春先だというのに、コンビニでも売っているブラックモンブランを河津桜商店で買った。レジ前でふたりでじゃんけんをして、負けた俺が二つ分払った。ありきたりな日常。
個人商店のブラックモンブランは、コンビニよりも幾分高かった。けれど、暇な時間も潰せたし、まあまあ楽しい話もできたしいいか、となぜか清涼な満足感があった。
手入れのされた大きな桜の木の下。宮瀬と並んで、駅前のベンチに腰かける。自転車は、道路わきに適当に停めた。ふたりでぼんやりと、寂れた2階建ての木造の駅を眺める。曲がりなりにも駅前なのに、誰も通らない。桜の花びらが散っていく事実が、春の終わりを強制的に感じさせる。
昼間に駅を利用するのは、田舎では暇な高校生か老人くらい。おとなたちの大半は、車に乗って真っすぐ目的地に直行する。子供たちは自転車のペダルを必死に漕いで、現実的な行動範囲で多感に活動する。
だから駅前のベンチで時間を潰しているのは、平日の夕方にすることのない俺たちくらいだ。帰宅部で勉学にも力を入れいてない高校二年生、暇であくびをかみ俺と宮瀬だけだった。
なんだか物哀しいような、それでいてその特別感が誇らしいような、妙に感傷的な気分を味わった。
気を紛らわすように首を振り、適当な話題を口にする。
「なんか楽しいことねーかな」
雪山が描かれたショッキングな配色の袋を破って、棒アイスを取り出す。チョコレートチップに覆われたアイスを、大きく口を開けてかじる。スマホを片手に足を組んだ宮瀬も、僕と同じようにアイスの袋を開ける。
「例えば?」眼鏡の向こうで睫毛を瞬かせて、宮瀬は首を傾げた。
「空から女の子が降ってくるとか」
「変なアニメの見過ぎだよ、航大」
春は終わっていくけれど、吹き付ける風はまだまだ冷たい。