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第3話 踏み出す一歩,そして選ぶ未来

翔輝は駅伝部の掲示板を見つめながら、湊と千夏に問いかけられた言葉に答えることができなかった。心の中では、すでに答えを出していたかのようにも思えた。しかし、現実と向き合わせることで、彼は再び自分に問いかけていた。


「もし、部活に入って走ったとして、本当に大丈夫なんだろうか?」


その疑問が心の中で渦巻き、そして言葉にすることができずに黙っていた。湊と千夏は、そんな翔輝を見守るように立っていた。


「翔輝…」千夏が少しだけ静かな声で言った。「駅伝部に入りたいって、やっぱり思ってるんだよね?」


翔輝は一瞬、千夏の目を見つめた。彼女の瞳には、彼を励ますような温かいものが感じられた。だが、その温かさの中にも、彼を心配している気持ちがにじみ出ているのが分かった。翔輝は深く息を吸い、そして静かに答えた。


「うん。でも、俺、走るのが好きなんだ。でも、心臓に無理をさせることは絶対にできない。どうすればいいか、分からないんだ。」


湊が少し前に出てきて、翔輝の肩に手を置いた。「お前がどうしても走りたいなら、俺たちは全力で応援するよ。でも、無理はしないでな。お前が辛くなった時には、すぐに言ってくれ。」


「ありがとう、湊。」翔輝は少し微笑みながら、友達の言葉を受け入れた。そして、ふと振り返ると、千夏も心配そうに彼を見守っている。


「翔輝、無理しなくていいんだよ。」千夏は、優しく言った。「私たちがいるから、どんなことでも話してね。」


その言葉に、翔輝は深く胸が温かくなるのを感じた。二人が自分の選択を受け入れてくれることが、何よりも心強かった。だが、同時にその言葉に甘えてはならないという気持ちも芽生えた。自分の決断は、自分でしっかりとしなければならない。


翔輝は、再び掲示板を見つめる。駅伝部の活動内容が書かれたポスターには、練習の時間や大会の予定が載っていた。そのどれもが、翔輝を引き寄せるように感じられた。彼は何度もそのポスターに視線を向け、心の中で葛藤を繰り返した。だが、ひとつだけ確かなことがあった。それは、走りたいという気持ちが自分の中で強くなってきたことだ。


「部活に入るかどうか、決めなきゃならないな。」翔輝は心の中で決意を固め、再び二人に向き直った。「俺、駅伝部に入る。」


湊と千夏は、翔輝の言葉に驚き、そして同時に少し安心したように笑った。


「お前が決めたなら、それが一番だよな。」湊がにっこりと笑った。「俺たちは応援してるから、無理せずに頑張れよ。」


「うん。」翔輝はその言葉に、心から感謝の気持ちを抱きながら頷いた。「ありがとう。」


その日の放課後、翔輝は駅伝部の顧問の先生に会いに行った。部室の前に立った翔輝は、少し緊張しながらドアをノックした。中から先生の声が聞こえ、部室に入ると、そこには数人の部員が集まっていた。皆、初対面の翔輝に興味津々の様子で目を向けてきた。


「君が、新しく駅伝部に入る杉本翔輝君だね?」顧問の先生が優しく声をかけてきた。


「はい、よろしくお願いします。」翔輝はしっかりと答えた。


先生は少し考え込むようにしてから言った。「君のことは湊君から聞いている。運動が得意だということだね。ただ、君の体調については十分に気を付けてほしい。もし何かあったら、すぐに言うようにしてくれ。」


翔輝は頷きながら、改めて自分の覚悟を固めた。駅伝部に入ることで、彼の時間はますます有限になっていくかもしれない。しかし、同時にそれが彼にとって大きな意味を持つことになるのだろう。


「分かりました。」翔輝は深く息を吐き、もう一度自分に誓った。


その後、翔輝は駅伝部に正式に入部した。最初の練習は、控えめに、そして慎重に進められた。周りの部員たちは、最初は翔輝の体調を心配しながらも、次第に彼の意欲に引き込まれていった。彼が走る姿に、誰もが感動を覚え、少しずつチームとしての一体感が生まれていった。


だが、翔輝には常に心の中での葛藤があった。体調が不安定になれば、すぐに練習を中断しなければならないし、時には周りの期待に応えられないこともあるだろう。しかし、それでも彼は一歩一歩、着実に自分のペースで前に進んでいた。


「翔輝、お前が一緒に走ってくれるだけで、みんなが元気をもらってるんだ。」湊が練習後に言った。


「ありがとう、湊。」翔輝は少し照れくさそうに答えた。「でも、俺も頑張らないと。」


千夏も微笑みながら言った。「翔輝、無理しないでね。でも、みんなのために頑張るって気持ち、すごく大切だよ。」


翔輝は、湊と千夏の言葉に背中を押されながら、限られた時間の中で、できる限りの力を出し切る覚悟を決めた。彼が選んだ道は、簡単ではないかもしれない。しかし、その先にある何かを信じて、彼は走り続けるのだろう。


翔輝は、次の一歩を踏み出した。

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