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第23話 無法地帯の王都と新しい力

「キャアアアアアアアアーーーーーーー!!!!」


女性の悲鳴が王都の一等地で響き渡る。

邸宅が並ぶ整備された石畳に停まった馬車から若い女性と男が飛び出してきた。


「へへへっ。ああ、興奮するう!!もっと叫べ、俺を喜ばせろおおおお!!!」

「いやあああ、やめてええ、あうっ!!」


顔を殴られ、地面に崩れ落ちる貴族の令嬢。

のしかかり、衣服を引き裂く貴族らしき男性。


慌てて見回りの衛兵が数人駆け付けるが、衛兵のうち一人が突然仲間に剣を振り下ろした。


「ぐああああああーーーー!!!」

「おまえが、お前がいけないんだ、馬鹿にしやがって、馬鹿にしやがってえええええ!!」


激高して同僚に何度も剣を突き刺す若い衛兵。

その間にも貴族女性は男の欲望に襲われていく。


「あっ、いや…やめて…いやあああああああーーーーーー!!!」

「はああ、いいぞ、もっとだ、ぎゃはははは!!!!」


「くそっ、このっ!!」


何とか難を逃れた衛兵の剣が、乱暴を働く男の首をはねた。

暴れていた衛兵も同僚に胸を貫かれ、どうにか悪夢のような騒動は収まった。


実に3名の命がこの一瞬で失われた。

襲われた女性の精神的ショックは計り知れない。

貞操は守られたことが不幸中の幸いだったが……

泣き崩れ、すすり泣く声がいつまでも響いていた。


このようなことが王都内のいたるところで発生していた。


※※※※※


ウッドストック領でも、犯罪の魔の手が伸びてきていた。


王都から流れてきた男性の多くがミリーの影響を受けており、暴虐の限りを尽くし始めた。


最初に襲われたのは冒険者ギルドの受付嬢だった。

休憩時間に昼食を取ろうとしたときにいきなり後ろから最近領内に移り住んだばかりの低級冒険者パーティーの3人の男性に襲われた。


頭を殴られ意識を失った受付嬢があばら家に連れ込まれそうになったところを、たまたま巡回警備をしていた領主付きの騎士数名が発見できたのは不幸中の幸いだろう。

事なきを得たが、捕らえた3人は意味の分からない事を喚きながら暴れたため、無力化し伯爵家の地下牢へと連行してきた。


そして多くの場所で同様な事件が発生し、伯爵家の地下牢はすでに満杯になり、今は取り調べを行うための準備に追われていた。


その後も続々と連行されてくる犯罪者たち。

入れる場所がないため今は拘束を強化し庭園に並べている。

ようやく騒ぎが沈静化したころには100名を越える犯罪者が集まっていた。


残念ながら6名の被害者が出てしまっていた。

妙齢の女性が4人、男性が2人。

破壊活動などの町の被害は数えきれないほど発生していた。


もちろんロナリアのせいではない。

しかし彼女は、割り切れる事が出来ずにいた。


※※※※※


やられた。


私は自室で苦虫をかみつぶしたような顔をし怒りを露にする。


私の考えが甘かった。

ミリーはシナリオなんて関係なく暴走をはじめていた。


能力で見なくても分かる程、犯罪に手を染めた人々の目は濁り切っていた。

私の鑑定の解呪を弾くほど強力な付与だった。


一人を鑑定したとき余りの悍ましさに私は吐いてしまったくらいだ。


「あの女……何を考えているの?」


落ち着きなく部屋の中をうろつき独り言ちる。


分からない。

目的が全く思いつかないのだ。


「あーダメね私。こういう時こそプラス思考で乗り切らなくちゃ。せっかくもらったスキルでどうにかできないか検証しましょう」


私は自分の顔を強めに叩いて気持ちを入れ替えた。


ふう。

さあ、がんばるわよ。


まずは解呪よね。

スキルがだめなら薬はどうかしら。


私は意識を集中して手を前に差し出す。


「スキル創造!!超強力な解呪薬!!」

「………出ないわね。…イメージできていないものは出せないのかな」


頭がおかしいなら、正気に戻せばいいのよね。

よし、じゃあこれならどうかしら。

私は地球で最も臭いとされる果物と、ニシンの缶詰を思い浮かべた。


「スキル創造!!ドリアンとシュールストレミングのミックスジュース!!」


ゴロン……

おどろおどろしい色の液体の入った瓶がごろんと出現した。

密閉されているはずなのになんだか嫌な臭いが立ち込めている気がする。


「よし、鑑定!!」


※※※※※


【名前】激マズ気付け薬(死なないけど絶対毒)

【効果1】ありとあらゆる状態異常を解呪する

【効果2】周囲50メートルはほぼ同様の効果を表す

【効果3】10日間匂いが消えない


【注意】好奇心で匂いをかがない事。激しい後悔に襲われる事でしょう。


※※※※※


「……できた……けど、これ、どうしよう。……お母さまに相談ね」


私は20本ほど作成し、注意事項をしっかりと記し、創造した小型のマジックバッグに詰め込み、お母さまの部屋へと届けに行った。

恐いので強力な消臭剤も作ったよ。


私はお母様に説明し、カバンを含め色々なものを託すことにした。


「ロナリア、あなたはどうするのかしら。……この薬、恐ろしすぎるのですけど」

「すみませんお母さま。実は力を使いすぎました。…少し自室で休みます」


お母さまの顔が驚愕に染まる。

きっと今の私は酷い顔をしているのだろう。

気を抜くと倒れそうだ。


「ふう、わかりました。お母さまに任せてゆっくり休んで頂戴」


力を使いすぎていた。

強い力には代償があるのに。

私は何とか自室にたどり着き、ベッドへ倒れ込んだ。


※※※※※


人間疲れすぎると眠れなくなるというのは本当ね。

何故か頭がさえ、弱っているせいか嫌な考えが浮かんでくる。


今回の事件……


「私がシナリオを壊したから……」


思わず立ち上がり、部屋をうろつき始める。

不味い。

どんどんいやな考えに支配されていく。


どうして、あの女は……頭のおかしい事を……

頭のおかしい……?


