女が2人、連れ立って歩いていた。1人は筋骨隆々とした体躯に身の丈程の大剣を背負い、身体には分厚そうな革製の鎧を身に纏う。兜は付けておらず、剥き出しのその左の頬には大きな十字傷が走っている。その大きな体躯に似合わない小さな丸っこい耳の端は欠けており、その他全身に刻まれた大小様々な傷痕がその女の
もう一人の女も負けず劣らずの体格をしていた。が、此方の女は『力強さ』というよりも『しなやかさ』が強調されている。大剣を背負って歩く女よりも軽装ではあるが、胸や脛などには革製の鎧を付けている。腰には大ぶりのナイフがぶら下げられており、使い込まれたそれが放つ鈍い輝きは彼女が歴戦の戦士である事を周囲に伝えていた。
「いや~、今回も稼いだなぁ」
「お互いになぁ。流石に三泊四日の探索行は堪えたぜ」
この2人、ルェンヘン遺跡群帝国……通称『帝国』の首都ニーロフに拠点を置く“探索者”の2人組で、少しは名の知れたコンビなのである。大剣を背負っている方が熊獣人のローラ、ナイフを腰に提げているのが虎獣人のミンファという2人組でミンファの斥候とローラの怪力という組み合わせにより、古代遺跡の幾つかを踏破した実績もある実力確かな探索者である。
「とりあえずどうする?
「なんだよ?気持ち悪い笑い方しやがって。怪物に殴られ過ぎてついに頭をやったか?」
「ほ~ん?お前アタシにそんな態度取っても良いのか?折角良い店を紹介してやろうと思ったのに」
気持ち悪いと断じるミンファに、何やら自信ありげなローラ。
「なんだよ、可愛い娘が新しく入った娼館でも見つけたか?それとも美味い酒を出す店か?」
「いいや、飯屋だ」
「飯屋?はん、飯なんぞ空きっ腹を埋める為に詰め込むだけのもんだろ?それならよっぽど酒をたらふく飲んだ方がマシだっての」
ミンファにとって、食事というのは空腹を紛らわす為の味気無い行為でしかない。何処で喰おうが大差無く、自ら進んで口に運ぼうと思った事はほぼ無いと言える。勿論、人は食べないと飢えて死ぬという事は理解している。が、『食事を楽しむ』という事がミンファには理解出来なかった。まだ、飲んでフワフワと気持ち良くなれる酒の方が良かった。まぁ、酒も飲み過ぎれば翌日地獄を見る羽目にはなるのだが。
「ところがどっこい、その飯屋じゃあ見た事も聞いた事もねぇ料理ばかりが出てくる。それがいちいち全部美味い、しかも異国の酒も出てくるぞ?それも色んなのがな」
異国の酒、と聞いてミンファも興味がそそられる。ツマミは大した事がなくても酒が美味ければどうにかなる、と気持ちが傾く。
「そして何よりな……」
ここからが最重要機密、とばかりにローラが声を落とす。
「その飯屋の店主はな……男なんだ」
「何ぃ!?お、おお、おおお男が飯屋やってんのか!何で男が飯炊きなんてやってんだよ!?」
「声がデケェよ馬鹿!バレたらどうすんだ!」
思わぬ驚愕の事実に声を張り上げてしまったミンファの頭をローラの拳骨が襲う。ガツン、と頭に衝撃が走ってクラリとした瞬間に口を抑えられる。ローラは周囲を窺う様に、キョロキョロと視線を送る。
「静かにしろ。まだ、その飯屋は出来たばかりらしくてな……そんなに人に知られてねぇ。もし有名になってみろ、アタシ等みてぇな
「す、すまねぇ……だがよ、男だぞ?あのドラゴンより珍しいとすら言われる生きた宝石の!」
ミンファが驚くのも無理は無い。何しろこの世界は男がとてつもなく貴重な世界なのだから。