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第6話 パーティ結成

 思わぬ提案に虚を突かれるグレース。だが彼女の目は本気だ。


「知っての通り、俺はすぐ逃げる。こんな奴と組みたいのか?」

「はい。私たちは互いに『逃げる』『逃げられない』というハンデを負っています。でもそんな二人が一緒に戦えば、出来ることがある気がするんです」


 確かに、置かれた状況を理解しあえるのは大きい。他人からは理解できなくても、俺が逃げるのも、彼女が逃げられないのも折り込み済みで動ける。

 こいつらの声も俺たちにしか聞こえないようだし、一番の理解者と言えるだろう。


「いいのか? 今回は上手くいったが、相手次第ではどうなるか分からないぞ」

「でも貴方は必ず戻る。そうでしょう?」


 手を差し出すファイン。グレースにももう迷いはない。二人の手が重なる。


「よろしく頼む、ココットさん」

「ファインでいいですよ」

「では俺のこともグレースと呼んでくれ」

「よろしく、グレース!」


 満面の笑みを浮かべるファイン。グレースの悲しみ、喪失感は彼女の笑顔で上書きされていきつつあった。


――――――――――


「グレース・ファンデンブルグ。24歳、戦士。冒険者ランクA。ファイン・ココット。18歳、魔導士。冒険者ランクC。お二人でのパーティ申請で間違いないですね?」

「ああ」


 教会での事件の翌日、二人はギルド組合会館にいた。グレースは黒い鎧を付けておらず、身動きがしやすい軽装になっている。カウンターの向こう側の女性受付員が、素早く書類に記載していく。


