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第35話 王との決着

 どれだけ避けられても、カウンターで傷を負ってもエルザとヴァイスは決して引かない。


「!!」


 何かに気づいたファインはノアルの方を見て頷く。


「最後の攻撃よ、ノアル! 私たちの全てをぶつける!」

「ええ! 生きとし生ける者を見守る神々よ、災いをなす悪なる存在からか弱き者を守りたまえ」


 かろうじて残っていたスカートもビリビリと破れていき、ブラジャーと同じ黒で揃えたパンツが露わになる。

 抜群なスタイルに黒の下着姿のノアル。ここが戦場でなかったら、男女問わずその視線を釘付けにしただろう。


 当のノアルは誰かに見られているかいないかなど関係なく、そんな姿になっていることで恥ずかしさが頂点に達する。


「我の昂り、ここに極まれりっっ!!」


 渋い地声を裏返してモンドが荒れ狂う。ノアルの魔力が限界まで高まり、掲げた杖に集まっていく。


ラース・オブ・ゴッド神の怒り!!」


 色も形も不安定な球体が周囲の景色を歪ませつつ、ファインへと飛んでいく。

 第二の魔王、蟲王ジャネラスに大ダメージを与えたファインとノアルの連携攻撃。これに全てをかけるしかない。


「飲み込んでっ、プルちゃん!!」

「今のわたくしたちに不可能はないわっ!」


 球体の引力は凄まじいものだったが、今回はあっさりとプルに吸収されていく。ジェネラス戦よりも明らかにファインとプルの力は増している。


「避けられるものなら避けてみなさいっ! リフレクション・バーストっっ!!」


 モノクロの波動がファインのガントレットから放たれる。大地をえぐり、空気を振るわせ、弓矢よりも遥かに速く、王へと一直線に飛んでいく。


「ぬうううっっ!」


 波動は王を飲み込むかに思えたが、すんでのところで避けられ、勢いをそのままに虚しく彼方へと飛んでいく。


「私は死なぬ。最後の足掻き、見事であった」


 グレースの一撃で先端を失っていた王の左腕は、今の攻撃を受け根本から消失していた。

 それでもなお王は力強く大地に立ち、揺るがぬ威光を放つ。


 ノアルは魔力を使い果たしたのか、ぺたりと地面に尻餅をつく。

 正真正銘、最後の一撃であったが、王を倒すには至らなかった。


「……」


 ファインは無言で王を見詰める。切り札を使い、それでも王は健在だが、まだその目には闘志は失われていない。


「無益な戦いを終わらせよう、総員、奴らを……ん!?」


 王は背後から何かが迫る気配を感じ取り、振り向く。

そこには避けたはずのファインが放った波動が、更に一回り大きくなり、地面を削りながら凄まじいスピードで己に迫ってくる光景が映る。


「なんだとっ……!?」


 波動の遥か先にぽつりと人影が見える。


「王よ、俺たちは奇跡を起こすっ!!」


 人影はオーラの剣となったアロンを掲げたグレースだった。


「なぜお前が……うわああああっっ!!」


 増幅された波動は一気に王を飲み込む。王の体は宙に浮きを、バキバキと全身の骨が折れていく。血反吐を撒き散らしながら、地面に叩きつけられる。


「ごふっ……なぜだっ……私が敗れる未来など見えなかったのに……」


 地に臥した王の鉄仮面にヒビが入り、王の顔が垣間見える。端正な顔立ちは痛みで歪み、口からは血が滴る。


 定番の白いふんどし一丁で猛然と戻ってきたグレースが王に言う。


「あなたはその鉄仮面が見せる未来は絶対だと言った。しかし、未来を創るのは人の意志だ! 絶望に呑まれ、抗うことを諦めた時点で俺たちには勝てない!」


 追撃隊を攻撃をせずに振り切り、途中まで戻ったところでノアルとファインの合体攻撃をアロンで跳ね返す。

 事前に立てていた作戦だったが、王を含めたみなの配置、タイミング、全てが完璧に重なってはじめて成し得る攻撃だった。


「こんなことが……はっ、未来のビジョンが変わる……? これは私がはじめに見た人間が滅ぶ未来……!?」


 王はひび割れた鉄仮面を残された右腕で触る。


「まだ世迷いごとをっ!」

「私が敗れることでリファール王国さえも滅ぶ未来に戻ってしまった……なんということだ……もう終わりだ」


 鉄仮面が二つに割れ、王の金色の髪がはらりと垂れる。その顔は絶望に塗り潰されている。


「エクリプス、どうか貴方は絶望に呑まれないで……」


 地面に転がった鉄仮面から、透き通るような女性の声がする。


「バスティーユ……もう、遅いのだ……」


 力を失い完全に地面にうつ伏せになる王。生死は不明だが、もう戦う力も指揮を取る余力も残っていないだろう。


「勝鬨を上げなさいっ! 王が敗れたと戦場に触れ回って!」


 エルザが声を上げ、残っていた仲間の騎馬数騎が駆け出す。


「リファール王を討ち取ったり! リファール軍は引けっ! 繰り返す、王は負けたっ!!」

「なんだって!?」

「う、うそを言うなっ!」

「だけど、本陣の様子がおかしいぞ……見ろっ、セクレタリアトの旗が掲げられてるじゃないかっ……!?」


 リファール軍にとっての凶報は瞬く間に戦場に行き渡っていく。

 戦意を喪失し武器を落とす者、戦場から離脱しようとする者が続出し、戦線がぐちゃぐちゃに崩壊していく。


「やったか、グレース! ニーナ、リファール軍に乗じて俺たちも引くぞっ!」

「あいよ〜、でも魔王軍はどうするのさ?」


 しかし魔王軍も数に勝る同盟軍であるリファール軍の撤退の流れを受け、大いに混乱している。あちらには魔王の姿もなく、すぐには統制は戻らないだろう。


「俺様たちの勝ちだ! やったなグレース!」

「ああ、まだ安心はできんが、王を倒せたのは大きい」

「グレースっ!」


 ファインが戻ってきたグレースに抱きつく。ノアル、エルザ、ヴァイスもグレースの元に集い、互いの無事と薄氷の勝利を噛み締める。


 その時、太陽が不自然にかげり、昼がいきなり夜になったように暗闇が広がっていく。


「いったいなんだっ!?」

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