「時代の流れと同じ方向ではないと、何十年も前から気づいていたけれど、どうしても意地になって同じスタイルを続けていた。そしたら、見事に取り残されてしまった」
俺と宮瀬は顔を近づけあったまま、無言で固まってしまった。
おじいさんは怒った様子も不快感を抱いた様子もない。昔を懐かしむように、俺と宮瀬の顔を交互に眺め、柔らかな笑みを浮かべた。
「ずっと同じことを続けていたら、レトロなんて洒落た呼び名を付けてもらえるようにもなった。だからおじいさんはね、この店を気に入っているんだよ」
おじいさんの言葉の語尾に被さるように、テレビの中の相撲中継の現場が沸いた。大金星の小さな相撲取りに向け、無数の座布団が投げられている。
「また来てくれるかい?」
おじいさんは大相撲の中継に視線を奪われ、柔和な言葉だけを俺たちに投げかけた。「約束してくれるなら、ちょっとまけてあげるよ。なんてね」
「は、はい! また来ます、絶対」
俺は背筋を伸ばし、食い気味で即座に、大きな声で答えた。
「僕も来まーす」
宮瀬は俺の肩に腕を乗せ、おじいさんの背中にピースサインを向けながら愛想よく答えた。