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第13話 パパってじつはわかりやすい?




 その後、騒ぎを聞きつけたお父様の登場により、ナタリーは衛兵に連行された。


 玄関ホールでの始終をメイドから聴取したお父様は、場に居合わせた全員に「他言無用」と発言を制限していた。


 私はそのままお父様に手を引かれ、執務室へと向かった。


「ククルーシャ、怪我は?」

「していないです。叩かれそうになったけど、シルヴァンが守ってくれました。迷惑をかけてごめんなさい」

「……迷惑じゃない。それより怪我がなくてよかった」


 お父様はほっとした様子で黙々と廊下を歩く。

 にしてもお父様、歩くのちょっと早い。


 手を繋がれたことにびっくりしていたけど、身長差がありすぎるせいでほぼ引きづられているような。でもお父様は気づいていない。子供との接し方に慣れていないんだろう。


 さらに最後尾を歩くシルヴァンは、間抜けな歩き姿の私を見てもなんの助言もせず小さく吹き出していた。おい。



「ここに」


 執務室に到着すると、お父様は脚の低いテーブルが置かれた場所の椅子に座るよう促す。


 私は目の前に置かれた椅子を見て思わず黙り込んでしまう。

 あきらかに私の身長ではひょいっと座るには難しい高さである。しかしお父様は手を繋いでいたときと同様に気づいていない。

 でも、椅子に乗せてほしいとお願いするのはなんだか躊躇われて、とりあえず一人で座ってみる。


「……っ、わっ」


 両手でしっかり体を支えながら勢いで座り込もうとしてみたが、失敗に終わった。

 無様に床へと崩れ落ちる私の様子を見ていたお父様は、そこでようやく、あ、と察しがついた。


「まだ大きすぎるようだな」


 お父様は軽々と私を持ち上げ、椅子に座らせてくれた。


「……ありがとうございます、パパ」


 恥ずかしい。やっぱり最初からお願いしていればよかった。

 私の奇行にお父様は驚きのほうが勝っていたけれど、シルヴァンなら絶対に笑っていた。

 まだ交流を持ち始めて一日しか経っていないが、その間に知れた彼の気性を考えると、たぶん面白おかしくされるの一択である。


 あれ、そういえばシルヴァンはどこに行ったのだろう。

 執務室に向かう途中で、いつの間にか消えていたけど。


 呑気に考えていた私だけれど、お父様が深刻そうな表情をしていることに気づいて顔を上げた。


「……パパ、どうしたの?」

「お前がこんなにも小さかったなんて思いもしなかった」


 お父様はそっと私の手を取り、自分の手の上に乗せた。


「パパの手は、大きいね」


 そう言って笑えばお父様もつられたように笑みを浮かべるが、まだ悲しそうだった。


 柘榴色の瞳がほのかに揺らいでいる。


 この様子だと私が別邸でどのように過ごしていたのか、すでに調べがついているのだろう。

 一度目の頃は干渉を極端に避け、月イチの近況報告や支出書類の提出などもナタリーがいいように改ざんしていただろうから、本当の環境を知ってお父様は自分を責めているように感じる。


 ゆえにナタリーの話をどう振るべきかを考えているのかもしれない。


「ククルーシャ――」

「パパ、もう謝らないでね」


 なんとなく謝罪されるような予感がして、私は咄嗟に声を発していた。

 お父様は目を丸くしてこちらを見ている。図星のようだ。


「昨日、たくさん謝ってくれましたから。私はパパが悪いだなんて思っていないけれど、それでも何度も謝ってくれました。だからもう、大丈夫なんです」


 それに、と続ける。


「今はもっと、パパのお話を聞かせてください。パパのこと、たくさん知りたいです」


 これまで知ろうとしなかった分、これからは自分で見聞きしたことをたくさん覚えて、記憶に残したい。


 お父様は瞳を瞬かせ、「ありがとう」と呟きながら頭を撫でてくれた。やっぱり少しぎこちなくて、でも私は心から安心できた。




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