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攻撃すると強制的に逃げる戦士と、戦闘終了まで絶対に逃げられない魔導士。最悪な相性の二人が組んだ結果、なぜか魔王と戦って世
攻撃すると強制的に逃げる戦士と、戦闘終了まで絶対に逃げられない魔導士。最悪な相性の二人が組んだ結果、なぜか魔王と戦って世
黄金米
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年03月24日
公開日
9.4万字
連載中
戦士グレースは、ある日不思議なナイフを手にしたことで「一度攻撃すると必ず逃げてしまう」という呪いのような能力を得てしまう。
一方、魔導士のファインは、ガントレットの影響で「戦闘から絶対に逃げられない」体質になっていた。

まるで正反対の宿命を背負った二人は、ひょんなことからパーティを組み、冒険を共にすることになる。
しかし、二人の持つ意志を持つ武具は、ただの道具ではなく、彼らを翻弄しながらも強大な力を秘めていた。

さらに「羞恥心」を糧に魔力を高めるダイヤモンドに魅入られた魔導士ノアルも仲間に加わり、三人と三つの武具は復活した魔王に立ち向かう。

奇妙な絆で結ばれた三者三様の仲間たちの冒険は、世界を巻き込む戦いへと発展していく。
戦士と魔導士、そして意志を持つ武具たちは世界を救えるか……!?

