイラントをランチャーで撃ち抜いた。

「今回は数が多い!」

 次の目標に狙いを定めながら、アカネは叫んだ。前回の輸送船を防衛した時とは違って、今回の数は前回の比ではなかった。ここまで本気なら、アイラが言っていたようにタイラントたちはエーテリウムを欲しがっているのだろう。

 その中を、〈アルバトロス〉とリリーが縫うようにして基地へと飛んでいくのが見える。

 幸い敵はこちらに釘付けになってくれているので、今すぐに撃墜されるようなことはないだろう。しかし——

「——何、この嫌な感じ......」

 この戦場には、どこか不吉なものを感じざるを得なかった。その時、〈コヨーテ・カスタム〉のワイヤーが背中に張り付き、接触回線が開かれた。

『動きを止めてる暇はないぞ! 俺たちが引き寄せないといけないんだからな!』

「はっ! すいません......」

 互いに背中合わせになり、あちこちを飛び回るタイラントを迎撃していく。特にガルダの弾幕は凄まじく、雨のように降り注ぐマイクロミサイルとプラズマがあっという間にタイラントを削り取っていった。

『リリーたちは、無事に降下出来たようだな』

「えぇ、そうみたいです」

『一人前のパイロットなら、任務はしっかりやってみせろよ!』

「はい!」

 ワイヤーが外れ、ガルダの背中が遠くなっていく。それを見送りながら、「隊長は私が単純な人間だと思っているの......?」と一人ごちた。


 その頃〈アルキオネ〉のブリッジでは、メリルが船長席で居心地悪そうに宇宙服の襟を緩めていた。

「嫌なんだよな......こういうのって」

 何の因果か、技術開発部にいたはずのメリルはこうやって前線に出る船の船長をやって、戦争までしている。だが、それ自体はさほど問題ではない。

 問題はタイラントと、そして〈ジャッカル〉だ。ブリーチ技術、CPドライブ、それらはまだ人類が扱える技術だ。しかしあれらはなんだ? 明らかに人類の理解を超えているような気がしてならない。

「オカルトじみているんだ。何もかも」

 呟いたのはいいものの、隣にいる副長のエレンが怪訝そうな顔をすれば、少し気まずくもなるのだった。それを払拭したくて、立ち上がって声を張り上げる。

「三百六十度監視は、怠るなよ! 後方にいるとはいえ、こっちの戦力は全て出しているのだからな!」

 どかっと座り込み、ため息を吐く。「お疲れですか?」とエレン。

「そりゃあ、エイリアンと戦っていればさ、ねぇ?」

 肩を竦めると、エレンも「ですね」と苦笑した。

「そういえば彼は、ミナト・ヒイラギはどうしてる?」

「あぁ、ガルダ隊長の指示でブリーフィングルームにいるはずです」

 手元のモニターを操作すると、ブリーフィングルームでうなだれているミナトの姿が見えた。

「いざとなれば、彼に出てもらうか......?」

 動けないと分かっていても、流石に不憫だと思って言ってしまった。しかしそれが正しいのかどうか、メリルは分からなくなった。

「予備機の〈コヨーテ〉の装備、全部持って行っちゃったんでしょう? 丸腰も同然ですよ」

「え、全部?」

 子供を戦場に出すから、よく分からなくなるんだ、と考え込んでしまったせいで、生返事になってしまっていた。

「まぁどのみち〈ジャッカル〉は動かないなら......」

 そう上手く取り繕うとした時、鈍い衝撃音がしたかと思うと、船が大きく揺れた。ブリッジの照明が落ち、赤色灯に切り替わる。

「何があった!」

「スラスターがやられました!」

「クソッ! ダメージコントロール急げよ!」

 メリルは悪態をつきながら、ヘルメットを被った。こういう狭いものに押し込められるのは嫌いだが、命がかかっているとなれば話は別だった。

「どうして補足できなかった? 対空監視は何をしてたんだ!」

「お、恐らく動力を切って、慣性で移動してきたのかと......」

 タイラントやCPドライブの放出するブリーチ干渉波が、レーダーや通信を使えなくすることは分かっている。だからこそ現代では熱を探知する方法で索敵しているのだ。

 だがその熱すらも探知できなかったとなれば......

「冬眠でもしてたというのか!」

「後方五時に敵影! 数は三です!」

「まだ来るか! 味方機に後退信号を!」

 これはマズいぞ、とメリルは胸中で現状を呪った。この船にはタイラントに対抗できる武装はほとんどないと言ってもいいのだ。たとえ十分な装備があったとしても、接近戦を挑まれれば鈍重な輸送船に勝ち目はない。

 それにガルダたちの後退が間に合わなければ、〈アルキオネ〉だけで迎撃できる可能性は......

「ならば、どうすればいい......!」

 タイラントが直撃した衝撃に揺られながら、メリルはひじ掛けを強く握りしめた。


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