「ねえ、ずっと気になっていたんだけど。どうしてあの人を侍女にしたの?」
支度を整えた私は、部屋まで迎えに来てくれたシルヴァンと朝散歩をするため庭園に出ていた。
この二年間、部屋に閉じこもってろくに動かず陽の光も浴びていなかった私は、体力が同年代の子供よりかなり低いらしく、少しずつ基礎体力を上げるために軽めの運動から始めることになったのである。
たしかに半日どころか、数時間もしないで息が切れることもあるし、体力がなさすぎるよね。
まだ始めて数日だけれど、毎回シルヴァンが付き添ってくれる。いつも他愛ない会話ばかりしているのだが、今朝は密かに疑問だったというカレンのことを聞かれてしまった。
「それ、さっきカレンにも聞かれたよ」
「で、君はどう答えたの」
そんなに気にすることなのかなと思いつつ、私はカレンに言った内容を教えた。シルヴァンは意外そうな顔をする。
「君って本当に変わってるね。散々酷い環境にいた君に罪悪感はあっても、我が身可愛さで見過ごしていた人を侍女にするだなんて。それこそ君が元世話係に言っていた、自分の保身しか考えていなかった人なんじゃないの?」
痛い所を突かれる。まあ、そう言われてしまえばそうなんだけど。
「…………自分が一番大切にしたいもののために見て見ぬふりをする気持ちは、分からなくもないから」
綺麗な舗装道を歩きながら、ぽつりと呟く。
すぐ横から強烈な視線を感じた。
「シルヴァン、こっち見すぎじゃない?」
「いや。君ってたまに、達観した表情をするときがあるなと思って。かと思えばこの間みたいに人目も気にせず泣いたりするし。見ていて飽きない」
観察されているような目つきにギクリとする。
「……そういうシルヴァンも、9歳のくせに大人びてるよね。子供じゃないみたい」
「ははっ、くせにって」
私の言い方が面白かったのか、シルヴァンは小さく吹き出した。それから静かに目を細める。
「俺の場合は、泣き虫な子供のままじゃ生きていけなかっただけだよ」
何気なしに言ったシルヴァンに対して、私は返答に躊躇ってしまった。
そういえば私は、結局シルヴァンの素性をなにも知れていない。
幼少から『影』として所属しているからには、何かしらの事情があるのだろうけれど。さすがに素性は尋ねにくい。
(それに私も、ようやく生活が落ち着いてきたわけだし
今後の行動指針とかをもっと練るべきよね)
お父様に向かって「必要悪になる!」とか言ってしまったけれど、それが具体的にどういうことなのか。なにをするべきなのかをもう一度きちんと整理して固めていきたい。
私としては裏方でもなんでも良いので、家門に貢献できればいいなと思っているんだけど。
「おい! 誰の許可を得てここに入って来ているんだ! この庭園はヴェルセルグの血縁しか入れないはずだぞ!」
そのとき、背後からした声に背筋がゾクッと粟立った。