十七年の人生で、個人商店なるものに初めて足を踏み入れる。店内は薄暗くて埃臭く、コンビニの方が値段の面でも衛生面でも格段にいい。分かっていたことだけれど、やっぱりほんの少しだけ後悔する。
ちらりと横目で宮瀬を見やる。彼は何にも気にしていない様子で「このお菓子、小さいころ大好きだったんです」とおじさんに向かって笑いかけていた。
宮瀬は常々潔癖だと自称しているのに、そんな仕草は欠片も見せない。これも分かっていたことだけれど、なんて社交的で世渡り上手なんだと感心する。
メインの客層ではないだろう若者の愛想のいい発言に、おじいさんは頭を掻いて嬉しそうに笑う。
「そうなんだね。それにするかい?」
「うーん。今日はこっちにします」
宮瀬はあいまいに笑って、店先に置かれたアイス用の冷凍庫を指さした。
使い古されてくすんだ色をしている年季の入ったそれは、生き物のように低い駆動音とともに入り口付近に鎮座している。
「味のある古臭さっていうか、いい意味で時代に取り残されたレトロって、こういうことなんですね」
頭の中に浮かんだ言葉が、勝手に口から漏れた。知らない人を相手にこんな意味不明なことを言うのは、失礼かもしれないことを吟味せずに口に出すのは、ある程度大人になってからは初めてだった。
レジに置いた椅子に座り、近くに置いたテレビで大相撲の中継を見始めていたおじいさんが、俺の方に視線を移した。
「航大、それは褒めてるの?」怪訝そうな顔の宮瀬が俺の肩を抱き、小さな声で耳打ちをした。「多分、失礼な表現だよ。言いたいことは分かるけど」
「え、本心でいいと思ったのに」
「素直な性格は長所だと思うけど、ストレートな表現はダメだよ。もっと小奇麗な表現に言い換えないと」
「例えば?」
「それは、ぱっと思い浮かばないけど」
焦りながらこそこそと、謝罪の必要性や挽回の方法を小声で模索していた俺たちに、おじいさんの朗らかな笑い声が届いた。
「そう。この店はレトロなんだよ」
おじいさんは灰色のベストを正しながら、穏やかな笑顔で何度も頷いた。