チェビルとオーガイを乗せた車は、運転手の手により綺麗なマンションの前で停まった。
運転手は黒のスーツ姿の中年で、「着きました」と短く告げた。
「ご苦労様です。私たちは身なりを整えてから本社に向かいますので、車は返しておいてください」
「承知しました」
先に降りたオーガイが、逆側に回ってチェビルを車から降ろす。
そしてチェビルの腕を取って、マンションに向けて歩き出した。
「あの、俺の新しい仕事は……?」
「ひとまず、その汚い作業着から着替えてもらいます」
「…………はい」
チェビルにも汚い、という自覚はあった。
というかブルーの作業着は、閑静な住宅街のど真ん中では完全に浮いている。
そもそも行き先は本社ではないのか。
ここはどういう建物なのか。
チェビルには疑問が多くあったが、言葉にしていいか判断がつかずにすべて飲みこんでいた。
マンションの入り口はまるで主を迎え入れるかの如く、オーガイが近づくだけでドアを開けた。
オーガイがチェビルを連れて中に入ると、背後でドアが自動で閉まる。
エレベーターがポォンという電子音を鳴らして開いた。
ガラス張りのエレベーターにふたりで乗り込むが、オーガイはボタンを押すことなく真ん中に立つ。
しかしそれでもエレベーターは自動で13のボタンを点灯させて、ドアを閉じた。
浮遊感を感じたと思ったら、エレベーターは音もなく上昇していく。
すぐに13階に着いた。
ポォンという電子音が響いてから、ドアが開く。
オーガイはチェビルの腕を取ったまま、エレベーターから降りて目の前のドアを開けた。
表札には1301の数字、その下にストローツの家名があるのを視界の端で確認したチェビルは、正面を向いて思わず「うお!?」と声を上げる。
広かった。
とてもじゃないが個人で住むには広すぎる、そうチェビルは思った。
鎮座する巨大なコンピュータのお化けのような筐体が、だだっ広いリビングの中央にあってなお、十分なスペースがあることにチェビルは目を白黒させる。
「あちらがバスルームです。まずシャワーを浴びてから、これに着替えるように」
オーガイからビニル袋に包まれた新品の衣服を押し付けられて、チェビルは立ち尽くした。
動かないチェビルにオーガイが苛立ったのか、腕を掴んで脱衣所に連れ込む。
そして作業着のジッパーを下げて、さらに下着を剥ぎ取ると、チェビルをハンドタオルとともにバスルームに押し込んだ。
「シャワーの使い方は分かりますね? あまり手を煩わせないでください」
バタン、とバスルームの扉を閉じられて、全裸のチェビルは仕方なくシャワーを浴びることにした。
宿舎にあるものとは勝手が違うが、シャワーで温水を出すくらいは分かる。
隅っこにあるシャンプーだのボディソープだのは勝手に使っていいのか分からないので、とりあえず温水で髪をしっかり洗って、身体をタオルで擦っていく。
これでもか、というくらい思いっきりしっかりと洗ってから、チェビルはバスルームを出た。
身体が火照って真っ赤だ。
脱いだ作業着と下着はどこにもない。
あるのはビニル袋に入った新品の衣服だけ。
中に下着があることを祈りながら、チェビルはビニル袋を開けた。
さらにビニル袋に入った下着を見つけて安堵しつつ、服を着る。
白いシャツの上に紺色のブレザー。
下はグレーのズボンだ。
子供にスーツは似合わないから、ブレザーなのだろうか?
首を傾げながらチェビルは脱衣所を出た。
コーヒーの香りがする。
オーガイが飲んでいるのだろう、そう思って香りの出処に目を向けて、チェビルは固まった。
リビングには、全裸のエルフの少女がマグカップを両手で持って待っていた。