外に出て、アランの言葉の通りだとクラウドは内心苦笑いをした。
レティシャ王女の輿入れに合わせて同日に行われる婚前宣誓式は、他国の王族をソルディア皇室に快く迎え入れるという宣言の場である。
婚儀に進むために避けてはならない習わしの一つだが、三日後に控えたレティシャ王女の披露目の場である歓待式や、婚姻式に比べると参加者は多くない。
かといって少ないとも言いきれない数の貴族らが、シュトラウスの悪女を一目確認するため皇城に集っている。
だが、花嫁を迎える空気としては最悪だ。誰も口を開こうとはせず、ただレティシャ王女の到着を黙って待ち続けていた。
「……殿下だ」
「皇太子殿下」
「殿下がいらっしゃった」
姿を現したクラウドに、少しだけ険しい雰囲気が和らぐ。
威厳はありながらも、艶やかに揺れる紫ががった黒髪と、黄昏の空を思わせる瞳、文句のつけようがない美しい風貌の彼から放たれる煌々としたオーラに、周囲の心は不思議と上向きになる。
そうだ、シュトラウスの悪女がなんだ。
我が国の皇太子が隣国の悪女になど屈するものか。
どのような女が来ようとも皇太子が劣ることはない。
いっそ皇太子の麗しい容姿を前にして、慌てたじろげばいいのだ。
祖国ソルディアを、シュトラウスの悪女の好きにしてなるものか。
場が密かに強気な姿勢を持ち始めたのと、花嫁行列が皇城前に到着したのはほぼ同時のことだった。
一際豪奢な作りをした馬車が、クラウドの立つ場所から少しだけ離れた位置に停まる。
周りが固唾を飲んで見守る中、クラウドは一歩、また一歩と馬車に近づいた。
クラウドが立ち止まったところで、御者が扉を開ける。
かすかに見えた馬車の中で人影がゆらりと動き――次の瞬間、皆が息を呑んだ。
「……わあ」
「
「お母さま、あのひととってもきれい」
「エアルバさまみたいだね」
大人たちが口を閉ざす中、事情をよく知らない幼い子供たちがシュトラウスの悪女を瞳に映し、まるで宝石を見つめるようにキラキラとした眼差しを送っていた。
亜麻色がかった白髪が春の日差しと風を受け、柔らかく靡いている。
淡い水色の瞳を縁取る長い睫毛がまばたきと共に動く様は、まるで蝶の羽ばたきのように可憐で。
光沢のある上品に透けたアイボリーのドレスは、差し色の薄紫と薄桃の生地が使われており、数歩先にいるクラウドの容姿や装いと妙に馴染んでいた。
春の精と見紛うその者は、度肝を抜かれた観衆にそっと目を向けた。
「……慈愛を司る、
魔導師の象徴たるロッドを両手に握り、腰を低く下げて礼をとったシュトラウスの悪女――レティシャは、ふわりと春のひだまりのような微笑みを浮かべる。
「シュトラウス王国より参りました、レティシャ・クレプスキュル・シュトラウスでございます」
その瞳の奥にわずかな涙が滲んでいたことに、目を奪われていたはずの誰もが気づけなかった。
ただ、ほんの少しの違和をクラウドの胸に残して。
《第二章 終》