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第10話 また明日

「ようやく鼻血が止まったが、薫に対する気持ちは止まらん」 


 翌日の土曜日。俺は彼女の夕焼けの顔がどうしても離れられず、俺は本屋へ立ち寄る。

 男なら、理由を聞かなくても良いだろう?

 今日は珍しく、薫はいない。いつもなら、彼女の病状が悪化すると電話して「一緒にいて」といって彼女と過ごすことが多い。


 大抵彼女の家か俺の家、又は近くの町をぶらぶらするのが日課だ。又は七川の趣味であるコスプレグッズ製作の手伝いをする事もあった。

 しかし、今朝薫の方から「ちょっと用事があるからひとりで過ごす」と電話があって彼女とは久しぶりの別行動だ。


 あの片目騒動以来彼女のメンタルが安定して来て安堵した。一方で、ちょっと寂しさを覚えた。


「薫の顔がチラつくのを誤魔化すには……そうだ、こういう時こそ健全な男子の本能に従うべきだ!」


 よし、エロ漫画を探そう。健全な男子の行動として!

 俺が気になっているタイトルを物色するが、いざ会計に並ぼうとする。しかし、会計には女性店員しかいない事に気付いて引き返す。こんな漫画を会計に持っていったら、女性店員にドン引きされるだろう。それに、薫にこんな姿を見られたら……。

 俺は薫に嫌われてしまう。


 必死に考えた結果、健全な漫画の間にエロ漫画をサンドイッチする作戦で購入したのだ。 それでも女性店員に会計するのは恥ずかしく、すぐにサンドイッチ作戦がバレて苦笑されたが、まぁ良いだろう。通販で買ってうっかり家族にバレるより数倍マシだ。

 自分にそう言い聞かせた。


「へ? あ、なんでここに?」

「いや、こっちこそ薫がいるんだ?」


 急いで本屋から出ると、薫とばったり遭遇した。なんでこんな時にこんな場所で会いたくなかった! 互いにぎこちない笑顔を浮かべる。


「あ、えっと……。ちょっと漫画買いに来ただけだよ」


 恥ずかしい気持ちでエンストした俺の頭を強引にフル回転して必死に言い訳の言葉を捻りだした。


「はわわ、そうなんだ。私も委員長ちゃんからおつかい頼まれて」

「へ、へぇ。七川から頼まれて本を買いにか」


 薫は視線を泳がせながら、紙袋を胸元に抱え込むようにしている。

 ……なんか怪しいな、薫。

 彼女も頬を赤らめていて、目の焦点が合っていない。ここまで動揺しているときは嘘を付いている時だ。

 本当にただの「おつかい」なのか?

 いや、別に変な本を買ったわけじゃ……ないよな?


「そ、そっか。じゃあ、帰るか」

「うん!」


 薫がちょっと早歩きになる。

やっぱり何か隠してるような……?

だが、俺も自分の袋の中身がバレないようにするのに必死だった。 いや、別に変な本を買ったわけじゃ……ないよな?


 結局、俺たちは一緒に帰る事になったが、またまた気まずい雰囲気が流れている。

 流石に昨日みたいに黙り込むってことはなく、いつも通りに会話していたつもりだ。


「薫は本屋でどんな本を買ったんだ?」

「んー、委員長ちゃんに言っていいか聞かないとダメだなー。りゅーせーはどんな漫画買ったの? 気になるなー」

「え、んん、普通の漫画だよ」


 しかし、手に持っている漫画がバレない様にするのに集中して会話に集中できないし、彼女の表情が分からない。俺は事前に買った普通の方の漫画を紙袋から取り出す。


「あ、これ知ってる! 農夫が成り行きで悪政王を倒して勇者になった異世界系でしょ! 私も後で読ませて」

「お、おう」


 俺の返答の声が思わず裏返ってしまった。


「えっと、大丈夫? たまに龍世の声が上ずっているけど、風邪引いてない?」

「そ、そっちこそ、目の焦点が合ってないよ?」


 ここでようやく、お互いに冷や汗をかいてチラチラと紙袋を見ていることに気付いた。


「うぇ、えっと。気になる? 紙袋」

「薫、どっちの紙袋? って危ない!」


 薫が紙袋に気を取られているところに、横断歩道の車に引かれそうになっていた。 

 俺が強く腕を引いた瞬間、薫の体が俺の胸にぶつかった。その拍子に、彼女の紙袋と俺の紙袋が空中で衝突し、中身がぶちまけられる。

「あ、ありがとう。龍世」

「お、おう。とにかく、気をつけろよ」


 彼女はお礼を言った後で目線を下に下げていた。

俺が薫の腕を引っ張った勢いで、ふたりの紙袋がふっ飛んだ。


「うわっ!」

「あ、ああああっ!!」


 無造作に地面に散らばる本の数々。 みると、互いに購入した漫画に交じって、俺のエッチな漫画や彼女が購入したBL、女性向けの漫画の表面がアスファルトの上に散乱していた。


「えーっと……これが俺の……で、これが薫の……?」


 目を凝らすと、お互いの漫画が混ざっていることに気づいた。


『幼馴染と目隠し日記』

『ヤンデレ巨乳彼女は気持ちいい』


 ……まずい!

 そして、薫の足元には……。


『傷まみれの私が貴方のヒロインになれるなら』

『眼帯の君の隣にいられるなら』


 しばらくお互いの思考が止まった。状況を理解した次の瞬間——

「「ええええええええええええ!!??」」

 俺と薫は同時に絶叫した。 俺たちは急いで自分の紙袋に飛び散った漫画をかき集めて乱暴に突っ込んで立ち上がる。

「ふーん、りゅうせーってそういうのが好みなんだ」

「な、なんだってんだ。別にいいだろ。俺だって男だからさ。そっちこそ」


 彼女の家から数メートル先の公園で、正午を知らせるベルがなった。俺たち二人は顔を真っ赤にしているが、猛暑の熱なのか、気恥ずかしさなのかもうわからない。

俺がそっぽを向くと、薫はちょっと考え込むように指を唇に当てた。 


「龍世って……。それで、気持ちよくなるんだね……? もしかして、私の事?」

「う、うるせぇ」


 俺は彼女の質問に小さく答える。


「じゃあさ、手を、貸してくれない?」

「手? なんだよ。別にいいけど」


 俺は右手を言われたまま差し出すと、薫は俺の手をそっと握った。


「え?」


 そして——むぎゅっ。


 彼女は無言で俺の右手を引っ張って自分の左胸を強く押し付けた。柔らかい感触。

じんわりと伝わる彼女の生暖かい体温と薫の汗。。

 白いブラウスから汗でうっすらと透けて見える黒いレースのブラが見えていて、右手にはブラウス越しにブラのレースの凹凸を感じている。


「……え、えええええ!!??」


 俺の頭に血がのぼった瞬間、咄嗟に彼女の手を振り払って情けない悲鳴を上げる。


「か、薫? 何を考えて……」

「バイバイ! また明日ね」

 ガチャン!

「もしかして、俺のこと……?」

 彼女はそそくさと自宅までそそくさと自宅へ駆け込んでいった。

 茫然と立ち尽くした俺は、呆然と手を見つめるしかなかった。

 なんで、こんなことを? ふざけてるだけなのか、それとも……。俺には答えがわからない。もしかして、俺の事が好きなのか? 彼女が買っていた漫画にヒントがあるかもしれない。

「ただの冗談……? いや、でも、もしかして——?」

 でも、手のひらに残る感触が、何よりも鮮明に俺の頭を占領していた。



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