モノクロの波動がプルから放たれる。ビリビリと空間が歪み、触れるもの全てを消滅させる破壊力を伴いジェネラスへと迫る。
ファインは衝撃で後ろに吹き飛ばされ、グレースの力強い腕に抱き止められる。
「なんだこの力はっ!? 人間ごときが、こんなっ……!」
その威力を肌で感じたのか、ジェナラスは驚愕の表情を浮かべ、波動に呑み込まれていく。
「ぐわわわわぁぁぁ!!」
波動に触れたジェネラスの体は一瞬にして消し飛ぶ。鋼のように固い節も、蠢く足のような突起物も、数十メートルの巨体が塵一つ残さず瓦解していく。
先端の人型部分の顔は苦悶に歪み、闇の彼方へと消え去る。
「さすがファイン、プル。やりましたね」
グレースのマントで下着姿を体を隠しながら、ノアルが言う。
「へへ、ノアルの魔法がすごかったんだよ」
「待てっ……まだだっ!」
右手にノアル、左手にファインを抱きとめたままグレースが叫ぶ。
「カ……カ……カ……。ワシは不滅よ……!」
ジェネラスの頭部が地面に転がっている。あれだけの攻撃を受けたにも関わらず、早くも首付近の組織がうねうねと再生をはじめ、体が元通りになっていく。
「そんな……」
同時に絶望の声を漏らす女性二人から丁寧に手を離し、グレースがジェネラスへと飛び掛かる。
「させるかあぁぁ!! アロンっ! 最後の力を振り絞れっ!!」
「やったるぜぇ!! これで終わりだああぁぁ!!」
グレースはひと飛びでジェネラスの元へと跳躍し、空中でアロンは一気にオーラを纏った長剣へと変貌する。
「さ、再生が間に合わんっ……!?」
動けないジェネラスに向けてアロンが振り下ろされる。光がパッと広がり、城内に激震が走る。
文字通り手も足も出ないまま、アロンに潰されるようにしてジェネラスはこの世から消える。細胞一つ残さず、断末魔の悲鳴を上げる暇もなく、魔王は打倒された。
「やったぜグレース! 俺様たちの完全勝利だ!」
「ああ、よくやったアロン」
「おっ、珍しく素直に俺様を称えたな、いい心がけだぞ」
青白いオーラは四散し、アロンはまたナイフサイズへと戻る。そこへ仲間たちが駆けつける。
「グレース! 私たち、やったんだよね!?」
飛びついてくるファインを逞しい腕で抱きとめ、グレースは言う。
「ファイン、ノアル、プル、モンド、君たちのおかげだ」
「ふふ、最後の美味しいところはもっていきましたけどね」
興奮して駆け寄ってきたノアルはマントからちらちらと下着と素肌が見えているが、グレースは全く意に介さない。
「まだやることがあります。グレース、ちょっとだけこっちを見て……」
体を隠していたマントをバッと前開きにし、屈み加減でグレースを上目遣いでみやるノアル。
ピンクのブラジャーから深い谷間が見え、そこには汗がツーっと伝う。
「ひゃあっ! ノアルさんっ!?」
セクシーすぎる光景にファインが声を裏返す。
「どうしたノアル? どこか痛むのか!?」
ノアルの全身をくまなく見つめるグレース。そこにはいやらしさは全くなく、本気で彼女の体に大事がないかだけを目的にしているようだ。それでも男性にまじまじと見られたノアルの羞恥心は再び大きく高まる。
「もう嫌ぁ……! ヒーリング・オール!」
悲鳴に近い声で魔法を唱えるノアル。急いでマントで体を隠す。
「傷が治っていく……! 毒の苦しみも消えるぞ!」
各所で討伐隊の歓喜の声が湧く。いたるところで温かい光が溢れ、倒れていた者も意識を取り戻していく。
「すごいすごい! ノアルは回復魔法も使えたんだね!」
ぴょんぴょん跳ねて喜びを表現するファイン。ノアルはマントで全身くるみ、体を小さくしながら頷く。
「ええ、回復系はあまり得意ではないので、無理をしましたが……」
「これ以上は我も耐えられん。爆発してしまう」
モンドの声は相変わらず渋いが、疲れ切ってどこか淡々としている。
「インヴァーを、我々を救ってくれて感謝の言いようもない」
三人に声をかけたのはヴァイスだった。鎧はジェネラスの攻撃で穴が開き、溶けて痛々しいがノアルの魔法で本人はだいぶ回復しているようだ。
「みなが無事でよかった。なんとか第二の魔王も倒すことができたな」
グレースとヴァイスは固く握手を交わす。ヴァイスは縮こまっているノアルに目線を合わせる。
「ありがとう、ノアル。討伐対を代表して、君にも礼を言う」
「いいんです、みなさんが無事なら、それで」
グレース同様、ヴァイスもノアルの恰好に頓着はないようだが、当のノアルは一層小さくなる。
「さすが魔王殺し一行だ! 全員、すげえな!」
傷が浅かった討伐対のメンバーが集まってくる。
「その……ごめんな、あんたには助けられた」
女性冒険者がノアルに深々と頭を下げる。出発前にヴァイスを巡って絡んできた女性だった。
「貴女も無事でよかった。気にしないでください」
ノアルは晴れやかな表情で応える。
マントを貸したグレースは半裸に短パン、ノアルは下着だけでマントにくるまっている。
ファインは歓喜の輪の中で、自分だけがまともな格好をしていることに違和感を抱いた自分に困惑していたのだった。
「まさか蟲王までも倒されるとは……これは事を急ぐ必要があるな」
柱の影に隠れていた魔族はグレースたちを一瞥してから、闇にその身を滑り込ませた。