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第11話 山奥のコテージ_2

 「いいな。僕もママの手料理が食べたい。早くみんなに会いたい」

 3匹の映像を笑顔で眺めていた百日紅の口から、か細くかすれた声が無意識に漏れる。少年はうっかりと漏れた自分の本音を振り払うように、恥ずかしそうに髪をかき上げた。

 百日紅のどこか所在なさげで寂しそうな様子に、ママが不安げに眉を寄せる。両手を祈るように強く握るママは、ソファーから身を乗り出し、映像の向こうの百日紅に早口に問いかけた。

 「タルパちゃんもちゃんと食べてるの? 次にうちに帰ってくるのはいつ? 仕事は順調? 夜は眠れてる? 職場の上司や同僚の方にいじめられたりは・・・」

 「大丈夫だって。元気にやってるよ」タルパと呼ばれた百日紅が、今にも泣きそうなママの言葉を遮る。百日紅は質問には答えずにおどけたように笑い、肩の力の抜けた返事をする。「地表ではミミズのスープとか飲めないから、美味そうでいいなって思っただけ」

 「ママは心配し過ぎなんだよ。俺は勉強しながら研究所でバイトしてるし、タルパなんて何年も前から働いてるんだぜ? 随分前から立派な大人だよ」心配性のママを持て余すように、クロートが肩を竦める。「だよな? タルパ」

 「もちろん」百日紅がすぐさまクロートに同意する。

 「いいや。ふたりとも、まだまだ子供だ。お酒だって飲めない年齢じゃないか」

 静かに話を聞いていた眼鏡の中年モグラ、パパが低い声で静かに口を開いた。柔和だが真剣さも混じる表情で、百日紅とクロートを交互に見つめる。

 「それに大人になったとしても、2人がパパとママの大事な子供であることには変わりないよ。何かあったら、すぐに言いなさい。いいね? タルパ、クロート」

 「うん。ありがとう」

 百日紅がはにかみ、何度も頷く。彼はパジャマの裾を、無意味に強く握りしめる。

「ところで、パパ、ママ、クロート。最近どう? 何か変わったことはなかった?」

 他愛ない話はひとしきり盛り上がり、頃合いを見て通話が終わる。3匹の地底族に笑顔で手を振った百日紅は、映像が途切れたと同時に力なくベッドに寝転んだ。両手を後頭部に当て、無表情で天井を眺めていた百日紅は、ため息をついて目を閉じた。

 スタンドライトの灯るデスクの上で、卓上時計が22時を指している。

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