私は普通のサラリーマン家庭の長女として、関東のとある町で産声を上げた。
特段特徴がある子でもなかったし、中流家庭の娘として普通に育てられ、大きな問題もなくすくすくと成長していった。
2歳上の拓真っていうイジワルな兄と2人兄妹の4人家族。
ごく普通の家族だ。
長野の田舎にお母さんの両親がいて、お盆とお正月に里帰りするのが家族旅行代わりだった。
お父さんの両親は私が生まれてすぐ病気で他界したらしい。
残念ながら記憶にない。
私は長野のおばあちゃんが大好きで、とても懐いていたと思う。
おじいちゃんは少し変わっている人だった。
いつも良く判らない難しいお話を、まだ小さい私に一生懸命教えてくれたんだよね。
因果が巡るとか、世界の摂理がどうとか。
でもおじいちゃんはわたしを凄く気に入ってくれていて
「
って、いつも言っていた。
私はあの何とも言えない田舎の匂いが大好きだったんだ。
小学校2年生の時に将来の夢を作文で書く宿題が出た事があった。
ありがちな、きっと誰もが一度は同じような宿題をやらされたと思う。
女の子はお花屋さんとか、ケーキ屋さんとか、看護師さんとか。
男の子はプロ野球選手とか、プロサッカー選手、警察官になりたいっていう子も多かった。
でも私のあの時の夢は『農家』だった。
先生のひきつった笑顔は何気に私の心にダメージを与えていたのを覚えている。
そんな変わった一面も少しはあったが、普通の子供だったはずだ。
まあ少しこだわりが強かったとは思うこともある。
よく言えば物を大切にする子だった。
貧乏性ともいえたが。
3歳くらいの時に貰った、なんだか不格好な犬みたいなぬいぐるみを、大人になるまで抱いて寝ていた。
別に好きだったわけではない。
どういう経緯であれ貰ったのだ。
ダメになるまで愛でるのは当たり前だろう。
中学生くらいまで服も擦り切れるまで着ていて、お母さんに怒られていたっけ。
「あんた、女の子なんだから、お洒落に気を使いなさいよ」
「ははっ、舞奈は物を大切にできるいい子だね。でも違う可愛い服を着た舞奈をお父さんは見たいな」
よくそんな会話をした事を今でも思い出してしまう。
まあ、お父さんは私にデレデレだったけど。
親の名誉のため付け加えるけど貧乏ではなかったよ。
一応持ち家だったしね。
見た目は、まあ、普通。
……うん。
嘘つきました。
そこそこ可愛い方ではあった。
クラスの男子って「なあなあ、誰が可愛いかな?うちのクラスの女子」とかいう話するじゃんね。
大体2番目くらいには名前が挙がっていたみたいだから。
告白も何度かされた。
最初は小学5年生の時だった。
同じクラスの悠人君が真っ赤な顔で好きって言ってくれたんだ。
まあ、お付き合いはしなかったけどね。
だって良く判らなかったし。
私は何だか人を好きになるのが怖くて、漠然とした不安があったんだ。
たぶん自分では気づいていなかったけど、わたしの想いは相当重いらしいのだ。
初めて男の子とお付き合いしたのは高校2年生の時だった。
高校入学当時の私は何だか冷めていて、周りの同級生が知らない生き物に見えていたんだ。
アイドルとかドラマとか、意味のないものに熱中できる彼らの思考回路が理解できなかった。
もちろん私だって友達はいたし、そういうものもチェックはしていたよ。
話が合わなくなるからね。
でも全く心がときめくことはなかった。
私は何となく早く独立したくて、学校に許可をもらって高校1年生の夏くらいから近くの『たなや』っていうスーパーでレジ打ちのアルバイトを始めたんだよね。
色々興味の薄かった私は一応学校の決まりで『文芸部』っていう、まあ実態のないような部活に所属はしていたけど、2回くらいしか部室に行った事はない。
で、暇つぶしと社会勉強と実益を兼ねたって訳。
そしてそこで本田君っていう、見た目に気を使わないちょっと太目なやぼったい男の子と出会ったんだ。
彼はまあ、家庭の事情で、同じ高校生なのにあり得ないくらいシフトに入っていて、週3回しか働いていなかった私が行く日にも必ず働いていた。
後、そうだな。
なんか彼、変なオーラっていうか、諦めているっていうか……
最初は全く興味もないし、わたしは中身が冷めた女子だったけど、まあまあ可愛かったし、無駄に対人スキルは高かったからいわゆる1軍女子だった。
だからいつも周りにはキラキラした男子や派手な女の子たちがいたから余計本田君は地味だしダサいなって思っていたんだ。
まあこの子たちもなんだか
そんなあまり意味のない高校生活を続けて冬になったころ何度目かの告白をされた。
中学生の頃告白され過ぎて私はもううんざりしていたんだけどね。
「おい、つきあえよ。……なあ、二人で良い事しようぜ。お前だって俺のこと好きなんだろ?」
3学期に入ってすぐに屋上に呼び出され、まあまあいい男だなって思っていた加納君に突然抱き着かれた。
加納君は私の体をいやらしく撫でまわし始め、キスしようとしてきたんだ。
全身に鳥肌が立ち、驚くほど気持ち悪かった。
生まれて初めて本気で男の人を殴り倒した瞬間だった。
そのあと私は孤立するようになった。
加納君、一軍の中心だったんだよね。
だから私はハブられた。
一軍ではなくなった私はどうやら価値がないらしかったのだ。
まあ冷めていた私には心底どうでも良い事だったけど。
そんな日々がしばらく続き、もちろん本田君ともバイトの時に挨拶するくらいで接点もなく私は高校2年生に進学していた。
私の通っていた学校は毎年クラス替えがあって、2年生の時その本田君と同じクラスになったんだよね。
凄くびっくりしたのを覚えている。
確かにうちの学校は、全校で1500人くらいの生徒がいるマンモス学校だったから、同級生でも知らない人は山ほどいる。
でもさ、一応知っている人でしょ?彼は同僚だったし。
在り得ない位存在が薄い彼に、わたしはなぜか興味を抱き始めた。
そしてあの日。
私はなぜかわからないけど。
彼のまるで人生を全部諦めたかのような瞳に触れて。
彼の事を、心の底から愛おしく感じてしまうようになったんだ。
今でも理由は分からない。
そしてそのあと私は。
38歳で死ぬまで、二度と男性とお付き合いすることはなかった。
親友の加奈子に「あんた重すぎ」と言われるものまあ、仕方がないのだろう。
でも私は。
きっと彼以外の男には。
惹かれないまま一生を終えるのだろうと諦めていたんだ。