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花の名前
花の名前
きつね いたち
現実世界現代ドラマ
2025年03月24日
公開日
1.6万字
連載中
 都会生まれ・都会育ちのハナちゃんは、多忙な両親の関心を得られず孤独を抱えていた。
 中学2年生の夏、ハナちゃんは母の赴任先である香川で夏休みを過ごす。彼女は香川で、母の親戚である20代の青年・“あおいおじさん”と出会う。
 仕事に生きる母との関係に葛藤しつつ、初めての淡い恋に胸を躍らせる中学生の一夏の物語。、、

第1話 花の名前

 別れる人に花の名前を教えなさい、と夏のはじめに読んだ本が言っていた。

 その花が咲くたびに、あなたのことを思い出してもらえるから、と。


 14歳。夏休みの終わり。

 頭上には、透き通る青空と幾重に連なる入道雲。足元には、真緑の稲畑の間を一直線に走るでこぼこの畦道。右を見れば、”JA香川”の野菜の直売所の案内看板。左を見れば、路傍に咲く赤と白とピンクの田んぼの花。

 遠くに繁る大木の木陰には、太陽から隠すように置かれた泥まみれの白の軽トラ。その荷台であぐらをかき、真剣に風景をスケッチするTシャツ姿の線の細い男の人。


 目深に被った麦わら帽子の下で、私は伝えるべき花の名前を、何度も何度も復唱していた。


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