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第19話 呪い?のダイヤモンド

「えっ!?」


 思わずグレースとファインが同時に聞き返す。


「グレースさんの腰と、ファインさんの腕あたりから、その、声が聞こえるものですから……」

「あなたも聞こえるんですかっ!?」


 同時に大きく身を乗り出す二人。あまりの勢いにノアルは面食らうが、すぐに微笑みが戻る。


「はい。その、皆さま仲がよろしいご様子ですね」

「わたくしはこのポンコツナイフと仲良しなつもりはないわ」

「ナイフなんですね、グレースさんの腰でおしゃべりするのは」


 ノアルはファインの腕のガントレットを見てから、グレースの腰あたりに目線を移す。


「こいつらに驚かないということは、あなたも何かしゃべる装備品をお持ちで?」

「はい、こちらです。でもお二人の武具のようにはおしゃべりしてくれません。寡黙なんです。」


 胸元の大きな宝石を指し示すノアル。


「なるほど、まさか俺たち以外にもこんな状況にいる人がいるとは」

「だね、グレース。なんだか嬉しいなぁ!」

「私もです、誰に言っても信じてもらえなかったですから……宝石が話すなんて」

「分かる〜!」


 無邪気に笑うファインとノアルはすぐに打ち解けられそうだ。


「こいつはアロン、そっちがプルだ。武具に性別があるのかよく分からんが、アロンは調子はいいが臆病な男で、プルは気品があるが戦闘狂の女だ」

「ちゃんと紹介しろよ。俺様はアロンダイト。アロンでいいぜ。魔王をぶった斬ったのは俺様なんだ」

「戦闘狂とは失礼ですこと。わたくしはヤールングレイプル」

「プルちゃん、って呼んであげてね」


 グレース、アロン、プル、ファインへと目線を忙しく動かすノアル。


「初めまして、アロンさん、プルさん。こちらの宝石はホープフルダイヤモンドと言います。男性か女性かといったら、男性なんだと思います」


 なおも一言も発しない宝石だが、むしろアロンとプルがやかましすぎるだけなのかもしれない。


「先ほど『呪い』とおっしゃいましたが、そちらも何かデメリットが? 俺はアロンの効果で一度攻撃すると勝手に体が戦いから逃げ出してしまう。逆にファインは戦いに入ると逃げられなくなるんだ」

「まあ……それは大変ですね。そんなハンデを背負いながら魔王を倒すとは、なんてお強いんでしょう」


 ノアルは口元に手を当て驚嘆の仕草をしてから続ける。


「彼は私の魔力を大きく高めてくれます。そのデメリットも、お二人ほど深刻なものではありません」

「差し支えなければどのような効果が?」

「それは……私の体の一部を差し出すこと、です」


 俯き加減で呟くノアルに、グレースとファインは息を呑む。


「かなりのデメリットに聞こえますが、大丈夫なんですか? まさか、寿命が取られるとか……」

「いえいえ、そんな大層なものじゃあ。命に影響はないですし、傷を負うわけでもありません」


 となると一体何を力の代わりに取られるのだろう。ここで聞くこともできるが、それよりも早い方法がある。


「ノアルさん、正直にお伝えします。私たちは仲間が欲しい、貴女のような魔導士がベストだと考えていました。しかし、お伝えした通り私たちは多くの人には分からないハンデというか、個性があります」


 真剣な眼差しのグレースに、ノアルは顔をしっかりと上げて答える。


「それについては私も身に覚えがありますし、何よりホープフルダイヤモンド、彼のことをすんなりと理解して下さったのはお二人が初めてです。個性、というグレースさんのお言葉、私にとっても救いに感じます」


 ノアルの黄色の瞳は同性のファインをも虜にするほど綺麗だ。グレースから視線を送られたファインは大きく頷く。


「では試しに少し冒険してみませんか? 実際にお互いのありのままをお見せして、パーティーを組むか考えましょう」

「はい、ぜひよろしくお願いまします!」


―――――


「すぐに戻るっ!」


 数体のゴブリンを残し、マントを翻して逃げ出していくグレース。街の近の鬱蒼とした森の中、一行はゴブリンの群れと遭遇し、戦いに入っていた。

 グレースは一撃でやれるだけはやったが、敵の数が多い。


「ノアルさんっ、グレースは大丈夫だから、いつもこんな感じだから……!」

「はい、彼は戻る。私にも分かります」


 これまでの候補者はこの時点でドン引きしていたが、ノアルは自分もデメリットを持つ武具の装備者であるからか、動揺は見られない。

 グレースの清々しいまでに迷いない逃げには、ファインとの間に築かれた揺るぎない信頼があることをノアルは体感していた。


「よかった! ここは私たちがこらえるから、ノアルさんは下がってください!」


 モンスターたちの前に出ようとするファイン。しかしノアルはそれを制する。


「ここは私にお任せを。力をお見せしますっ!」


 面談での柔らかい雰囲気から一変し、杖を構えたノアルからは気迫が漏れ出している。


「雷神よ、その力の一端により、我が敵に裁きを! トール・フィアート雷神の息吹!」


 杖から一筋の光が天へと昇り、空の一部が歪んでいく。歪みの中でバチバチと火花を伴った光が生まれ、昼でも暗がりが目立つ森を照らす。いく本もの雷が木々の合間を抜けゴブリンたちを襲う。


 成すすべなく雷の直撃を受けたゴブリンたちは、悲鳴を発する間もなく消滅していく。跡には消し炭と肉が焦げる嫌な匂いが漂うだけだ。


「すごい……! あれだけのゴブリンを一発で……ノアルさん、すごいです!」


 感嘆の声を上げるファイン、そしてグレースが猛然と戻ってくる。


「二人とも怪我はないか!? あの光はなんだ? 敵はどこだ?」

「もうノアルさんが倒しちゃったよ、すごかったんだから」

「なんと! 攻撃魔法が得意というのは聞いていましたが、かなりの力をお持ちのようだ」

「そんな、大層なものじゃありません。でも、お役に立てて良かったです」


 柔和な微笑みを見せるノアル。


「待って、まだなにかいるっ」

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