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第11話 彼女のエロ漫画

「うわぁ、まじかよ。薫のエロ漫画じゃんこれ」


 翌日の日曜日、紙袋に入れっぱなしの漫画を取り出したら、自分が買った漫画本に混じって薫の漫画が入っていた。どうやら落とした際に急いで拾い上げた時に、薫の漫画も混じって自分の紙袋に入れていたらしい。

 しかも自分が買ったエロ漫画の一冊が無いことから、恐らく薫も間違えて紙袋に入れたのかもしれない。


 どうすんだよ、気まずいよ。


 昨日のあの出来事の後で、どんな顔をして薫に話しかければ良いんだ。

 あの時の薫の表情と胸を触った時の感覚がフラッシュバックして、顔が再び真っ赤になる。

 俺は『傷まみれの私が貴方のヒロインになれるなら』と書かれた女性向けの漫画を見つめて考える。


 漫画の表紙は、ヒロインの頬に出来たばかりの大きな十字傷があり、半裸のイケメンがヒロインの頬に滴る血を舌で舐めている。

 こうしてまじまじとみると女性向きの漫画ってなんかこう、物凄く細くて顔が整ったイケメンとちょっと可哀想な可愛いヒロインのセットの表紙が多いなと感じた。


「あいつはこういうのが好きなのか?」


 俺は彼女の漫画の表紙を眺めながら呟く。って何を考えているんだ!

 すぐに薫の漫画を返しに行きたいが、ちょっと興味本位で読んでみたくなった。

 もしかしたら、昨日の胸を押し付けた行動の意味が分かるかもしれない。

 もしかしたら、彼女の気持ちが分かって付き合えるのかもしれない。


「ちょっと位ならバレないよな?」


 いけないことだとはわかっていても、俺は彼女の買った本ページを読み始めた。

 ページをめくるたびにイケメンキャラの顔がアップで出てくる。イケメンキャラの設定が姫を守る騎士団のひとりで、ヒロインは男装して潜入した敵国のスパイなのだが、色々と突っ込みどころが多い。


 そのたびに、心の中で「おいおい、顔しか取り柄ないのかよ」「このイケメン騎士がやってる事って、スパイ容疑で自分が拷問で痛めつけたヒロインの傷を優しい言葉をかけながら舌で舐め回してるだけだよ」などと突っ込む。


 あと、百歩譲ってヒロインの男装を見抜けなかったとしても、男友達の部屋に入っていきなり服を脱ぎ出して着替えるのは現実的にあり得ない。

 俺が男装したヒロインの立場だったら脱いだ瞬間にドン引きだわ、これ。いや、女子はこれ見てドキドキするのかよ……。

 特に突っ込みたいところはこれだ。


「イケメン騎士の事が好きになったら、さっさと告白して付き合えよ! どう見ても両想いじゃねぇか」


 でも、ヒロインに優しい声をかけるシーンを読んだ瞬間、「俺もこういう言葉を薫に言った方がいいのか?」と真剣に悩む自分がいた。

 一巻を読み終えると、いつの間にかお昼を過ぎていた。

 俺は突っ込みどころの多い薫の漫画を丁寧にしまって、返しに行く準備をした。しかし、なんて言って返そうか考えて頭がグルグルしていた。

 そうこうしている内に、電話が鳴った。スマホの画面を見ると、薫だった。


『もしもし? 今、貴方の家に来て……良いかな?』


 まさか、このタイミングで向こうから電話するとは思わず、俺はドギマギしていた。いや、向こうも俺のエッチな漫画を返しにしたとは思うが。


「お、おう。ちょうど、薫に返さなきゃいけないものがあったんだ」

『そ、そうだよね……。わ、私も……。私も、龍世に返さないといけない漫画があるから、今から龍世の家に行くね』


 彼女の電話が切れると、俺は悶々としながら彼女が来るのを待っていた。

 いつもなら、暇つぶしにゲームしたり漫画を読んだりして彼女が来るのを待っていた。しかしそれをする気にも起こらず、ずっと彼女のエッチな漫画の表紙を眺めていた。


「こんなに時間が長かったっけ?」


 俺の家から薫の家まで徒歩十分程だが、今は二時間経過したように感じるほどに気が遠くなった。


「き、来ちゃった」


 やっと彼女が来たが、彼女も気恥ずかしそうにしていて頬が赤くなっている。


「あの、えっと……昨日ぶつかった時に間違えた漫画、返しに来たんだけど」


 彼女は内股になりながらもじもじしている。なんとなく、彼女が言いたいことが分かった。


「もしかして、私の買った漫画読んで……ないかな? これ、返すよ。『幼馴染と目隠し日記』を」

「う、えっとその。うーん。さぁね。そっちこそ読んでない? はい返すよ。『傷まみれの私が貴方のヒロインになれるなら』」

「んーっと、えっと……。ノーコメント」


 お互いに恥ずかしそうにしながら曖昧に答えながら、自分のエッチな漫画を受け取る。

 俺たちは俯き、受け取った自分の漫画の表紙を眺めてページをめくり始める。

 これ絶対、俺が薫の漫画を読んだことがバレているし、向こうも俺の漫画を読んだ事がわかっているだろ。……こんな形でお互いの性癖がバレるとは思っていなかった。


「読んだよね。これ。ページの端っこ折れてるし」

「……そっちこそ」


 俺が沈黙を破って問い詰めると、言い返される。


「そっか、龍世ってああいうのが好きなんだ……ふぅん。意外かも」

「いやいや、ちょっと待て! あれはその……試しに読んでみたっていうか」

「へぇ~試しねぇ……ふーん」


 薫はニヤニヤしながら紙袋を小脇に抱える。


「そっちこそ、『傷まみれの私が貴方のヒロインになれるなら』とか、すげぇタイトルだけどさ……」

「それを言うなら『幼馴染と目隠し日記』もなかなかのものだったけどね……」

「はは、違いねぇ」


 俺たちは互いに苦笑した。


「……ねえ、ああいう目隠しさせて女の子を辱めていじめる漫画って、どうして好きなの?」

「誤解を招く言い方はやめろ。いや、別に毎回読んでるわけじゃなくて!」

「ふぅん。じゃあさ、龍世は私にどんなことしてほしい? どんな風にエッチないじめたいの?」

「え、えぇ!? いやいやいや、それは……」


 彼女は軽く冗談めかして微笑むが、俺は動揺して汗だくになっていく。


「そそそそっちこそ、お前の部屋に入った時に服を脱いで着替えても良いんだぜ?」

「ふふ、冗談だってば。でも、少しだけ考えてみるね」


 薫がこんなエロ漫画読んでるなんて意外だったけど……。

 この後彼女は帰ってしまったが、俺は一人で喉がからからになるまで悶々と悩んでいた。


  もしかして、薫は……『俺が好き』って思っていいのか?


「薫の漫画のエロシーンを読んでドキドキするのと、昨日の薫の柔らかさを思い出してドキドキするの……どっちも、同じかもしれない」

「いや、むしろ……薫の方が、いい」

「……クソ。本物の方がいいじゃねぇか。薫」


 俺は紙袋を手に取ってとぼとぼと自宅へと戻っていった。本当は漫画を買った後で軽くランニングするつもりだったが、今はそれどころじゃない。

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