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偽り悪女の愛するすべて
偽り悪女の愛するすべて
夏みのる
異世界恋愛ロマファン
2025年03月24日
公開日
5.2万字
連載中
愛するすべてを救うためなら、悪女になってみせる。

無能な亡霊王女と幼いころから虐げられたレティシャは、隣国北ソルディア帝国との和平協定の象徴として嫁ぐことになった。
誰からも愛された経験のないレティシャに、夫となった皇太子を含め、北ソルディア帝国の民は優しかった。
こうして少しずつ幸せというものを知っていったレティシャだが、祖国シュトラウスの裏切りにより、愛する夫も、北ソルディア帝国も失う。
しかし、気がつくとレティシャは、北ソルディア帝国に嫁ぐ日の五年前に時間が戻っていた。

絶望を味わったレティシャは、もう二度とあのような悲劇を起こさないために強く前を向く。
弱いままではいられない。なにも守れない。

未来を変えるため、レティシャは敵ばかりの王宮で悪女の仮面を被ることを決意する。

たとえ五年後、再び輿入れの日を迎えたとき、愛する北ソルディア帝国の民から嫌われてしまうことになっても。

第1話 序章



「ここまで盛大な歓待をしていただけるとは思っておりませんでした。お心遣いに感謝します、皇太子殿下」


 豪華絢爛にふさわしい装飾で溢れた大広間には、大勢の招待客がひしめいていた。

 楽しげに歓談しているように見えて、きっと誰もがこちらに意識を向けている。このお祝いムードに溢れる空間で、畏怖と嫌悪を忍ばせている。

 ええ、わかるわかる。こんなに不本意なことはないと内心腸が煮えくり返っていることくらい。


 自国の大切な皇太子にあてがわれた隣国の花嫁が、悪女と名高い女だったら誰だって嫌に決まっている。


「どうかあなたがこのソルディアの地を、心から重んじ愛してくれるようになることを願っている」


 よそよそしい態度と口調。けれど言葉は本心を語っていた。

 彼は生まれ故郷であるソルディアを深く愛している。また、民も同じようにソルディアに生まれたことを誇りに思っている。


「ええ、もちろん。そのために嫁いで来たのですから、当然です」


 きっと、信じてもらえていないんだろうな。

 ほら、あなたのうしろに控えている宰相補佐の疑わしげな眼差しといったらない。


 立派で華やかな歓待式。でも、誰も私のことを歓迎などしていない。

 そうだということは最初から知っている。

 それでも私には、ここに来なければいけない目的があった。


「まだ、婚姻式を控えた段階ですけれど。このソルディアを愛することを、誓いますわ」

「……そうなることを期待している」


 本当は、もうずっと。

 私はこの国を愛している。


 この国を、民を、そして、あなたを。

 ――時戻り前から。


 大切だったすべてを守ることができるのなら、悪女と蔑まれ嫌われたって構わない。

 あの日の幸せを、あるべきはずの未来を取り戻せるのなら、私はどんな困難にも立ち向かってみせる。


 だからお願い、愛するすべてよ。

 どうか、今度こそ生きて。



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