真っ赤なスポーツカーがゆるゆると駐車場に停まる。
……死ぬかと思った。
チェビルはアルマンド本社ビルに辿り着く前に交通事故で死ぬのではないかと、本気で心配した。
しかしチェビルとしては奇跡的に、無事故で目的地に到着したのだった。
「降りてください」
「あ、はい」
震える脚でなんとか車を降りた。
ヘロヘロになりながら、オーガイの後をついていく。
アルマンド本社ビルは巨大だった。
ガラス張りのオフィスビルは美麗であり、屋上にデカデカと、アルマンドグループ、と書かれている。
チェビルが「ほげー」と上の方を見上げていると、オーガイに腕を取られた。
「ぼんやりしないでください。行きますよ」
「あ、はい」
自動ドアが開く。
エアコンの冷気が心地よい。
受付の美人の女性が、お辞儀をした。
チェビルはお辞儀を返そうとしたが、オーガイに腕を引っ張られてカニ歩きのような形でエレベーターホールに連れて行かれた。
行き交う社員たちに「あの子供はなんだ?」という目で見られるのは居心地が悪い。
しかしオーガイがやはりボタンを押すことなくエレベーターに乗り込もうとするため、それについていかざるを得ない。
他に誰も乗らないエレベーターは、扉を閉じてすぐに上昇を始めた。
エレベーターのボタンがやけに少ない。
このエレベーターはどうやら高層階にしか止まらないようだ。
数字の大きなボタンだけがあり、その一番上が点灯している。
「オーガイさん。どこへ行くんですか?」
「会長室です」
「会長……会長ですか? ええと、偉い人ですよね?」
「アルマンドグループ会長……アーサム・アルマンド。創業者ですね」
「…………」
チェビルは馬鹿ではない。
学はないが、アーサム・アルマンドが自分の所属企業のカリスマ的な存在であることくらいは知っている。
私財を投じてリアライト鉱石の採掘と、リアライトを使った商品開発を行い、莫大な富を築き上げた立志伝中の人物だ。
老齢なはずだが、今も会長という立場でグループの指揮を取っている権力者。
「オーガイさん。なんで俺なんかが会長に?」
「仕事です」
「一体、どんな仕事なんでしょうか」
「すぐに会長から直に聞けます」
「…………はあ」
ポォン、という電子音がエレベーターから鳴る。
ドアが開くと、広々としたロビーに秘書らしき女性が受付に立っていた。
秘書の女性は笑顔を浮かべた。
「オーガイさん。会長がお待ちです」
「分かっています」
「では遅刻はなさらないよう、お願いします。会長もご多忙なのですから」
「分かっています」
……遅刻してんのかよ!!
チェビルは目を剥いてオーガイを見上げる。
……ココアとか飲んでる暇、なかったんじゃねえのか!?
オーガイは遅刻をなんとも思っていないらしく、笑顔で圧をかけてくる秘書を無視して、ドアに手をかけた。
開く。
開いていく。
広い執務室の向こうは全面ガラス張りで見晴らしがとても良い。
その手前、十分に大きな執務机に肘をついて紫煙をくゆらせている老人こそ、アーサム・アルマンドに違いなかった。
「……おーい、遅くないかね、オーガイくん?」
「失礼。道が混んでましたもので」
真っ赤な嘘を平然とついたオーガイは、チェビルを引っ張って応接セットのソファに腰掛ける。
チェビルもつられてソファに座ったが、
……沈む!?
あまりにも柔らかなソファに沈み込んだ。
両足が上がる。
慌てて肘置きを掴み、上体を起こすことに成功したチェビルを、ふたつの視線が貫いていた。
言わずもがなアーサム・アルマンド会長とオーガイである。
アーサムは葉巻をガラス製の分厚い灰皿に押し付けた。
「君がチェビルくんだね。ふうん、なるほど……」
両手を組んだアーサムが、目を細める。
「さてチェビルくん。君に仕事だ。内容は破壊工作。ある競合他社の秘密工場の爆破をお願いする」
……破壊工作? 爆破? なに言っているんだこの爺さん。
話についていけず、チェビルは反射的にオーガイを見る。
オーガイは笑みを浮かべて、チェビルに言い含めるようゆっくりと言葉を紡ぐ。
「チェビルくん。君の能力を持ってすれば、簡単な仕事ですね? 1億ソドムドルの借金返済が一発で終わりますよ」
チェビルはこれが冗談でもなんでもないらしいことに愕然とした。