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第15話 夜明けの辺境

 「いつにもまして早いねー。何時起きー?」

 夜明けの近づいた薄暗い湖畔。そのほとりの草むらに体操座りをする百日紅のもとに、 デイジーが大きなあくびをしながら、寝起きらしくふらふらと歩いてくる。軽装で肌を露出する恰好を好む彼女は、タンクトップにデニムのショートパンツ、黄色の外套にビーチサンダルのいつもの恰好で、肌寒さを感じる様子もない。金髪のポニーテールは歩きに合わせて揺れ、若さに似合う派手な化粧が彼女の明るさを盛り立てている。

 地方の女子高生の休日のような恰好。片手に持った装飾された手鏡。そんな年相応の出で立ちのデイジーの上半身を覆う黄色の外套は、左右の銃ホルダーによって不自然に腰元が膨れている。

 「寝てない」

 挨拶もなしにマイペースに登場したバディに、百日紅は片手をあげて挨拶をする。

 「えー! 何してたの? もしかして、変なこと? ちょっと詳しく・・・」手鏡に目を落としながら、百日紅に身体を近づけて話を聞き出そうとしていたデイジーが、一瞬固まる。彼女は手鏡を何度かスワイプし、すぐにポケットに戻した。「聞きたいところだけど、仕事の時間だね」

 自然に満ちた薄暗く人気のない空間。2人は中腰になり、近くの樹木の陰に身を隠す。

 オレンジに爛れた太陽が、ゆっくりと姿を現す。

 日の出とともに、あたり一帯が急速に明るくなっていく。淡い月明かりに照らされ、モノトーンのシルエットのように見えていた光景が色づき、実態が鮮明になる。

 湖畔の花畑には、陽気に戯れる2つの物体。1つは藍色のワンピースを着た黒髪の少女。もう1つは、同じデザインの藍色のワンピースを着た、大きなくちばしに茶色い体毛の海表族の子供。

 向かい合って座る2人は、途切れなく終始笑いあっている。小さな白い花々を選んで摘む作業を繰り返し、木製のかごに大切に収めていく。

 2人の姿を視認したデイジーが、「始発で帰れるね、サル!」と嬉しそうに百日紅に抱き着く。

 百日紅が2人の姿から目を逸らす。外套の裾をつかみ、唇を噛む。

 「だけど、家族丸ごと一網打尽かあ。仕方がないね、かわいそうだけど」

 デイジーが独り言のように呟き、手首を回してストレッチを始める。

 「え?」

 百日紅がデイジーに視線を移し、言葉の真意を探る。デイジーが笑顔で解説をする。

 「あの人間の女の子、10歳そこそこでしょ? 1人で生活してるとは考えずらい。それに、女の子と海表族は2人とも、お揃いの洋服を昨日と今日で着替えてる。だから、おそらく・・・」

 「彼女の家族も、隠匿に加担してる?」

 「そういうこと!」要領よく理解した百日紅の言動に、デイジーが気をよくして言葉を続ける。「悪いことはダメ、絶対。抵抗されたら交戦もやむなし。家族も協力してるなら、全員捕まえないと」

 「でも」

 「派遣された経緯はペナルティとはいえ、仕事はきちんとこなさなくちゃ」

 一瞬にして決意を固めたデイジーが真顔になり、すたすたと少女たちのもとへ歩いていく。カラフルなゴム製のビーチサンダルが、白い野花を躊躇なく踏みつぶす。

 「待って、デイジー!」

 遅れをとった百日紅を気に留めず、デイジーは少女たちのもとに辿り着く。油断していた黒髪の少女は、デイジーの登場に驚き慌てながらも、海表族の子供に素早く手をかざす。同様に慌てふためいていた海表族の子供は、少女が血統由来のギフトを発揮したと同時に一瞬光り、瞬時に海鳥から茶髪の人間の子供に変化した。

「いいギフトだね。お姉さんのと交換しない?」

 子供たちに十分に近づいたデイジーが笑みを浮かべ、中腰になり黒髪の少女と視線を合わせる。「おうちの人はどこにいるのかな?」

 「な、何をしに・・・」

 「分かり切ったことを質問しないで。答えるお姉さんが、悪い人みたいじゃん?」

 言葉を詰まらせる人間の少女と、その後ろに隠れる茶髪の少女の姿の海表族を見つめながら、デイジーがおどけて笑う。

 「他民族が地表に無断で侵入して滞在するのは悪いこと、その海表族と仲良くするのも悪いこと、それを分かっていながら家族みんなで匿うのも悪いこと。悪いことを3つ集めちゃったら、罰を受けないといけない。世界共通の理屈だよ。サッカーはイエローカード3枚で退場、野球もスリーアウトで交代でしょ?」

 「でも、だけど、難しいことは分からないけど、この子は私にとって、家族なんです。悪いことかもしれないけど、ずっと前にこの子がケガしているところを見つけて、でも親や友達を探したけど居なくて、可哀そうで、それで」

 デイジーと同じ地表同盟の外套を着用する百日紅は、デイジーの後ろで顔をしかめ、俯きがちに彼女らの動向を見つめている。

 「見つけた時に警察に突き出していれば、情も湧かなかったのにね」

 震える2人の子供たちに、デイジーが哀憫とも慈愛ともとれる薄い笑みを浮かべて手を伸ばす。

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