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第30話 3,000対300

「なんて数だ……」


 アジャースカイのメンバーが、開けた平原の彼方に見える軍勢を前にして愕然とした声を上げる。

 リファール王国と魔族の混成軍3,000は広く横に広がりながら、ゆっくりと進軍してくる。


 まだ距離はあるが、大軍から発せられる足音と地鳴りが緊張感を否が応でも高める。

 天高く昇った太陽がじりじりと照り付け、焦燥感を掻き立てる。


「しかし、読み通りだな」

「ええ、これなら私たちにもチャンスがあるわ」


 グレースとエルザは300のセクレタリアト軍の先頭で、敵軍の陣容を観察している。

 こちらから見て右翼を人間、王国軍が固め、左翼は魔族と思しき軍勢が占めている。


「急造の混成軍だからな。複雑な陣形は組めないだろうし、背を預けるほど結束が高いとも思えない。横陣を敷かざるを得ないんだろう」


 敵陣への一点突破にかけるグレースたちにとっては好都合な体勢だ。


「いいわね、王国軍と魔王軍の合間を切り開き、道を作ります。なんとしてもグレースたちをリファール王がいる本陣へとたどり着かせるわよ!」

「おう! おう! おう!」


 エルザの檄にセクレタリアト軍が地面を踏み鳴らす。3,000対300という絶望的な戦いを前にして怖気づく者は皆無だった。全員の士気が最高潮に高まり、騎馬したエルザを先頭に騎馬隊が先陣を切る。


 グレースも馬に乗りエルザの背を追い、ファインとノアルはアジャースカイの騎馬の後ろに座り先頭グループに加わる。


 インヴァーでは上裸だったグレースは、ここでは流石に服は着ている。マントは気に入ったのか、そのまま付けており、馬上でなびく。

 ファインもいつもの長袖、ノアルはやはり厚着をしている。


 アレクスたち重戦士隊がその後に続き、先の尖った矢尻のような錐型の陣で突撃を開始する。


 敵軍に近づくにつれて視界全てを敵が覆っていく。王国兵は重厚な鎧に盾を持ったを戦士たちが前を固め、魔王軍は弓矢を手にした弓兵を前線に配置している。


 エルザたちは王国軍がいる右翼に向けて駆けていき、ギリギリのところで左に進路を変える。

 魔王軍は慌てて矢を射かけるが、エルザたち騎馬隊の突撃を止めることはできない。


「ぎゃあっ!!」

「ぐわっ!!」


 魔族たちの叫び声が開戦の合図となり、戦場の空気が一気にひりつく。


 セクレタリアト軍の狙いは、統制が取れていない王国軍と魔王軍のちょうど切れ目にあたるど真ん中を突っ切ることだった。

 そして出来る限り左翼の魔族側をえぐっていく。侵略者とは言え同じ人間、王国兵を積極的に攻撃するのは避けたい。


 先手を制し敵を屠りながらエルザたちは奥へ奥へと突き進む。そこに魔族の重戦士が立ち塞がる。


「ふはははは、やはりその手できおったか! しかし貴様らは精鋭である吾輩たちの懐に入り込んだ虫よ! 潰せぇ!」

「はあああぁぁぁ!!」


 エルザは騎上からの一閃で敵を一刀両断にする。部隊長と思われる重戦士を失った魔王軍はあまりのことに手が止まる。


「腕を上げたなエルザ」

「今なら貴方にも勝てるかしら? このまま突撃!!」


 エルザはグレースに笑みを投げてから、鬼気迫る表情に戻り馬に檄を飛ばす。

 騎馬隊が空けた穴に後続のアレクスたちも飛び込んでいく。


 その後も破竹の勢いで敵陣深く入り込んでいくエルザたちだったが、多勢に無勢、徐々にその勢いが弱まっていく。


 敵側の連携不足を突くとは言え、この戦い方は挟撃を受けることを前提としており、左右から襲いくる王国軍と魔王軍に挟まれた騎馬隊の足が止まりそうになる。


「ノアル! 道を作ってくれっ!」

「分かりました! こっちを見て……!」


 グレースが騎座の後ろに座ったノアルに目線を向けると、短いスカートをさらにたくしあげて生足を晒す。

 目の前で奮闘しているエルザはいわゆるビキニアーマーだから、グレースとしてはさして変わりはないのだが、ノアルにとっては恥ずかしさが溢れる。


「いけるぞ、ノアル。羞恥心のチャージはできている」


 その証拠にモンドの低い声に熱が帯びる。


「悪しきを呑み込み、正しき者へと道をつくらん! ガイア・テッレモート大地の怒り!」


 グレースたちの前方の地面に亀裂が走り、鳴動を伴って大地が割れていく。


「うあわああぁぁ!!」

「ひいいぃぃぃ!!」


 幅が10メートル、長さは50メートルほどにも及ぶ大地の裂け目に、魔族たちが落下していく。そして程なくして再びの地響きと共に大地は閉じていった。


「みんなっ、俺に続いてくれっ!」


 前面にぽっかりと出来た空白地帯に、グレースは馬を飛ばす。仲間が大勢やられた魔族側は動きが鈍く、グレースは攻撃することなく、更に奥まで戦線を押し込む。


 やや右方の彼方に、リファール王国の国旗がいくつもたなびいている場所が見える。あそこが敵の本陣、リファール王がいる場所に違いない。


 それでもまだまだ敵の層は厚く、いよいよグレースは敵の壁にぶつかるところまで来る。

 馬から飛び降りたグレースはノアルの魔法でひるんでいる魔族たちの隙間に体を潜り込ませる。


「そいつを殺せっ! 魔王殺しのグレースだ!」


 部隊長と思われる魔族の男が叫ぶが、グレースはひたすらに小さくステップを繰り返して接敵を防ぐ。

 もっと、もっと深く入る必要がある……!


「囲めっ、囲んで潰せっ!」


 大柄で筋肉質な体に見合わぬ小回りで敵の攻撃を避けながら、前進を続けるグレース。

 しかし次第に包囲が厳しくなり、敵に阻まれ次の一歩が出せない位置まで来てしまう。


「グレース、流石に限界だぜ……!」

「そのようだな……それならっ!」

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