「……っ、目覚めたのか、ククルーシャ!」
悶々と頭を抱えていた私の横で、うたた寝をしていた伯父がハッと気づいて立ち上がった。
「…………おとーさま」
少しだけ溜め込んだあとにそう呼ぶ。伯父はわずかに瞳を揺らがせて、何を言うでもなく不慣れな手つきで私を抱きしめた。
「ククルーシャ、すまなかった」
「え……?」
「お前に一つも責任などなかったのに、僕が未熟なばかりにあのとき深く傷つけてしまった。こうして会いに来てくれたというのに、何度も謝らせてしまった」
顔は見えないけれど、その声はとても震えていた。
本来なら弱々しいところなんて絶対に見せないであろう伯父の様子に、涙腺が緩んでいくのを感じる。
「謝らないで、ください。だって、本当に私のせいだったんです。私が熱を出さなければ、三日で帰れていたのに。帰れていたら、きっと……」
「体調を崩したことを言っているのなら、それこそ僕の至らなさが原因だ。幼いお前にとって長距離移動は負担をかけるものだと知っていたというのに、理解が足りなかった。もっと気にかけるべきだったんだ」
それからなにを言っても、伯父は何度も「お前はなにも悪くない」と諭していた。そして同じくらい「すまなかった」と私に謝り続けていた。
私がずっと自分のせいだと思い込んでいたように、伯父も強い責任を感じていたのだと、改めて知ることになった。
(温かくて、安心する……)
実父の記憶はもはや一つも残っておらず、数年だけ一緒に暮らした実母もヴェルセルグの血が色濃く出た私という存在に恐怖していた。
そのためこれまで一度も親のぬくもりというものを体感したことがなかった。
それがなんの運命なのか、こうして伯父と言葉を交わし、不器用ながらも優しい心地に包まれている。あまりにも幸せな瞬間に、やっぱりここは天国なのかと一瞬だけ現実逃避しそうになる。
「ククルーシャ」
「はい」
しばらく胸に顔をうずめていた私は、ささやかな呼びかけにもぞもぞと動いて上を向く。
柘榴色の瞳がほんのりと緊張した様子でこちらを見ていた。
「……何度も父と呼んでくれたが。本当に、僕が父であることをゆるしてくれるのか」
許すもなにも、願わくばそうなってほしいと望んでいる。
もう誰かの意見に左右されて逃げてばかりの自分ではなく、しっかりこの目で見て、この足で、大切な人のそばにいたい。
その最たる人が、伯父――いや、この世でたった一人のお父様だ。
(やっぱりこの状況は夢じゃなくて、私は本当に死んで、子供の頃に時間が戻った……ということよね)
だとすれば私は、もう一度やり直すことができるのかもしれない。
後悔ばかりだった人生のすべてを。
「はい、お父様。私のお父様は、お父様だけです」
「ククルーシャ……ありがとう」
教団の地下牢に拘束されていたとき、何度となく「もしも」と後悔を巡らせた。
絶対に叶わないと思っていた。でも、これから未来をひっくり返すことができるというなら。
「私、立派な"必要悪"になります、お父様!」
今度こそ、ヴェルセルグの人間として堂々と生きたい。
その一筋の希望を掴めそうな気がして、きっと私は今まで生きてきた中で一番と言っても遜色ない笑顔を浮かべた。
「………………ん"?」
そんな意気込む私を、お父様は少々困惑気味に見つめ返していたのだった。