「魔王討伐隊、出陣するっ!」
黒味ががった光沢のある赤色の鎧を着た若い戦士が、声を張り上げる。
「おおおお!!」
「やってやるぜ!!」
「魔王は俺たちが倒すっ!」
50人規模の討伐隊が呼応し、南国都市インヴァーの暑い空気を震わせる。グレースたち一行もその中で熱気を感じていた。
「思った以上に早く対応できたな」
「インヴァーのトップギルドのリーダーは優秀な方ですから」
グレースの呟きに地元出身のノアルが反応する。先日、森で魔獣と遭遇したことをギルド組合に報告したグレースたちだったが、謎の城が出現しているとの報も時同じくしてもたらされていた。
斥候の調査を経て、その城が魔王の拠点である可能性が高いと判断し、先手を打つため早々に討伐隊が編成されていた。
「なぁ、あいつノアルじゃないか? 一緒にいるムキムキマッチョは誰だ?」
「ありゃセクレタリアトで魔王を倒したっていう英雄じゃないか? 女の子と二人だけのパーティーだって噂だったが、ノアルが加わったのか」
「うちのギルドももったいないことしたよな。いろんな意味でいい子だったのに」
「お前みたいなのがいるからだろ、たく」
冒険者の一部がノアルに向ける視線には、よこしまなものが混ざっている。
「大丈夫か、ノアル? 気にするなよ」
「ありがとう、グレース。慣れてるから……大丈夫よ」
固い笑顔を見せるノアル。そこに先ほど出陣を告げた戦士が近づいてくる。
「君も魔王討伐に参加するのか、ノアル」
戦士の金髪は太陽の光を受け煌々と輝き、整った目鼻立ちと相まって神々しささえ放つ。
「はい、ヴァイス。その、ギルドではご迷惑をおかけしました……」
「君が気にすることじゃない。私も残念だったよ、君の力は本物なのだから」
ヴァイスと呼ばれた戦士は、他の冒険者と違い、ノアルのことを色眼鏡では見ていない様子だ。
「ちょっとあんた、ギルドを抜けてまでヴァイス様に色目を使わないでちょうだい」
ノアルに対して敵意を剥き出しにして、横から女性冒険者が割って入ってくる。
「そんなつもりは……」
「やめるんだ、もういいだろう。ノアルは新しい仲間と組んでいる。君たちには関係ないだろう」
「ヴァイス様がそうおっしゃるなら……いいこと、私たちに迷惑だけはかけないでよ」
渋々といった様子でその場を去る女性冒険者。ノアルの表情は暗い。
「仲間の非礼を許してくれ、俺はヴァイス・ラフィアン。この街のトップギルドを仕切らせてもらっている」
「グレースだ。見ての通り我々は少人数のパーティーだ。魔王を倒すという目的は同じだが、連携はあまり期待しないでくれ」
「いいだろう。だが魔王を倒したという貴公の力には敬意を払っている。その時は力を貸してもらうぞ」
「こちらこそ、頼む」
グレースとヴァイスは固く握手を交わす。お互いに力量を見極めるよう、少しの時間を置いて手が離れる。
品のある鎧を纏うヴァイスに、上裸でマント姿という一見怪しさ満点のグレース。対照的な格好の二人だが、どうやら互いに力を認めた様子だ。
「ノアルも健闘を祈る」
「ありがとう、ヴァイス」
ギルドメンバーの元へと戻っていくヴァイス。歩き姿も颯爽としており、品性が零れ出るようだ。
「いいギルドマスターだな」
「ええ、彼はあの通り人格者で人望も、実力もあります」
「そのうえ、超イケメンじゃない」
プルが会話に割って入り、アロンも乗ってくる。
「ノアルちゃんが周りからうとまれるのは、あのギルマスの影響もありそうだな」
「嫉妬というわけね、醜いわ」
「私とヴァイスはそういう関係じゃないんですが……彼は誰にでも優しいので」
「そういうのが良くないのよ。罪作りな男」
「俺様も女性に優しいぜ!」
「ノアルは私たちの仲間なんだから、嫌な思いをしたら言ってね!」
ファインはノアルの手を取りブンブンと振る。みなの様子はノアルを元気付けたようで、まだ固さは残るものの、笑顔が戻ってくる。
「ところでグレース、彼らとは連携を取らないの?」
ノアルと手をつないだまま、ファインが尋ねる。
「ああ、ここだけの話、言い方は悪いが彼らには壁役になってもらう」
「なるほど……申し訳ないけど、私たちだけじゃ魔王までたどり着くのは難しそうだしね……」
「懸命な判断だと思います。彼、ヴァイスが率いるギルドは数十人がいますし、彼自身も強力な力を持っています。それでも魔王には勝てるかどうか分かりませんから、実際に倒したことがあるグレースの爆発力が最後の鍵になると思います」
「うむ」
現地のギルドに犠牲を強いるのはグレースとしても非常に心苦しいものがあるが、逃げる、逃げられないを繰り返していては魔王に挑む前に自分たちが消耗しきってしまうだろう。
今回、単独での討伐ではなく、大規模な討伐隊に参加したのもその点をクリアにすることが大きかった。
討伐隊は列をなして街道を進み、山の方へと歩を進めていく。山岳地帯の中腹に魔王の拠点と目される城はある。日差しがきつく、少し歩いただけで汗がにじんでくる。
「聞いてもいいかな、ノアル。君はなぜ冒険者に?」