「やっぱりキリがない!」
アカネはプラズマランチャーを連射するが、砲身がぶれてタイラントに当たる気配がない。出力を絞って連射できるようにしたものの、命中しても有効打にはならなかった。
「アームがブレて上手く狙えない! メカニックは手抜き仕事か!」
プラズマを避けて飛んでくるタイラントを下から抉るように剣を振り上げて、両断する。そしてその勢いのまま上下反転してアカネの上方に飛ぶ。
数分前にはすでに、〈カメリア〉のセンサーは、〈アルキオネ〉から放たれた発行信号をしっかりと捉えていた。だが未だに後退できていないのは、タイラントたちが後退を阻もうと猛攻撃を仕掛けてきているからだった。
だからといって、無理に後退をすれば地上にいるリリーたちに負担がかかることになる。確かに、リリーだけならSWSの機動力で脱出はできる。しかし残された〈アルバトロス〉とその乗員、そして基地で救助を待つ技術者たちを救うことはできない。
ガルダもどうするべきか迷っているようなきらいがあって、アカネは不安を覚えていた。
接近のアラートが鳴り響き、三体のタイラントが同時に襲い掛かる。不安で曇った思考が一瞬で晴れ、頭の中ではどの動きが正しいのかを弾き出そうとしていた。
「——そこぉッ!」
すれ違いざまに一体を斬り捨てると、すぐさまくるりと振り返ってプラズマランチャーを連射する。ばら撒くように放たれたプラズマは、タイラントの表皮に当たって散る。攻撃を避けるという考えがないのか、それとも効かないことが分かっているのか、タイラントは構わず突っ込んできた。
迎撃しながら、剣を構える。しかし、先に限界を迎えたプラズマランチャーが爆発した。
「ぐうっ!」
元々連射できるように作られていないのを、アカネが無理に使ったのが祟ったらしい。そのせいで反応が一瞬で遅れる。
目の前に迫るタイラント。
〈カレトヴルッフ〉のサイズでは即座に対応できない。
やられる、という直感が全身を貫いた。
そうだ、私はミナトにやられたから、こうして無理をしてしまって......!
彼の顔が目の前に浮かび上がり、後悔に全身が硬直した。溢れそうな涙が目を潤ませ、視界がぼやける。
その時、横からの衝撃に全身が揺さぶられ、何かが全身を覆ったような感覚があった。ぼやけた視界が晴れると、そこには〈ジャッカル〉の頭部があった。
アカネは、〈ジャッカル〉に抱きかかえられる形で、タイラントの攻撃から離脱できたのだ。
『大丈夫か? アカネ?』
通信機から聞こえてきた声は、間違いなくミナトのものだった。
「その声、ミナトなの?」
『あぁ、何とか、間に合ったらしい......』
ミナトは〈ジャッカル〉の頭部を巡らせて、こちらを追尾してくるタイラントを認めた。そして振り向きざまにスラスターコーンの先端をタイラントに向けると、そこから露出したビームキャノンの砲身が光った。
キャノンから放たれた二条のビームは正確にタイラントの正面を貫き、あっという間に殲滅した。
敵の反応が付近にないことが分かると、アカネは未だにミナトに抱きかかえられたままということに気づいた。
その事実が何故か急に恥ずかしくなってしまって、押し出すようにミナトを突き放した。どういうわけか、心臓は高鳴っていた。戦闘の興奮からだろうが、あまり嫌な感じはしなかった。
『あっ、悪い......』
離れてしまったために、ミナトの言葉はノイズが混じっていた。アカネはすぐにワイヤーを発射して接触回線を繋げる。
「こっちこそ、急にごめ......ん?」
ミナトが基地の方に向いているのが分かって、アカネもそれに倣うと、救出完了を告げる信号弾が打ちあがっていた。
それを理解しているのか、タイラントたちが撤退していく。
「終わったってことで......いいんだよね」
〈ジャッカル〉の横顔をちらりと見る。その仮面の奥に、どんな表情が隠されているのか、アカネには知る由もなかった。
だが不思議と、その顔から視線を逸らすことはできないでいた。