「ちょっと会わないうちに彼女とどんなプレイしたのよ、武岡くん。さっきの体育の授業で見たけど、あの子の身体の痣が酷いわ」
「何の話だよ」
「とぼけないで」
お昼休み、俺は、真顔になった七川に呼び出されていた。
「体育の時に薫の痣を見て心配になったの。どうしても確認しておきたくて呼び出したの」
七川によると今日の四時限目の体育の着替えの際に、薫の右手首、右胸、右肩あたりに痣が出来ていたらしい。
右側の痣は何度もぶつけた跡になっていて、脚にもちょっとした擦り傷があった。特に右手首には男性が強引に掴んだ感じの指の痣が出来ていたことから、ちょっとした騒ぎになった。
薫はクラスで俺以外会って話す事がめったにないから、女子の間で俺の犯行を真っ先に疑っているみたいだ。
「一応聞くけど、あの痣に見覚えはないのか?」
「いや、全く身に覚えが⋯⋯あ!」
土曜日の昼頃に、公園近くの交差点で俺が彼女の手を強引に引っ張った事を思い出した。
その時は危うく車にぶつかりそうになったけど、まさか痣が出来るほど強く引っ張ったとは思わなかった。
俺は必死に本屋での出来事を七川に説明すると、七川は「被害者を呼び出すから少し待ってろ」と言って薫を呼び出す。
「ご、ごめんね。変なこんな事になって」
薫は物凄く申し訳なさそうな顔で謝るが、それによって俺に別の容疑がかけられそうだ。
保健室の先生の配慮で貸してくれた仕切り付きのベッドで、薫の腕に残る痣を見て、俺は言葉を失った。どう見ても、あの時引っ張った痕だ。
右側に集中している痣も、彼女が体操着の上着を脱いで見せてくれた。確かに右側に硬いもので何度もぶつけた跡がブラ越しでも痛々しく残っていて、恥ずかしさと痛々しさで目を反らしたい。
こんな痣だらけだと『俺が本当に彼女を後ろから手首を掴んで床や壁に強引に押さえつけた』様に見えても仕方ない。俺も段々自分に自信がなくなってきた。いや、そんな記憶は俺にはない。
「あ、あのぉ。もう、良いかなぁ。ジロジロ見られるの恥ずかしいし」
「そうね。もう着替えてもいいよ。龍世、これって本当に貴方の仕業じゃないよね?彼女とは同意の元?」
「七川。お前が思っているような事は全くない」
「そ、そうだよ。委員長ちゃん! ハードルの練習中に転んだとき、みんなは軽い打撲だったのに、私はすぐに青アザになっていたんだよね」
「そうだよ。薫は元々皮膚が弱くて痣ができやすい体質なんだって」
「ふぅん。彼の為に庇っているわけじゃないの? それとも、……まさかとは思うけど、そういう趣味があったりするの?」
「ちちちち違うよ! 保健室で先生に診てもらおうよ。そしたら、痣の原因もはっきりするし」
薫の真剣な目と態度を見た七川は目を瞑って考え込む。それでも腑に落ちない七川に対して「本屋でぶつかったときに、右側の棚の角に当たったんだよね」「右目を失ってから中学校の頃から階段の手すりにぶつかったり転んだりすることがあった」「最近、よくぶつけることが多くて……」と説明したり保健の先生に話を聞いたりした。
「その……。私、疑ってごめんなさい」
七川委員長はようやく彼女の言葉を信じて深々と頭を下げて謝るが、俺は呆然としていて答えがでてこない。何よりも恥ずかしい思いをした薫は、俯いたまま俺の背中に隠れてしまった。
「ま、まぁ誤解が解けたなら良いかな」
俺は心の底からホッとした表情をする。ここで間違った対応をすると本当に逮捕されかねないからな。
「良かったぁ。ごめんね、私のせいで龍世の迷惑をかけて」
彼女はホッとしたのか胸に手を当ててベッドの上に座る。
「いや、別に良いんだけどさ。この痣ってどうにかしようか」
俺たちは三人で悩んだ。彼女の右目は見えないからどうしても、右側が見づらいのは仕方ないし、それを治すのは無理だ。しかし、こうも痣が出来るのも彼女にも可哀想だ。
「だったら、同じ環境を再現してみたら良いのかな?」
「同じ環境って?」
「薫ちゃんの右目が見えない状態を体験すれば、どんなふうにぶつかりやすいのか分かるでしょ? 何か対策を考えられるかもしれないよ!」
「そ、それって私に合わせて苦労しろってことじゃないよね?」
「違うよ! 薫がどんな風に毎日を頑張ってるのか、もっとちゃんと知りたいってこと!」
「そうだな。俺も知りたい……薫の見ている世界を」