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第30話 告白

 俺はベッドの上から立ち上がって、薫と向き合う。俺は緊張しているのか、それとも秋の異常な残暑のせいか、汗が噴き出している。


「……なんか、変な感じがするな」

「何が?」


「頭木の気持ちを知って、俺たちの関係が改めて明確になった気がする。でも、今までのように何となく一緒にいるだけの関係を終わらせよう」


「そうだね。ここまでお膳立てしてもらって何もしないのは、失礼覚悟で勇気を出してくれた頭木にも失礼だね」


 俺がそう言うと、薫は一瞬目を伏せた。


「俺も。助けることで安心してたし、それに甘えてた」


 薫は苦笑して、俺の目を真っ直ぐに見つめる。


「ねぇ、龍世。もし、私がこのまま、龍世に甘えてばかりいたら……それでも、傍にいてくれる?」

「今更その質問が来るとは。決まってるだろ」


 俺は、一歩前に出る。


「俺はずっと前から薫の事が好きだ。もう、助けるとか罪悪感とかの言葉で誤魔化さない。この先ずっと俺の側にいてくれ」


 薫は一瞬、驚いたような顔をした。


「……ほんとに?」

「ああ。本気だ」


 薫の目が潤み、俺は彼女の肩をそっと引き寄せた。


「たとえ私の世界が半分になっても、ずっと支えてくれてありがとう」


 そう言って、彼女は涙を浮かべながら微笑む。 


「龍世。これからも、貴方の恋人として……パートナーとして一緒にいさせてください」

「あぁ、一緒にいよう。薫」


 俺は薫を抱きしめ、彼女の温もりを確かめた。

 秋とは思えないほどに鮮やかな太陽の光が俺達を包み込み、俺の身体が真っ赤に熱くなる。


「やっと、私たちの関係が進んだね」


 そう言って、彼女は片方の涙を浮かべながら微笑みキスをする。


「よく、決断できたね。ふたりとも」


 タイミングを見計らっていたのか、七川が二人を連れて再び病室へやってきた。


「いやー、これで前に進んだ感じがするけど、まだ依存問題とか歪んだ関係とかはまだ改善してないしさー。でも、良かった」

「武岡先輩、薫先輩。おめでとうございます!」


 太宰と頭木が拍手して出迎えてくれた。


「ありがとう、みんな。俺、薫を大切にするよ」

「ヒュー! 言ってくれるねぇ。それに、あーしらは何もしてないさ。つーか、武岡くん顔が真っ赤だねぇ。これから良いことでもあるのかい?」


 太宰はいつものギャル語に戻って俺をからかう。あれ?なんか、俺の視界がぼやけ始めてきた。気のせい?


「お、おい。からか……うな……え?」


 あれ? 俺、どうなっているんだ? 足元がふらふらしてろれつが回らない。さっきまで平気だったはず……?


「ねぇ、もしかして武岡先輩。熱中症じゃないですか? 今日は異常気象で真夏並みの気温ですし」

「わ、私が急いで売店に行ってスポドリ買いにいくから」


 七川のこの台詞を最後に、俺の記憶が飛んだ。


「病院? 薫?」


 次に目を覚ました時には、俺は薫の隣の病室のベッドの上だった。


「あ、私のDV浮気彼氏の目が覚めた」


 ベッドのそばには、ジト目の薫がスポドリを用意して立っていた。俺はぬるくなったスポドリを受け取って飲みだす。


「おい、どういうことだ? 薫。てか、DV浮気彼氏ってどういうことだ?」

「ひょっとして、覚えてないの? 優菜の胸に頭をうずめていた癖に」


 薫の説明によると、どうやら俺は熱中症で薫と同じ病院に入院しているらしい。その際に、たまたま俺の後頭部が頭木の胸元にダイブする形で倒れたようだ。あとたまたまだが、俺が倒れ込んだ拍子に薫のお腹あたりに蹴りをかましたらしい。


「で、恋人と後輩のおっぱい、どっちが心地よかった? それと恋人を足蹴りした感想も聞きたい」

「いや、その時意識失ってたから覚えてねぇよ! 薫だよ、絶対。それと蹴りは不可抗力だ」


 薫はいたずらっぽくからかってきたが、俺は必死に弁明する。だって、本当に覚えてないからな。


「ふぅん。それなら良いけど、今度浮気したら離婚して貴方のお義母さん雇って裁判だからね」

「いや、浮気しないし! 離婚って、まだ婚姻届出してねぇだろ。やめてくれよ、頼む! 埋め合わせするから」

「え! 良いの?」


 薫は目を輝かせて俺の手を握る。この言葉を引き出す為に狙ってやってるだろ、これ。


「じゃあさぁ。ふたりで退院したらこれからの事を決めようよ」

「おう、それくらいは絶対にしないと不味いからな」

「うん。それなら良いんだけど……その」


 秋の月の光に照らされた薫の顔がだんだん真っ赤になっていく。 なんか、妙に艶かしいのは気のせいか?


「どうした?具合でも悪いのか?」

 薫は恥ずかしがりながらも下腹部に指を指してから勇気を振り絞って言った。その一言が俺にとって衝撃的だった。

「自分でも、変だと分かってるけど……。その……腹パンかここを踏みつけてくれない?あの時の蹴りで何か目覚めちゃったみたい」

「恋人に可愛いぬいぐるみをねだるノリで何とんでも無いこと言ってんだよ……」


 俺は、太宰らが言っていた歪んだ関係の意味をようやく理解した。

 思い返せば、何時ぞやの彼女のエロ漫画の件もそうだし、太宰がやたらSMとかプレイとか言っていたのもそうだ。それに、転んで怪我をして痣が出来た時にも妙に嬉しそうな笑みを浮かべていたのも、彼女のマゾ気質な部分が垣間見えていた。


全ての伏線が回収出来たは良いが、俺は恋人との関係に頭を悩ませていた。


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