「航大君と一緒に、今日も河津桜商店に来れてよかった」
おどけるように肩を竦めた唯ちゃんの身体に合わせ、紺色のスカートが揺れた。彼女の白く薄い肉の付く太ももが、ほんの少しだけあらわになる。それだけで体の芯が沸騰し、慌てて目を逸らして頭を掻く。
「どうぞ」
「ありがとう。今日は唯が払うよ」
「い、いいよ」
「えー。昨日お小遣いの日だったから、今すごくお金持ちなのに」
唯ちゃんはおどけるように肩を竦めた。
「また今度でいいから」
ごまかすように、唯ちゃんにブラックモンブランをひとつ手渡す。笑顔で受け取った唯ちゃんは、丁寧に袋を破った。
廃れたシャッター商店街の古びた個人商店の軒先で、ふたりで立ったまま、並んでアイスを食べる。平屋や二階建ての建物の隙間を縫って、日没間際の日差しが柔らかに差し込む。唯ちゃんの白く細い脚や俺の骨ばった手首を、鋭利な角度で差し込んだオレンジの夕日が照らす。
「航大くんは、なんで河津桜商店が好きなの?」
唯ちゃんが唐突に口を開く。上目遣いで、首を傾げる。睫毛が長くて、頬が赤い。
「え、えっと。それは」唯ちゃんがいるからだ、と言ったら嫌われるだろうか。「理由は特にないけど、好きなだけ」
立っていると背の低い唯ちゃんを見下ろす形になるけれど、セーラー服の胸元は生地が厚く、見たいものは何も見えない。とはいえ、かき分けた髪の隙間から、吸い込まれそうな白い首筋が見え、俺の視線は釘付けになっている。
「そっかあ。唯と同じ理由だね」
彼女はチョコレートとクッキーでコーティングされた棒アイスを取り出し、静かにゆっくり舐めとる。
「いつ食べてもおいしいね!」
「う、うん。俺も思う」
清楚な薄いピンクの唇から覗く彼女の剥ぎ出しの舌は、生々しく赤かった。
「“また今度”がたくさんあって、唯は本当に嬉しいなあ」
幸せそうに笑う彼女の繊細な髪を、薫風がさらって消えていった。新緑と名も知らない花の匂いに、微かにシャンプーの香りが混じっている。膝丈ほどのスカートは案外重く、今度はびくともしなかった。
口に含んだアイスは、まだ固い。