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第34話 諦めないパーティー

「グレース、まさかあいつの方が正しいなんて思ってないよな?」

「アロン、俺は、俺たちは……」

「俺様が言うのも変な話だけどよ、逃げるのか? 勝手に決められた未来に絶望して、自分の手で未来を掴むことから、逃げんのかって聞いてんだよ!」


 アロンから青白いオーラが漏れ出し、グレースを包んでいく。


「お前……この力は俺の、いや、俺たちの闘気!」

「そうだぜ相棒! 前に言ってたよな、自分の役割を果たせって。あの絶望王を倒して、魔王も倒す! そして世界を救うのが、俺たちの役目だろ!」

「そうだっ、アロン! 俺は諦めたりしない! お前が思い出させてくれた前に進む勇気をこの手に!!」


 アロンとグレースのオーラが混ざり、爆発的に高まっていく。青白い光の柱が戦場に聳え立ち、グレースを中心に風が吹き荒れる。


その様子は、グレース同様に王に気圧されつつあった仲間たちの目に光を戻していく。


「ファイン、ノアル! 俺を信じてくれるかっ!?」

「当たり前じゃない! やっぱり多くの人が犠牲になるなんて間違ってるよ! どんな未来が来るかなんて、やってみなくちゃ分からない!」

「ええ、どんなに絶望的な状況でも、諦めたら終わりです。私たちの心は逃げない、そうでしょう?」


 ファインからはオレンジの、ノアルからはピンクのオーラが立ち昇る。それに呼応してガントレットとダイヤモンドが眩い輝きを放つ。


「愚かな。どれだけ足掻こうがもう未来は確定している。お前たちはここで私に敗れるのだ!」

「それでも俺は、俺たちは諦めない! お前を止め、魔王も倒す! 全ての人を救う道を切り拓いてみせるっ!!」


 グレースは二人にアイコンタクトをし、窮地に陥った際に取ることになっていた作戦の合図を送る。


「行くぞっ、アロンっ!」

「おう! こいつだけは絶対に止めなきゃなんねえ。一撃だ、一撃にかけるぞ!」

「珍しく気が合うな、相棒。俺のありったけをお前にくれてやるっ!」


 グレースの闘気がアロンへと流れ込み、ちっぽけなナイフは巨大なオーラの剣へと成長する。王との距離を一気に縮めるグレースに呼応して、ノアルが詠唱を始める。


「雷神よ、その力の一端により、我が敵に裁きを! トール・フィアート雷神の息吹!」


 雲一つない快晴の空に黒々とした雷雲が生まれ、いく本ものいかずちが、グレースと王の元へと落下する。


「これだけの攻撃、全ては避けきれないだろう!」

「まさに玉砕、己の身すら捨てるか」


 王は雷の挙動を読むかのように、剣を的確にさばき空からの攻撃を防ぐ。

 グレースは防御を捨て突撃しているため、雷に打たれ全身に鋭い痛みが走る。服は裂け、皮膚は焦げ、目の前は白くスパークする。それでも前進を止めない。


 未来が見える王に攻撃を当てるためには、動きを完全に止める必要がある。ノアルの魔法は王にダメージを負わせることこそ叶わないが、王をその場に釘付けにしている。


「こいつを喰らえっ! アロンダイトっっっ!!」


 傷だらけになりながらも王を射程内に捉えたグレースが、渾身の力でアロンを振り下ろす。いかに先が見えるとは言っても避けられる体勢ではない。


「ぐぬっ……!」


 二人が交差する瞬間、一際大きな光が爆発し、戦場を照らす。そこにいる誰もが事の成り行きを見守るべく動きを止める。

 光が収まりその場の全員の視線が集まった先では、グレースが膝を折り、王は立ったままだった。


「グレースっ!?」


 ファインの叫びが一瞬の静寂を切り裂く。


「さすが一国の王、やすやすとやられてはくれないか……」

「おいグレース、大丈夫か!?」


