目次
ブックマーク
応援する
2
コメント
シェア
通報
貞操逆転世界の熊さん食堂~モテない俺は、貞操逆転世界で飯を作ります~
貞操逆転世界の熊さん食堂~モテない俺は、貞操逆転世界で飯を作ります~
ごません
異世界ファンタジースローライフ
2025年03月24日
公開日
1.4万字
連載中
 非モテ・メタボ・中年の独身男神谷 巧(かみや たくみ)はある日、異世界から地球に遊びに来ていた女神様にぶつかられて車道に転倒、車に跳ねられ命を落とす。うっかりミスで巧を殺してしまった女神は、そのまま復活はさせられない代わりに自分の管理する世界に来ないかと誘う。そこで巧は出来る限りのチートを貰って、いつか脱サラしたらやりたいと願っていた食堂経営に挑む事に。ただ、その世界は男がとてつもなく貴重な世界だったらしく……!?

第1話 裏通りの天国・1

 女が2人、連れ立って歩いていた。1人は筋骨隆々とした体躯に身の丈程の大剣を背負い、身体には分厚そうな革製の鎧を身に纏う。兜は付けておらず、剥き出しのその左の頬には大きな十字傷が走っている。その大きな体躯に似合わない小さな丸っこい耳の端は欠けており、その他全身に刻まれた大小様々な傷痕がその女の気質かたぎでは無い剣呑な雰囲気を物語っていた。


 もう一人の女も負けず劣らずの体格をしていた。が、此方の女は『力強さ』というよりも『しなやかさ』が強調されている。大剣を背負って歩く女よりも軽装ではあるが、胸や脛などには革製の鎧を付けている。腰には大ぶりのナイフがぶら下げられており、使い込まれたそれが放つ鈍い輝きは彼女が歴戦の戦士である事を周囲に伝えていた。


「いや~、今回も稼いだなぁ」


「お互いになぁ。流石に三泊四日の探索行は堪えたぜ」


 この2人、ルェンヘン遺跡群帝国……通称『帝国』の首都ニーロフに拠点を置く“探索者”の2人組で、少しは名の知れたコンビなのである。大剣を背負っている方が熊獣人のローラ、ナイフを腰に提げているのが虎獣人のミンファという2人組でミンファの斥候とローラの怪力という組み合わせにより、古代遺跡の幾つかを踏破した実績もある実力確かな探索者である。


「とりあえずどうする?組合ギルド寄って戦利品の換金して、風呂入って……打ち上げは?また娼館?」


 組合ギルドとは、ルェンヘン遺跡群帝国国営の組織で、読んで字の如く無数の遺跡が存在するこの帝国に於て、遺跡を探索して、その遺跡に眠る財宝や遺跡を塒にする怪物モンスターを退治する者達、探索者を管理する為の組織である。ここに登録した者は国からの首輪を付けられる代わりに、ある程度の国からの保護を受ける。探索者間での揉め事の仲裁や財宝・素材の買取、遺跡探索に必要な消耗品の販売や探索者パーティの斡旋等々。受けられる恩恵は多岐に渡る。ミンファとローラの2人も遺跡探索を終え、組合に向かう道すがら。泊まり掛けの探索行は実入りも良いがその分苦労も多いのである。遺跡の中ではいつ怪物に襲われるかも知れないと熟睡は出来ないし、食事も持ち込んだ保存食か食えそうな怪物を仕留めて軽く調理して食べる程度。マトモな飯も酒もご無沙汰だし、張り詰めた空気の鉄火場から戻るとこう、溜まるのだ。色々と。なので2人は毎回の探索の後は親睦も兼ねて打ち上げをしていた。飯を喰い、酒を飲み、溜まった獣欲を発散する。稼ぎが少ないとその日の稼ぎが吹っ飛ぶ事もある。だが、その打ち上げで英気を養う事が明日以降の探索への活力になっているのだから疎かにも出来ない。打ち上げの店選びはモチベーションの維持に大変重要なのだ。するとローラはグフフと含みを持たせた厭らしい笑みを溢した。


「なんだよ?気持ち悪い笑い方しやがって。怪物に殴られ過ぎてついに頭をやったか?」


「ほ~ん?お前アタシにそんな態度取っても良いのか?折角良い店を紹介してやろうと思ったのに」


 気持ち悪いと断じるミンファに、何やら自信ありげなローラ。


「なんだよ、可愛い娘が新しく入った娼館でも見つけたか?それとも美味い酒を出す店か?」


「いいや、飯屋だ」


「飯屋?はん、飯なんぞ空きっ腹を埋める為に詰め込むだけのもんだろ?それならよっぽど酒をたらふく飲んだ方がマシだっての」


 ミンファにとって、食事というのは空腹を紛らわす為の味気無い行為でしかない。何処で喰おうが大差無く、自ら進んで口に運ぼうと思った事はほぼ無いと言える。勿論、人は食べないと飢えて死ぬという事は理解している。が、『食事を楽しむ』という事がミンファには理解出来なかった。まだ、飲んでフワフワと気持ち良くなれる酒の方が良かった。まぁ、酒も飲み過ぎれば翌日地獄を見る羽目にはなるのだが。


「ところがどっこい、その飯屋じゃあ見た事も聞いた事もねぇ料理ばかりが出てくる。それがいちいち全部美味い、しかも異国の酒も出てくるぞ?それも色んなのがな」


 異国の酒、と聞いてミンファも興味がそそられる。ツマミは大した事がなくても酒が美味ければどうにかなる、と気持ちが傾く。


「そして何よりな……」


 ここからが最重要機密、とばかりにローラが声を落とす。


「その飯屋の店主はな……男なんだ」


「何ぃ!?お、おお、おおお男が飯屋やってんのか!何で男が飯炊きなんてやってんだよ!?」


「声がデケェよ馬鹿!バレたらどうすんだ!」


 思わぬ驚愕の事実に声を張り上げてしまったミンファの頭をローラの拳骨が襲う。ガツン、と頭に衝撃が走ってクラリとした瞬間に口を抑えられる。ローラは周囲を窺う様に、キョロキョロと視線を送る。


「静かにしろ。まだ、その飯屋は出来たばかりらしくてな……そんなに人に知られてねぇ。もし有名になってみろ、アタシ等みてぇな破落戸ゴロツキが通えなくなるかもしんねぇぞ?」


「す、すまねぇ……だがよ、男だぞ?あのドラゴンより珍しいとすら言われる生きた宝石の!」


 ミンファが驚くのも無理は無い。何しろこの世界は男がとてつもなく貴重な世界なのだから。



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?