集団の先頭の走る騎馬には、黒味ががった光沢のある赤色の鎧を着た若い戦士が見える。
「グレース殿っ!! 遅くなり申し訳ないっ!」
「ヴァイス!? どうして君たちがここに!?」
先行する騎馬隊に続く歩兵も合わせると、200人はいる部隊が駆けつけていた。
「この戦いは貴殿たちだけの問題ではありません。インヴァーから貴方を追ってきて、途中で民兵を吸収してここまでやってきたのです」
「なんと……心から感謝する……!」
うち震えるグレースに、ヴァイスと共に先頭集団にいた冒険者が声をかける。
「あんたには借りがあるからな。返しにきたぜ!」
「まさか、あの時の!?」
冒険者は以前、インリアリティが現れた際にセクレタリアトから逃げ出し、グレースたちとすれ違った男だった。
「借りがあるのはこちらだ。あの時は馬を貸してくれて助かった」
「そんなもんはセクレタリアトを救ってくれたことで帳消しだ。俺たちは返しきれない程の恩を受けた。今度は俺たちも戦うぞ!」
「おう、おう、おう!!」
インヴァー軍と冒険者たちの雄たけびは、グレースの心に再び火を灯す。
「ありがとう、ありがとう……! 仲間たちが敵の中で奮闘している。俺を前線まで連れて行ってくれるかっ!」
「承知した! いくぞ皆の者!」
ヴァイスの駆け声に一斉に走り出す一団。セクレタリアト軍が始めにしたように、矢のような陣形を組み、敵陣に突入する。
「アレクスさん、流石に厳しいっす……!」
「弱音を吐くなっ! 俺たちが潰れたらエルザたちは四方から包囲されるんだぞ! 歯ぁ食いしばれ!!」
しんがりを務めるアレクスたち重戦士隊は限界を迎えていた。気力でここまで耐えてきたが、それも限界に近い。
「グレース、お前が頼りなんだぞ……!」
前線も膠着しているようで動きはなく、このままではいつ全てが崩壊してもおかしくない。
「歩兵はセクレタリアト軍を援護しろっ! 騎馬隊はグレース殿の道を作れ!」
閉ざされたはずの突入口が再びこじ開けられ、ヴァイスたちがなだれ込んでくる。突然の援軍に虚を突かれた敵軍の包囲が緩む。
「やっときやがったか! しかも援軍まで連れてくるとは! よし、反攻に出るぞっ!」
アレクスとニーナを中心に後方の守備が固まる。グレースは二人の健在な姿を脇目に、ヴァイスたちに先導されながら前線へと押し上がっていく。
か細く伸びたセクレタリアト軍の戦線に群がる敵兵をなぎ倒しながら、進撃を続けるグレースたち。
前方に土煙が上がる場所が見えてくる。最前線でエルザやファインがまだ持ち堪えているっ……!
しかしその手前では王国軍の重装歩兵が行く手を遮る。それを見た冒険者の男たちが加速を始める。
「ここは俺たちに任せなっ! 穴が開いたら、後は頼むっ!」
衝撃音と共に騎馬と重装歩兵が正面衝突する。
馬から放り出され敵の餌食になる者、なんとか下馬をして地上で剣を振るう者など、被害を出しつつも突破口が出来る。
「このまま貫くぞっ!!」
ヴァイスとグレースを含むわずかな手勢が、冒険者たちが命を懸けて作った突破口に突っ込む。怒涛の勢いで進むと、グレースの目に仲間たちの姿が映る。
十人足らずまで減ってはいるが、エルザもファインもノアルもまだ戦っている!
「戻ったぞおおお!!」
雄たけびを上げるグレースに、敵味方かかわらず視線が集中する。その隙をエルザは見逃さない。
「獄炎滅陣剣っ!!」
エルザの剣が青い炎に包まれ、赤い
「はあああぁぁぁっっ!!」
炎を纏った剣をエルザが馬上から思い切り横なぎにはらうと、爆炎が前方の敵を呑み込んでいく。
肉の焦げる嫌な匂いが戦場に舞い、魔族だけでなく人間の悲鳴も響き渡る。
王国兵も巻き込まざるを得なかったエルザは、一瞬苦渋の表情を浮かべるが、すぐに指揮を下す。
「最後の一騎まで私に続きなさいっ!!」
いまだ残り火がゆらめく地面をエルザは駆けていく。
「グレース! 待ちわびたよ!」
「すまないファイン、それにノアルも。無事でよかった」
「私たちは貴方を信じていましたから」
道を切り拓いたエルザにグレースたちパーティが続く。
「なかなかスリリングで面白い戦いね」
プルの言葉には高揚と、彼女にしては珍しく焦りの色がにじむ。それだけギリギリの戦いであることを物語っている。
「抜けるぞっ!!」
一行はついに分厚い敵軍を突き抜け、敵の背後に出る。あれだけ遠かった王国軍の本陣がもう目の先にある。
「急報!急報! 敵が戦線を突破し、こちらに向かっておりますっ……!」
「ええい、王を守れっ! 予備隊はまだかっ!」
混乱する本陣の様子さえ捉えられる距離まで一気に詰め、最後の防陣を突破する。
「リファール王よ、そちらの負けよ! 今すぐ兵を引きなさいっ!」
エルザはリファール国旗を切り倒しながら叫ぶ。後ろに幕が張られた一画で座していた人物が立ち上がる。
「お、王よ……」
「構わぬ。私が相手をしよう」
黄金に輝く鎧に身を包んだ長身の人物が、ゆっくりと歩み出る。若い男の声だが、その顔は鉄仮面に覆われ、素顔を窺い知ることは出来ない。
なにより異様なのは、煌びやかな鎧に反して、鉄仮面は真っ黒でまるで幽鬼のような雰囲気を漂わせていることだ。
「あなたがリファール王か?」
グレースの問いに男は泰然と返す。
「いかにも、私がエクリプス・デュ・リファール。よくぞここまで来た、魔王殺しのパーティたちよ」
「なぜ魔族と手を組み、人間同士で争う!?」
「人を救うためだ」
「なんだと!?」