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第37話 沈黙の武具たち

「おいアロン、アロンっ!」

「プルちゃん!?」

「どうしたのモンド!?」


 自分の体に異変はないが、武具たちの異常にパーティーは混乱に陥る。


「道具に意志など必要ないのだよ。これでお前たちの装備は本当のガラクタよ」

「貴様あっ!!」


 グレースが叫ぶと同時に、大魔王の杖から魔法が放たれる。

 吹雪をまとった烈風が周囲の空気すら凍らせながら、キラキラとした輝きを宿してグレースたちを呑み込まんと迫る。


「プルちゃん、プルちゃんっ……!」


 ファインは防御をすべく意識をガントレットに集中するが、灰色の小手は何も反応がない。


「ぐうっ……!」

「きゃあああっっ……!」


 なすすべなく輝く凍気に身を切り裂かれるグレースたち。皮膚は凍り、破れ、息をすることもできず、地獄の責苦を味わう。


 グレースは歯を食いしばり、両足に力を入れ、なんとか猛烈な吹雪をやりすごす。

 すぐに仲間たちの方を見ると、ファインとノアルは体の所々に氷を付けたまま、倒れ込んでいる。


 ふんどしに付いた氷を払い、グレースは二人へと駆け寄る。二人とも息はしているが、意識がない。唇が紫に変わり、小刻みに震えている。


「エルザっ!」


 グレース同様に踏み止まっていたエルザに向けてグレースが叫ぶと、意を汲んだとばかりにエルザは剣に炎を灯し、グレースたちの手前に着弾するよう剣技を放つ。


 熱風がファインとノアルの氷を溶かし、体温が少しだけ上昇するのを感じる。

 追撃の体勢に入っていた大魔王へと、グレース、エルザ、そしてヴァイスが突進する。


 エルザとヴァイスが斬りかかり、大魔王を捉えたかに見えたが、闇のオーラに阻まれ剣は空中で静止してしまう。


「余を傷つけることなどできぬ」


 大魔王が地面を杖で叩くと、衝撃波が生じ、エルザとヴァイスの体が宙を舞う。高々と打ち上げられた二人は大地に強く叩きつけられ、呻き声を上げる。


「くおおおっっっ!!」


 大魔王に連打を浴びせるグレース。左ジャブからの右ストレート、ワンツーが完璧に入る。


 しかし手応えが全くない。エルザたちの剣を止めた大魔王の闇のオーラは、グレースの拳にまとわりつき、まるで水を殴っているかのような感触が返ってくる。


 攻撃をしても体は逃げようとしない。アロンたちが力を失っている事実を突き付けられる。

 以前なら逃げずに戦えることを喜んだだろうが、アロンの力なくして、大魔王に勝ち目はあるだろうか……。


「はああああっっ! 爆砕拳っっ!!」


 生身で出来る最大の攻撃、右拳に全ての闘気を集中させたグレース必殺の一撃。

 インパクトの瞬間、大魔王を包む闇のオーラをグレースの光拳が貫く……かに思えたが、表面の闇を少し払っただけで本体には届かない。


「己の無力を呪うがよい」


 大魔王の青い目が怪しく光り、グレースへと指し示された杖が冷気を帯びていく。

 氷の塊が杖の先にでき、ビキビキと音を立てて巨大化していく。直径数メートルはある円柱に成長した氷柱は先端が尖り、太すぎる槍のような形状になる。


 グレースはいったん引こうとするが、これまでの戦闘で受けたダメージの蓄積もあり、避けられるタイミングを逸してしまう。

 瞬きする間もグレースに与えず、氷の槍が目の前に迫る。


「ぐぬぬぬぬっっっ……!」


 回避を諦め、両腕を氷の槍の側面に突き刺して止めにかかるグレース。


「つうっ……!」


 体を差し貫かれることは避けられたものの、先端部分がグレースの胸を刺す。

 足だけでなく大胸筋にも力を込めるが、少しずつ、氷の槍はグレースの肉をえぐり、体内に侵入してくる。


 吹き出した血が氷を赤く染め、グレースの顔は苦痛に歪む。大魔王は無言で再び杖を掲げ、新たな氷の柱を作り始める。


「ぐおおおおっっっ!!」


 氷の槍に突き刺した両腕から青白いオーラが漏れ、ヒビが入った次の瞬間、粉々に粉砕された氷の破片が辺りに散らばる。


 グレースの視界にはすぐに次の槍が迫っているのが見える。


「爆砕脚っっ……!」


 胸から血が勢いよく吹き出すが、グレースは力を振り絞り回し蹴りで新たな氷の槍を撃墜する。

 キラキラとした氷の欠片が一面に舞い、闇に包まれた戦場を彩る。


「ふうっ……ふうっ……」


 肩で息をし、片手を膝に置いてなんとか立っている状態のグレース。


「よくここまで戦った。これから来る魔族の歴史にその名を刻んでやろう、グレース」


 意識が飛びそうになりながら、グレースは思う。やはりリファール王の言う通り、魔族に恭順するしかなかったのか……? このまま人間は滅ぼされてしまうのか……。


『諦めてんじゃねえ!!』


 物言わぬ錆びついたナイフになったはずのアロンから叱責が聞こえた気がした。例えそれが幻聴だったとしても、グレースの心に灯を灯す。


 そうだ、ここで俺が諦めたら世界は終わる。ファイン、ノアル、エルザ、ヴァイス、仲間たち、俺の大切な人たちを必ず守り抜く!!


「アロンっっっ!! いつまでも寝てないで、俺と戦えっっ!!」

「道具が創造主に逆らえるわけがあるまい。奇跡は起きぬ」


 大魔王は三度、氷の槍を生成する。これまで以上に太い槍はもうグレースには止められないだろう。


「アロンは道具じゃない! 俺の相棒だっ! 俺の想いに応えてくれっっ!!」


 迫る氷の槍。だが最後まで諦めない! グレースはアロンを力強く握る。


「俺様を使いなっ!」

「!?」

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