目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

02.プロローグ(2)

 チェビルとオーガイを乗せた車は、運転手の手により綺麗なマンションの前で停まった。

 運転手は黒のスーツ姿の中年で、「着きました」と短く告げた。


「ご苦労様です。私たちは身なりを整えてから本社に向かいますので、車は返しておいてください」


「承知しました」


 先に降りたオーガイが、逆側に回ってチェビルを車から降ろす。

 そしてチェビルの腕を取って、マンションに向けて歩き出した。


「あの、俺の新しい仕事は……?」


「ひとまず、その汚い作業着から着替えてもらいます」


「…………はい」


 チェビルにも汚い、という自覚はあった。

 というかブルーの作業着は、閑静な住宅街のど真ん中では完全に浮いている。

 そもそも行き先は本社ではないのか。

 ここはどういう建物なのか。

 チェビルには疑問が多くあったが、言葉にしていいか判断がつかずにすべて飲みこんでいた。


 マンションの入り口はまるで主を迎え入れるかの如く、オーガイが近づくだけでドアを開けた。

 オーガイがチェビルを連れて中に入ると、背後でドアが自動で閉まる。


 エレベーターがポォンという電子音を鳴らして開いた。

 ガラス張りのエレベーターにふたりで乗り込むが、オーガイはボタンを押すことなく真ん中に立つ。

 しかしそれでもエレベーターは自動で13のボタンを点灯させて、ドアを閉じた。


 浮遊感を感じたと思ったら、エレベーターは音もなく上昇していく。

 すぐに13階に着いた。

 ポォンという電子音が響いてから、ドアが開く。

 オーガイはチェビルの腕を取ったまま、エレベーターから降りて目の前のドアを開けた。


 表札には1301の数字、その下にストローツの家名があるのを視界の端で確認したチェビルは、正面を向いて思わず「うお!?」と声を上げる。


 広かった。

 とてもじゃないが個人で住むには広すぎる、そうチェビルは思った。

 鎮座する巨大なコンピュータのお化けのような筐体が、だだっ広いリビングの中央にあってなお、十分なスペースがあることにチェビルは目を白黒させる。


「あちらがバスルームです。まずシャワーを浴びてから、これに着替えるように」


 オーガイからビニル袋に包まれた新品の衣服を押し付けられて、チェビルは立ち尽くした。

 動かないチェビルにオーガイが苛立ったのか、腕を掴んで脱衣所に連れ込む。

 そして作業着のジッパーを下げて、さらに下着を剥ぎ取ると、チェビルをハンドタオルとともにバスルームに押し込んだ。


「シャワーの使い方は分かりますね? あまり手を煩わせないでください」


 バタン、とバスルームの扉を閉じられて、全裸のチェビルは仕方なくシャワーを浴びることにした。

 宿舎にあるものとは勝手が違うが、シャワーで温水を出すくらいは分かる。

 隅っこにあるシャンプーだのボディソープだのは勝手に使っていいのか分からないので、とりあえず温水で髪をしっかり洗って、身体をタオルで擦っていく。


 これでもか、というくらい思いっきりしっかりと洗ってから、チェビルはバスルームを出た。

 身体が火照って真っ赤だ。

 脱いだ作業着と下着はどこにもない。

 あるのはビニル袋に入った新品の衣服だけ。

 中に下着があることを祈りながら、チェビルはビニル袋を開けた。

 さらにビニル袋に入った下着を見つけて安堵しつつ、服を着る。


 白いシャツの上に紺色のブレザー。

 下はグレーのズボンだ。

 子供にスーツは似合わないから、ブレザーなのだろうか?


 首を傾げながらチェビルは脱衣所を出た。


 コーヒーの香りがする。

 オーガイが飲んでいるのだろう、そう思って香りの出処に目を向けて、チェビルは固まった。

 リビングには、全裸のエルフの少女がマグカップを両手で持って待っていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?