 グレースは胸から腹にかけて、大きな切り傷を受けている。血が吹き出し、破れた衣服を赤黒く染めていく。


「来ることが分かっていれば、これくらいのことはできる。これでお前はここからいなくなる。やはり私の勝ちは揺るがない」


 王は少しだけよろめくが、すぐに真っすぐと姿勢を正す。左腕の先はアロンによって切り落とされ、鮮血が噴き出ている。

 防御不可を悟った王は左腕を捨て、カウンターでグレースと相打ちとなっていた。


「くっ……」


 激痛に晒されながらも、一度攻撃したグレースは足がここから逃げ出そうと勝手に動き出す。本陣のさらに先、誰もいない方向に向かって走り出してしまう。


「奴を追え、仲間を殲滅するまでここに戻すな」

「は、はっ!!」


 王が本陣に残った兵に命じ、何名かがグレースの後を追っていく。


「あちらの女は囲め。攻撃しても無駄だ。囲むだけでいい」


 王はファインを剣で指し示す。


「もう片方は私が片付ける」


 ノアルの方に足を向ける王。そこへ満身創痍のエルザとヴァイスが切り掛かる。


「まだ動けるか。しかしそれでも未来は変わらぬ」


 本陣の王国兵たちがファインを包囲すべく集まってくる。このままではノアルが敵の攻撃に晒されてしまう。


「ノアル、こっちに!」

「はい!」


 周りを完全に塞がれる前に合流はできたものの、全方位から一度に攻撃を受ければノアルまで守れる保証はない。

 だがファインはいたって冷静だった。そして同時に体中が熱い思いで満たされるのを感じる。


「私はグレースを信じてる! 彼が戻るまで、私たちは決して折れないわっ!」

「最高よ、ファイン! さすがわたくしの相棒ねっ!」

「プルちゃん! 私たちの力を示すよっ! ゴルト・ウォール金剛壁!」


 ガントレットが持つ金色の輝きがファインとプルを包み込む。そしてそのまま輝きは広がっていき、黄金の壁に触れた王国兵たちを吹き飛ばす。


「私たちも負けていられませんね。行きますよっ、モンド!」


 ノアルのピンク色のオーラが勢いを増し、ブラウスが吹き飛ぶ。白いフリルの付いた黒いブラジャーがと、その内にある大きなメロンが顔を覗かせる。

 スカートは無事で、しかしこれはこれで非常に恥ずかしい格好になってしまった。


「……ヒーリング・オール!」


 暖かな光がエルザとヴァイスを包む。ここまで受けてきた傷は回復し、動きも軽くなる。


「獄炎滅陣剣っ!!」


 エルザの放った爆炎の一閃が、ファインに吹き飛ばされた王国兵に止めを差す。

 そしてすぐにヴァイスと連携して王へと攻撃を再開する。


 王国側の魔導士が回復魔法をかけたのだろう、切り落とされた王の左腕の先からの出血は止まっている。


「ここまで粘るとはやや想定外よ。しかし、あちらの勝負はもうつくようだ。やはり何も変わらぬ」


 ファインたちが振り返ると、主戦場となっている場所にある仲間たちの旗がもう数本しか残っていないことが見える。

 敵兵のど真ん中に残してきたセクレタリアトとインヴァー、冒険者の連合軍が限界を迎えているのは明らかだった。


 しかも敵軍の最後尾、本陣に近い部隊がこちらに向けて進軍してきている。

このままでは全滅は時間の問題なのは、誰の目にも明らかだ。


「もう少し、もう少しだけ耐えればグレースが戻る……! みんな踏ん張って!!」


 ファインの叫びに王はエルザたちの攻撃をいなしながら言う。


「まだ奴を信じているのか? 今頃追撃隊にやられているか、更に遠くへ逃げ出しているだろうに」


 ことごとく攻撃をかわされながらも、エルザは叫ぶ。


「彼は戻ります! 絶対に!」

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