「一応、確認しますが、ギルド立ち上げ申請もしますか?」

「いや、それはいい」

「承知しました。登録は以上です。お気を付けて」


 パーティ申請をするとギルド組合が色々と便宜を図ってくれる。ソロでの活動は危険が高いため、ギルド組合としては出来るだけ複数人で仕事をしてもらいたいという意図だ。


 大人数のパーティの場合、ギルドを作ることでより優遇措置が受けられるが、たった二人ではほぼ意味がないため、パーティ申請だけすることを事前に話していた。


「グレースはAランクなんですね! すごいなぁ」


 冒険者には貢献度・活躍度によってE~Sのランクが与えられる。トップギルドの一つアジャースカイに属していたグレース自身も、Aという高いランクを持っている。


「ファインだってその年齢のサポート職でCランクはすごいじゃないか」

「えへへ。黒鉄くろがね鬼兵きへいに褒められると嬉しいものですね」

「その名は返上だ。俺はもう鎧は着ない。それと、敬語は不要だ。俺たちはパーティだろ?」

「うん、グレース! 心機一転、頑張ろ~!」


 朗らかなファインの笑顔がグレースを和ませる。そう、俺はもう過去の俺じゃない。この子のおかげで前を向くことができた。


「今日は肩慣らしに軽めの仕事を受けよう」


 二人は仕事内容が書かれた書類が大量に掲示されている一画に行く。

 薬草採取や輸送品の護衛、ダンジョン探索から凶悪な特定モンスターの討伐まで、幅広い仕事が載っている。


「ファインはどんな仕事がしたいんだ?」

「うーん、人の役に立つのがいいわ。戦うのは怖いけど、グレースがいればそっち系でも大丈夫!」

「なるほど」


 グレースはちょうどよさそうな案件を探す。一緒に見ていたファインが一つの案件を指差す。


「これなんてどう?」


『地域の安全を守る! 簡単なモンスター退治のお仕事。日雇いOK』


 確かに出だしとしては最適かもしれない。案件によっては何日、何十日とかかるものもあり、まずは1日で終わるのもありがたい。グレースは詳細を読み進める。


『ここ最近、モンスターが街の周囲で増加しています。一体一体は低級ですが、数が増えると被害が出る恐れがあり、一掃作戦を実施します』

『参加条件:冒険者ランクC以上、所属ギルドランクB以下。募集人数:30名』


 グレースは長年の経験からすぐに違和感を抱く。低級モンスター相手に冒険者ランクC以上が必要だろうか。

 また所属ギルドランクB以下というのも、どこか矛盾している。強い冒険者を集めたいのか、そうでもないのか。よくわからない条件だ。


「これにしようよ、グレース! 報酬もいい感じよ!」


『報酬:銀貨5枚および討伐数によるボーナスあり』


 確かにこの内容では破格の待遇だ。むしろグレースの警戒度はより高まる。


「ファイン、この案件、何か裏があるかもしれない」

「そうなの? 私はいつもギルドが選んだ仕事をこなしていたから、よく分からないわ」


『依頼主:トマス・バンベリー』


 数々の案件を受けてきたグレースだが、依頼主の名前に見覚えはない。どうしたものか。やや怪しい案件ではあるが、内容だけ見ると今の二人には適しているように思う。


 グレースの元所属先であるアジャースカイはギルドランクAのため、以前なら参加できなかったが、今はお互いギルド未所属のため、条件面もクリアしている。


「分かった、この案件を受けよう。えー、仕事日は……今日じゃないか」

「わ、急いで申請しましょう!」


「こちらの案件でございますね。お二人とも条件は満たしております。ちょうど貴方方で定員は充足、他の27名はもう広場に集合していますので、お急ぎください」


 受付に礼を言い、二人は足早に広場へと向かう。それぞれが剣や杖、弓などの武具を手にした多くの冒険者たちが集まっている。みな、魅力的な報酬に惹かれたのだろう。


 参加がBランク以下のギルドに限られているため、アジャースカイのメンバーの姿はない。もっとも、Aランクギルドがこのような簡単な案件を受けることはそもそもないだろう。


 グレースが見たところ、そこそこの使い手が数人いるという程度だ。ただ、参加人数が多いのはグレースとしても歓迎だった。逃げられないとしても、いざとなったらファインは後方に引けばいい。


「私はバンベリー卿の代理人でございます。本日、皆さまを現場にご案内します。よろしくお願いします」


 小太りの中年男性が大きな声を上げる。


「今回の案件の内容は……」

「そんなの分かってるから、さっさと出発しようぜ」

「そうだそうだ、ちょちょいとザコモンスターを狩ればいいんだろ?」


 案内役の言葉を遮って冒険者たちが騒ぎ出す。男性はため息をついてから言う。


「そうですね、では早速出発しましょう」


 ぞろぞろと街を出ていく冒険者たち。グレースとファインはみなから少し離れた後ろから付いていく。

 心地良い風が吹く平原はいたって平和だ。依頼の違和感に考え込むグレースだったが、ファインは花や蝶を見つけてはテコテコと無邪気に駆けていく。


「なーグレース、俺様もこの仕事、なんか匂うぜ」


 グレースの腰のナイフが呟く。


「あなた、ビビってるだけでしょう? わたしくはウズウズしますわ」


 ファインの腕のガントレットが返す。また始まった。本当にこの二人、いや二つの武具は相性が悪い。戦いたくないナイフに、戦いたいガントレット。最悪の組み合わせだ。


「ナイフさん、大丈夫ですよ! グレースの強さは貴方もよく知ってるでしょう?」

「お嬢ちゃん、だから困るんだよ。俺様は平和主義者なんだぜ」

「武器のくせに平和主義、か。果物ナイフにでもしてやろうか? お前のせいで俺は大変な迷惑を被ってるんだ」


 グレースも嫌味の一つも言いたくなる。本当に迷惑な奴だ。


「なあ、グレース。そろそろ『お前』だの『こいつ』だの言うのは止めてもらえっかな」

「ん? 名前があるのか?」

「よくぞ聞いてくれました。俺様はアロンダイト! かっこいいだろ~」

「長いな。アロンにしよう」

「ちょ、勝手に略すなよ! アロン、か。まぁ、悪くねえか」


 ナイフ改めアロンは言葉の割に嬉しそうな声を出す。グレースたちのやり取りを聞いていたファインはガントレットに話しかける。


「ねぇねぇ、貴女にも名前があるの?」

「わたくしはヤールングレイプル。気品漂う名前でしょう?」

「じゃあ、プルちゃんだね!」

「プルちゃん!? 小娘にちゃん付けされるいわれはなくってよ」

「ダメ? 綺麗な貴方に似合う、可愛い名前だと思うんだけどなぁ」

「あなた、わたくしの美しさと可憐さが分かっているじゃない」


 ガントレット改めプルちゃんも、まんざらでもない様子だ。ファインには周囲を明るくする資質があると思っていたが、武具ともすんなり打ち解ける様を見て、グレースは頬が緩む。


 一行が平原を1時間ほど歩くと、前方にうっそうとした森が見えてくる。


「みなさん、モンスターはこの辺りに出没します。お気をつけください」


 先導していた小太りの男が注意喚起をすると同時に、複数の場所で地面がもこもこと盛り上がっていく。土が生きているように、うねうねと動き、それぞれの塊が形を作っていく。


 人の姿に似た土人形や、アメーバのように地面を這う者、巨大な腕だけの姿など、様々な形状のモンスターが完成していく。

 モンスターはどんどん増えていき、冒険者30名と同程度の数が前方に展開される。


「おいおいおい、こんなにいるなんて聞いてねえぞ!」

「だが相手は低級って話だ、一人が一匹倒せばいいだけのこと!」

「よし、やるぞ!」


 気合を入れパーティ毎に固まって攻撃に出る冒険者たち。


「待てっ!! そいつらは……」

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