ブレザーの上着はしばらくは手放せず、駅前の歩道にはソメイヨシノではない見慣れない桜が申し訳程度に植えられ、見ごろを迎えている。
幼稚園児と保育士の一群が、散りゆく花びらを追ってはしゃぐ。
散っていく桜はピンクの紙吹雪みたいだな、なんてありきたりな感想が頭に浮かんだ。けれど、そんな陳腐な表現をすれば宮瀬にからかれるのが目に見えていて、それはなんだか恥ずかしくて不愉快なので、何も言わずにチョコレートアイスをかじり続けた。
「宮瀬は楽しいこととかねーの?」
「あるよ」
「なに?」
「デートとか、その後のこととか」
「うわ、ずりー」
取るに足らない、何ひとつ特記すべき項目のない、ありふれた一日だった。
けれどこういう何の気ない一日のことが、思い返せばきっと青春と呼ばれるであろうことは、なんとなく、なぜだか薄々気づいている。
食べ終わったアイスの棒を、だんだんと暮れてきたオレンジのような黄色のような太陽に、手を伸ばしてかざしてみる。アイスの棒には、ハズレと大きく書かれている。当たりをゲットしたことは、人生で未だ無い気がする。
宮瀬はまだブラックモンブランを食べ続けている。アイスを中ほどまで食べ進めた宮瀬は、思いついたように俺の方に視線を向ける。フチなしの眼鏡を中指で上げ、彼は含みのある笑みを浮かべて俺に顔を寄せる。
「航大も彼女を作ったらいいじゃん」
「仲いい女子がいない」
「新しく見つけたら?」
「どこで? 教えて、恋愛博士」
「SNSでナンパ」
「そういうのに引っかかる子はちょっと。もっとさ、おしとやかな子がいい」
「わがままだなあ。じゃあ、河津桜商店ででもナンパしなよ。あんなレトロなお店に通うのは、きっと古風な女の子だけだよ。好みでしょ」
「古風な女の子っていうか、おばあちゃんとしか知り合えねーだろ」
「あはは。孫娘を紹介してもらいなよ」