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23時のクリシェ
23時のクリシェ
くれたけ銘石
BL現代BL
2025年03月24日
公開日
6,126字
連載中
 夢や目標もなく気ままに生きる男・小野は、大学卒業後に雀荘でアルバイトをしながら緩やかに生きている。酒とギャンブルが趣味の彼は、小野の店に遊びに来たお笑い芸人の春太郎と仲良くなる。成功を夢見て努力し実績を積む春太郎の姿を隣で見ながら、小野は春太郎との未来や自分の建設的な将来を考えるようになる。

第1話 東京23区のワンルーム

ビデオテープを巻き戻すように、過去を振り返りながら生きている。それが確実に正解ではないと知りながら。

 「小野ちゃん、俺のこと好き?」

 平日の23時。東京23区のワンルーム。耳障りな事実は存在しない。真っ暗な部屋で、サイドテーブルのアロマキャンドルがベッドを照らす。

 充満しているのはアロマの人工的なラベンダーの香りと、ありふれて酸化してしまったクリシェだけ。

 「ねえ、答えてよ。小野ちゃん」

 ベランダから勢いをつけて身を乗り出せば、スカイツリーの切り端がかろうじて見える小野の部屋。東京タワーが見えるほどには都会じゃない、山手線にはほど遠い鉄筋コンクリートの401号室。

 「んー? そうだねえ」

 1000万人が暮らす込み入った東京で、プライバシーの死守されたこの部屋にいるのはたったふたり。

 家主の小野と、その恋人。

 20代半ばの小野は、彩度の高い金髪にカラーダイヤモンドのピアスをしている。白い肌に細い指。柔らかな部屋着のスウェットが薄い身体に余白を作る。彼は丸い瞳で、向かい合う恋人を上目使いで見つめる。

 彼の最新の恋人は、鍛え上げた筋肉質な身体を誇る男だった。健康的に焼けた肌に、黒髪の健全的な笑顔を携える。それに何より彼は、のらりくらりと生きる小野へ大きな愛を向けていた。

 「好き、好き。もちろん大好き」

 小野は子供のように舌足らずな発音で、恋人への愛を告げて抱き締めた。彼も幸せそうに小野を抱く固い二の腕に力を込める。

 大学卒業後に定職につかずふらふらしている小野は、責任感なく行動する癖が抜けなくなっていた。仕事も、人生も、愛も、口から出任せでどうにかなる。たかをくくって毎日をやり過ごしている。

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