「っ!?……まさか!?……でもっ……もう、20年以上経過している…」


突然ロナリアの頭に、背中を深々と刺され血を流し倒れ伏す愛おしい人の姿が鮮明によみがえる。

ロナリアは膝から崩れ落ちた。

涙が止まらない。


ダメだ、ダメ。

心を強く……ああ、ヤダよ……やだ……ああ……


声を上げ、まるで子供のようにロナリアは泣き始める。

心細さとあの時の悲しみがどんどん彼女の心を侵食していく。


「ぐすっ…俊則……ヒック…ああ……俊則……ひん…うあああ……あああああ」


あの時私がもっと周りに気を配っていれば……

あの時あの女に気が付いていたら……

あの時もっと早く帰っていたら……

あの時違う道を通っていたら……

あの時、もし……

あのとき……


後悔の念が頭の中を埋め尽くしていく。

後悔の念に押しつぶされる……その時だった。


「うあっ!?痛い!……ああっ!?うああ、あうっ!?」


突然後頭部に今まで経験したことのない激痛が襲い掛かってきた。

そしてロナリアはそのまま意識を失った。


※※※※※


「おじいちゃーん、おばあちゃんがお昼ご飯できたってー」


草の匂いが立ち込める畑の土手を私は麦わら帽子にTシャツと短パンを身に着けお気に入りのスニーカーを履いておじいちゃんめがけ走っていた。


太陽が照り付ける。

だけど体に吹き抜ける風は涼しく気持ちが良いのだ。

長野の田舎の暑さは、私のおうちと全然違う。


おじいちゃんは私の声に気づいて、手拭いで汗を拭いた。


「はいよ。舞奈はお利口だな。ほーれ、お土産じゃ」

「えっ?なになに?きゃああああああーーーーーーーーーーーー」


おじいちゃんの手から大きなカエルが私の顔に飛びついて来た。

私は慌てて振り払いおじいちゃんを睨み付ける。


「酷いよ!!おじいちゃん。もう、嫌い」

「はっはっはっ、何を言ってるんだ。農業にこう言うのはつきものだぞ?さあ、飯にするか」


おじいちゃんは楽しそうに笑い軽トラックの運転席に乗り込んだ。


「あー、私も乗る!!……荷台に乗ってもいい?」

「相変わらず舞奈はおてんばだなあ。しっかり捕まるんだよ」

「はーい。おじいちゃん大好き」


軽トラックの荷台は私のお気に入りの場所だ。

おじいちゃんが育てた大きな白菜がたくさん入っているコンテナの間に立って、私は目の前にある棒みたいなのをぎゅっとつかんだ。


おじいちゃんの家のすぐ裏の畑だ。

たぶんちょっとしか乗れないけど。


体を吹き抜ける風が最高に気持ちいい。

遠くの山の深い緑と、畑の野菜の薄緑色が目に飛び込んでくる。

そして毎回私とおじいちゃんはおばあちゃんに怒られる。


ああ、楽しいな。

私は大きくなったら絶対農業をやりたい。

おじいちゃんと美味しい野菜を作るんだ。


小学1年生の私はそうなることを信じていた。


その日の夕方。

縁側で遊んでいた私はお盆過ぎの田舎の夕方の風の冷たさに身震いしていた。


「うう、夏なのに寒い」

「舞奈、おいで。じいちゃんと一緒に涼もうか」

「寒いの!!」

「はっはっ、じいちゃんの膝はあったかいぞ」


私はおじいちゃんの膝にスポッと収まる。

ホントだ。

あったかい。


「なあ、舞奈。農業ってのはな、自然の恵みとかをもらうお仕事なんじゃよ」

「うん?」

「はははっ、まあいつか分かる。そして嘘はつかないものじゃ」

「嘘つかないの?」

「ああ、農業もそうじゃがな。因果もごまかしがきかないんじゃ」

「ん?いんが?わかんない!」

「だからな、どうしようもない時はそういう約束を過去にしたという事じゃよ」

「???」

「でも間違えたままじゃかわいそうじゃろ?」

「かわいそう?……頭撫でる?」

「はっはっは、そうじゃな、運命の頭を撫でるか。流石舞奈じゃな」

「舞奈えらい?」

「ああ、偉いな。じゃから特別にじいちゃんが教えてやろうな」

「なにを?」

「おまじないじゃ。ええか?こうやって言うんじゃ………」

「理を超える……………」


※※※※※


「……さまっ!……えさまっ!!…ロナリアお姉さま!!」


どのくらい倒れていたのだろう。

ルルが涙を流しながら必死に私を呼び掛けていた。


……あれ、なんだろ……懐かしい夢を……見て……

夢で聞いた……おじいちゃんの言葉……確か……。


私はまだ夢の続きをを見ているように、呟いた。


「…理を超える…約束の力を……我は求めん……」


その時私の体から溢れんばかりの光の奔流がほとばしった。

心が溶けそうな心地よい光に包まれ、私は意識を失った。


この時私は新たな力を得ていた。

切り札となる力。


『救済の亜神』の力を。


代償なのだろうか。

私は丸一日を覚ますことはなかった。


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