※脱稿しているので完結確約!10万字程度、40話で完結。

第1話 逃げる戦士

 ダンジョンの奥地。全身を黒の甲冑で固めた男の戦士が、煌びやかな装飾が施された宝箱に手をかける。ギルドの仲間たちが期待に胸を膨らませて見守る。


「どんなお宝が出てくるかな?」

「これだけ豪華な外装の宝箱だから激レアだろ」

「ここまで来るの、大変だったもんな」

「グレース、早く開けてよ!」


 グレースと呼ばれた戦士は軽く頷き、宝箱を開ける。そこには彼の掌と同じくらいの刃渡りしかない小刀が一つ、鎮座していた。


「ナイフ、かぁ」

「グレースには似合わないな」


 仲間からため息が漏れる。ギルドの切り込み隊長を務めるグレースは、180cmを超える自身の身の丈に近い、巨大な剣を装備している。


「でもこれはグレースのものよ。みんなで話し合って決めたでしょ」


 胸元と太ももが露わになった深紅のビキニアーマーと、赤毛のロングヘアーが調和するギルドマスターが、みなを静めるように言う。


「そうだな、今回の遠征でも一番の功績を上げたのはグレースだしな」

「もしかしたらとんでもない特殊効果とか付いてるかもしれないよ」


 仲間に促され、グレースはナイフを手に取る。掌に吸いつくような感触。まるで自分の体と一体化したような感覚に襲われる。


「ふわぁぁぁあ。やっと俺様の出番が来たか」


 誰だ!? 仲間の声ではない男の声を聞き、グレースは身構える。


「どうしたの、グレース?」

「今、何か聞こえなかったか?」

「いいえ何も……大丈夫?」


 ギルドマスターを始め他の人間には聞こえなかったようだ。しかし、確かに男の声がしたはずだ……。


「いや、なんでもない。みんな、ありがとう。これは護身用にでも使うとするか」

「お前の場合、そのこぶしの方がよっぽど役に立ちそうだけどな」


 彼の岩のような拳を見て仲間たちが笑う。


「そんなことは……なくもないか」


 ナイフを持った左手と逆の右手を閉じたり開いたりしながら、グレースも笑みを見せる。


「さあさあ、浮かれるのはここまでよ。あの奥の扉、間違いなくこのダンジョンのボス部屋に繋がってるわ」


 ギルドマスターの切れ長の目は、奥にあるドラゴンの模様が模られた巨大な扉に注がれる。それまで冗談を言い合っていたメンバーの目にも鋭さが宿る。


 グレースは宝箱に残っていた鞘にナイフを収め、腰に付ける。そして、目と口の部分だけが開いた鋼鉄の兜を被り、扉の近くに立つ。


「アレクス! 敵の数と力は未知数よ、一時耐えられるわね?」


 両手にそれぞれ巨大な盾を持ち、グレース以上の重装備をまとった戦士が一番前に出てくる。


「おうよ、任せなっ!」


 アレクスと呼ばれた戦士は、盾をガンガンと鳴らし、脚にぐっと力を込める。


「ニーナ! アレクスとグレースの補助を中心にお願い!」

「いつも通りね、了解~」


 フリルの付いた黒いローブを着た女魔導士が後ろに控える。


「グレース! すぐに貴方の出番が来るわ。遅れないでね」

「タイミングは君に合わせる、エルザ」


 赤い戦姫の異名を持つギルドマスター、エルザと黒鉄くろがね鬼兵きへいことグレースの息の合った連携攻撃で、これまで何体もの難敵を討ち果たしてきた。


 二人は一瞬、アイコンタクトを取る。互いの目には信頼の色が浮かぶ。エルザの視線には、それ以上のものが宿っているようにも見える。


「いくよっ! 最後の仕事よっ、気合を入れなっ!」


 エルザの合図で扉が開かれる。一斉になだれ込む十数名の仲間たち。グレースは背中に背負った大剣に手を添え、いつでも抜刀できる体勢を取る。


「ゴギャウウウウウゥゥゥゥ!!」


 10メートル以上はあろう巨大な漆黒のドラゴンが咆哮を響かせる。ビリビリと震える空気が波のように押し寄せる。


「ダークドラゴン……! アレクス! 炎に気を付けて!」

「うっしゃあぁぁ!」


 ガシャンガシャンと重々しい足音を響かせ、アレクスはパーティの前方に歩み出る。

 ドランゴンの口が大きく開き、無数の鋭利な歯の奥、喉の部分が真っ赤に染まっていく。


プロテクション・ヘパイストス!火神の加護


 ニーナが魔法を唱えると、アレクスを中心にピンク色のオーラが広がっていく。


「バアアアァァァァ!!」


 ドラゴンの口から青い炎が激しく噴射される。


「ぐうううぅぅ……!」


 炎対策に特化した防御魔法を使っていなければ、重装甲のアレクスとて消し飛んでいただろう。なんとか一撃目は防げたが、アレクスの盾は表面が溶け、熱風で彼自身も火傷を負っている。


 長期戦になればどうなるかは一目瞭然だ。エルザはニーナに目線を向ける。


「はいよ~。アタック・トリトン!水神の恩恵


 エルザとグレースの体を、水色のオーラが包む。エルザは剣を構え、鍛え抜かれた足の筋肉を収縮させる。

 グレースは彼女の動きに合わせるように、背中の大剣を引き抜くべく力を込める。


 が、大剣が抜けない。何か引っかかっているのか? そんなわけがない、これまでこんなことは一度たりともなかった。グレースは冷静に、再度力を込める。


 やはり剣は抜けない。何故だ……!?

 ドラゴンはブルブルと首を振り、再び口を開ける動作に入ろうとしている。エルザは今にも飛び出しそうだ。


「俺を使いな」


 先ほどナイフを手に取った時に聞こえた声がする。今度はもっと明確に、グレースの腰あたりから聞こえてくる。

 一体この状況はなんなんだ!? 一層混乱するグレース。しかし時間がもうない。


「だから、俺を使えって」

「ええい!!」


 グレースは意を決して、抜けない大剣から手を放し、腰のナイフを抜く。こちらは全くの抵抗もなく、手に収まる。

 その時、エルザがドラゴンに向けて猛然と駆けだす。グレースはなんとも心もとないナイフを手にすぐ後を追う。


「はああぁぁぁ!!」


 ドラゴンの口が開ききる寸前、高々と跳躍したエルザの一撃が敵の片翼を切り落とす。


「グギャアアァァ!!」


 痛みにもだえるドラゴン。その首めがけてグレースが迫る。

 ザシュ、肉が断たれる音がする。普段の大剣であれば確実に首をねられていただろう。

 しかしグレースが手にしたナイフはあまりにも刃が短く、ドラゴンに致命傷を負わせるには至らない。


 くそっ!! 心の中で大きく悪態を付きながらグレースは追撃の構えを取る。こうなったら何度でも切りかかる他ない。


「ダメだぁ! もう無理だぁ!」


 ナイフから情けない声が聞こえた瞬間、グレースの体が後方に引っ張られる。何だ!? 敵の攻撃か!?

 グレースは必死にその場に留まろうとするが、体が勝手に後ろを向き、ついには敵に背を向けて走り出してしまう。


「グレース!? どうしたのっ!?」


 エルザが悲鳴に近い声を上げるが、グレースの足は止まらない。


「うおおおぉぉぉぉ……!」


 勇ましい雄たけびとは裏腹に、グレースはすさまじい逃げ足でボス部屋から消えていった。


 呆然とする仲間たち。ドラゴンまでが動きを止め、戸惑っているように見える。

 一瞬の静寂の後、破壊衝動に目覚めたドラゴンが、眼下で動きを止めているエルザを足蹴にして吹き飛ばす。


 そして再び、全てを呑み込むような大きな口を開き、炎を吐く体勢に入った。

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