「ここまで盛大な歓待をしていただけるとは思っておりませんでした。お心遣いに感謝します、皇太子殿下」
豪華絢爛にふさわしい装飾で溢れた大広間には、大勢の招待客がひしめいていた。
楽しげに歓談しているように見えて、きっと誰もがこちらに意識を向けている。このお祝いムードに溢れる空間で、畏怖と嫌悪を忍ばせている。
ええ、わかるわかる。こんなに不本意なことはないと内心腸が煮えくり返っていることくらい。
自国の大切な皇太子にあてがわれた隣国の花嫁が、悪女と名高い女だったら誰だって嫌に決まっている。
「どうかあなたがこのソルディアの地を、心から重んじ愛してくれるようになることを願っている」
よそよそしい態度と口調。けれど言葉は本心を語っていた。
彼は生まれ故郷であるソルディアを深く愛している。また、民も同じようにソルディアに生まれたことを誇りに思っている。
「ええ、もちろん。そのために嫁いで来たのですから、当然です」
きっと、信じてもらえていないんだろうな。
ほら、あなたのうしろに控えている宰相補佐の疑わしげな眼差しといったらない。
立派で華やかな歓待式。でも、誰も私のことを歓迎などしていない。
そうだということは最初から知っている。
それでも私には、ここに来なければいけない目的があった。
「まだ、婚姻式を控えた段階ですけれど。このソルディアを愛することを、誓いますわ」
「……そうなることを期待している」
本当は、もうずっと。
私はこの国を愛している。
この国を、民を、そして、あなたを。
――時戻り前から。
大切だったすべてを守ることができるのなら、悪女と蔑まれ嫌われたって構わない。
あの日の幸せを、あるべきはずの未来を取り戻せるのなら、私はどんな困難にも立ち向かってみせる。
だからお願い、愛するすべてよ。
どうか、今度こそ生きて。