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04.プロローグ(4)

 オーガイがリビングに鎮座している機械のお化け、正式名称をポータルというらしいのだが、それの背面に入り込む。

 小さめのスペースのようだが、小柄なオーガイにとってはちょうどいいサイズらしい。

 そもそも義体の遠隔操縦用のポータルは個人個人に合わせた特注品だ。

 オーガイの入り込む場所のサイズも、オーガイに合わせた大きさになっているに決まっていた。


 ポータル背面のハッチが閉じて電子音が幾つか鳴る。

 するとおもむろにスーツ姿の方のオーガイがムクリと起き上がり、自分にくっついていたコネクタケーブルをブチブチと引き抜いて、めくれていた肌を元通りにしていく。


「お待たせしました。出社しましょう」


 ポータルから出てきた義体のオーガイが、紛うことなき男性の声で言った。


     ◆


 マンションの地下は駐車場になっており、オーガイはまっすぐに自分の自家用車に歩み寄った。

 真っ赤なスポーツカーだ。

 チェビルには、派手で高そう、という印象しか持てなかったが、事実そういう趣味的な代物だった。


「鍵は開いています。助手席に乗ってください」


「はあ」


 助手席に、とか言われたがこのスポーツカー、後部座席のないふたり乗りである。

 当然、運転手以外が乗るのは助手席になるだろう。

 ドアを開けて、乗り込む。

 車高が低く座席も寝そべる感じになっているので、乗り込むのに少しだけ手間取った。


 持ち主であるオーガイは長い脚を横から入れるようにして颯爽と乗り込む。


「では出します」


 ハンドルの根本付近にあるボタンに触れると、ドルン、とエンジンが始動した。

 オーガイは背もたれに体重を預け、そのまま発進させる。

 ハンドルを握る素振りもない、フリーハンドだ。


 チェビルの常識では車はハンドルで操作するものである。

 しかしスムーズに発進した赤のスポーツカーは、やはりスムーズに曲がって地下駐車場から地上に出た。


「あの……ハンドルは?」


「遠隔操縦していますから、わざわざハンドルやペダルを操作する必要はありませんね」


「なるほど……?」


 全身義体なるものを遠隔操縦できるのだから、自動車だって遠隔操縦できるのだろう。

 チェビルにはよく理解できないが、外では当たり前の技術なのかもしれない。


 マフラーから暴力的な排気がなされつつスポーツカーは加速していく。

 人気のない閑静な住宅街を爆走する中、オーガイが口を開いた。


「チェビルの状況について、少しだけ説明しておきましょう」


「あ、はい」


「まずチェビルが奴隷として過ごした時間で、刑期満了しました。おめでとうございます」


「ありがとうございます」


「正当防衛が認められていますが、殺人は重罪です。今後、後ろ指を指されることもあるでしょうが、強く生きてください」


「はあ」


 励ましとも取れるが、なんとなく突き放されているような気がする。

 エルフの少女の眠そうでやる気のなさそうな顔が、キリっとした今のビジネスマンの顔にダブった。


「ともあれ奴隷仕事は終わりです。これからはアルマンドの社員として恥ずかしくないよう心がけてください」


「ええと、俺って自由の身にはなれないんですか? 刑期は終わって、奴隷じゃなくなったんですよね」


「借金が残ってますね。被害者遺族への慰謝料が1億ソドムドルです。その債務を社が肩代わりしております。衣食住の面倒は社の方で見ますが、代わりに給与が借金返済に充てがわれます」


「それって法的にどうなんでしょう」


「合法です」


「…………そうですか」


 あまり奴隷だった頃と立場は変わらない気がする。

 チェビルに自由はなく、仕事が変わるだけだ。

 いや待遇は多少、マシになることを祈るくらいバチは当たらないだろうか。


 キュルキュルとタイヤが不穏な音を立てて車体が横滑りする。

 信号は見える先までずっと青。

 加速のGでチェビルは背もたれに押し付けられる。


「あの……飛ばしすぎでは?」


「道路交通法違反は犯していません」


「速度メーターが余裕で100キロ超えているように見えますけど」


「この道路、法定速度が決まっていないんです。だから問題はありません」


「あ、安全運転でお願いしますッ」


「善処します」


 ドルンドルン、とエンジンが唸る。

 チェビルは何を言っても無駄だと悟った。

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