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マレビト
マレビト
椿灯夏
文芸・その他ノンジャンル
2025年03月24日
公開日
1,061字
連載中
雨は誘う。

美しい、マレビトを。




これは六月の奇譚。

第1話

 春の最果ては、マレビトの噂を運んでくる。



 静まり返った教室に響いたのは、美しい響きを孕んだ異質な言葉だった。



 この学園では、誰もが一度は耳にした事のある言葉でもある。前者は全く興味関心がないか、後者は《マレビト》に惹かれてしまった、《マレビト》か――どちらにせよ、春の最果ては、祭りのようなにぎやかしさがある。



 露草は机に頬杖をしたまま窓の外を見遣る。雨が降っているただそれだけの、いつもの日常風景。



 数少ない友人である唯一の、異性の友達。周りから“ふつうのイケメンだね”とよく言われている。本人は人の物差しなんて、どうでもいいようだが。



「今年の梅雨は“奇跡の梅雨”らしいな。天気予報のお姉さんも興奮気味に言ってたけどさ、本当かね――」



「……マレビトのこと?」



「この目で見たこともなければ、会ったことすらない相手の事なんて、俺は信じられないけどな。そういうお前はどうなの?」



 いつになく真剣な露草の紺碧の夜空のような美しい瞳に、吸い込まれそうになる。




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