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第13話 未明の辺境

 日の出までにしばらく時間の猶予のある、真っ黒な未明。薄い月明かりの下、動物たちも寝静まる湖畔のほとり。

 デイジーとの約束より随分早い時間に、百日紅は草原に体操座りをし、神妙な面持ちで月光の反射する水面を眺める。彼はいつものように、黒のTシャツにチノパンを着て、地表同盟の証である黄色の外套を羽織っている。

 緩やかな風が薄い外套を揺らす。地表同盟と対地表族省の2つのロゴマークに皺が寄る。

 百日紅が身体を捩ると、じゃらじゃらと身に着けるピアスやネックレスが肌に触れた。無機的な冷たさに、長い睫毛が神経質にピクリと動く。チノパンを履く脚を抱きしめる細い指先に、一層力がこもる。

 目を閉じた百日紅は、3年前の忘れがたい情景を想起する。

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