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第21話 変態紳士と鈍感男

「どうした? 熱いのか? でも今はそれどころじゃ……いや、まさかそれが君にかけられたデメリットなのか!?」

「今私はとても恥ずかしい思いをしています……もう十分でしょう? 力を貸してください!」

「お前の羞恥心を確かに感じる。いいだろう、力を与えよう」


 初めてノアルの胸元のホープフルダイヤモンドが声を発する。渋いダンディな声で発音される、羞恥心という言葉が浮いて聞こえる。


 魔獣は流石に連続で炎を吐き続けた反動か、炎を止め、フーフーと息を整えている。


「ファインさん、避けてっ! 神のご加護をたまわらん! 神の名はゼウス! 怒りの雷よ、顕現せよ!」


 ホープフルダイヤモンドから、紫のオーラがノアルへと流れ込んでいく。ノアルの薄ピンクの髪がぶわりと広がり、爆発的に魔力が高まる。

 ファインが横に飛びのいたのを確認したノエルは杖を魔獣に向ける。 


リュヒテン・ヴォン・ゼウス神の裁き!」


 先ほどゴブリンを倒した雷より遥かに力強い雷の塊が、超スピードで魔獣へと迫る。周囲の木々が、大気が鳴動する。 


 ドオオオオンンンッ! 


「グオオオォォォ!!」


 すさまじい炸裂音が森中に響き、魔獣の呻きがその後を追ってこだまする。バチバチとした火花が魔獣の体の至る所で生じ、その巨体がドスンと横たわる。


「今ですっ、グレースさん!」

「任せろっ!!」


 すでに拳へと闘気を集中させていたグレースが、魔獣へと一直線に走る。


「くおおおおっ、爆砕拳っっっ!!」


 メキメキメキッ。

 剥き出しになった魔獣の腹部にグレースの拳がめり込む。魔獣の固い皮膚を貫き、内臓を破壊する感触がある。拳が心臓まで達した時、ドバりと流血がひと際大きくなる。


 魔獣は完全に力を失い、時を経ず体が灰になり消滅する。


 グレースは拳についた血を拭い、仲間の元へと歩み寄る。


「ファイン、ノアルさん、大丈夫か?」

「私もプルちゃんも、なんともないよ!」

「よく戦ったわファイン。褒めて差し上げてよ」

「こちらも問題ありません。それにしても、グレースさんの一撃、すごかったです」


 ノアルはきらきらした目でグレースを見つめ返す。


「貴女の魔法のおかげです。しかしあれだけの魔力を引き出すからには、やはり代償が求められそうですが、結局何を差し出したのです?」


 グレースの疑問にノアルは俯き加減で答える。


「体の一部を差し出す必要があるとお伝えしていましたが、服のことなんです……」

「だから突然服を抜き出したのか。しかしどうして服なんです?」

「羞恥心だ。彼女の羞恥心が我に力を与えてくれる。それを還元したのだ」


 低い声がノアルの胸元から聞こえる。ホープフルダイヤモンドがしゃべったのだ。


「そういうこと、みたいです。簡単に言うと、私の恥ずかしいなどといった感情が高まると、彼が魔力を高めてくれるんです」

「他の方法もありそうなものだけど……」


 ファインの疑問にホープフルダイヤモンドが反応する。


「これが一番てっとり早く、我に最大の効果を発揮させるのだ」


 毅然と断言するダイヤモンドにファインは本音が漏れる。


「変態なのね……」

「何かおっしゃったかな、お嬢さん?」

「い、いえなんでも! すごい力でした!」


 慌てて取り繕うファイン。同じ女性として同情するところがあるが、この国では薄着でも違和感はないのがせめてもの救いなのかもしれない。


「私はこの力でギルドに貢献できる思ったのですが、不和を招くということで、どこにも長く居ることができなかったんです……」


 悲しい過去を思い返すよう、小さな声でノアルは告げる。ギルド組合でノアルが紹介された際の受付人の戸惑いはここにあったのだろう。


「我々も同じようなものですよ。私は戦士なのに逃げてしまう」

「逃げられなくなって迷惑をかける魔導士ですから、私も!」

「でもお二人はそんなデメリットも乗り越えてパーティーとして機能している。尊敬します」


 満面とは言い難い笑顔を浮かべるノアル。 


「話したくなければよいのですが、不和を生むとはどういうことですか? 服を脱ぐことが特に迷惑になる気もしないのですが」

「グレースは鈍感だからなぁ……」

「ん?」

「はい。多くの殿方は、その、私が脱ぐことで戦いに集中できなくなるようで。それに女性からは、男性を誘っているんじゃないかって……」

「ホープフルダイヤモンドの声が聞こえないんじゃあ、確かに誤解も生まれるかも……」


 ブラウス越しでもはっきりと分かる、ノアルの豊満な体を見てファインが呟く。


「私は全く気にしませんよ。なんなら、もっと露出が高い女性と戦ってましたし」


 ファインはすぐにエルザのことだと分かる。確かに彼女のビキニアーマーに比べれば今のノアルもはるかに厚着かもしれない。

 ファインはエルザの格好に実はドギマギしていたが、グレースのこういう鈍感さに繋がっているとしたら、結果的に感謝しないといけないかもしれない。


「私も誘ってるなんて思わないです。力を発揮するために必要なんですから」

「ありがとうございます。お二人に出会えたこと、本当に幸せです」


 今度は屈託なく、心からの笑顔を見せるノアル。


「では、これで3人でパーティーを組むことで全員一致ですね?」

「もちろん! ノアルさん、よろしくお願いします!」

「はい! 精一杯、頑張りますね。グレースさん、ファインさん」

「我々はもう仲間ですから、グレースでいきましょう」

「ノアルって呼んでもいい?」

「はい、グレース、ファイン」


 人間たちの盛り上がりと同調するように、武具たちも沸き立つ。


「あれだけの魔法を使える魔導士ね。これは面白いわ」

「ノアルちゃん、俺様ともよろしくしてくれよな! ついでにあんたも、ホープフルダイヤモンド」

「我はモンドで構わん」


 やりとりを聞いていてノアルが驚きの声を上げる。


「あなたが自分から話すなんて。やっぱり同じ意思を持つ武具とは仲が良いのね」

「こちらとて命を預けるからな。プルの力は我も興味がある」

「俺様は無視かよ、おい」

「貴殿は何もしていないだろう。グレース殿のパワー、お見それした」

「ちぇ、俺様の本当の力を見たらビビっちまうぜ」


 すねるアロンをよそに、グレースは場をまとめる。


「よし、今日は街に戻ってノアルの歓迎会といこう」

「賛成〜!」

「ありがとうございます!」


 場を後にする一行。それを森の奥から見つめる人影があった。


「あれがインリアリティ様を倒した奴らか。あのレベルの魔獣でも歯が立たんのも納得だ。我らにとって最大の障害、しかと顔を覚えたぞ」


 青白い肌の男は闇にその姿を溶かし、消えていった。

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