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第3話 地表同盟のリクルート・イベント / テッセラ大陸の首都・ラダ_2

 演説を終えた少年が壇上を下り、薄暗い廊下を足早に通り抜けて控室に向かう。人前で見せていた無邪気で自信溢れる笑みは跡形もなく消え、無表情でピアスをいじる。

 紺色のカーテンに仕切られた控室についた少年は、躊躇なくカーテンを開いた。

 「演説上手だったねー、百日紅。”模範的な若者!”って感じだったよー」

 ソファーや机の並ぶ手広な控室には、百日紅(サルスベリ)と呼ばれたピンクの髪の少年と同世代の数人の若者が、各々リラックスした様子で時間を持て余していた。

 ソファーに座る三つ編みの少女は、コーヒーゼリーを笑顔で食べる。スポーツマン然とした大柄な少年は、鼻歌を歌いながら隅の方で腕立て伏せをする。坊主の少年は床に胡坐をかき、黙々と漫画本を読んでいる。2人の少女は打合せ机に向き合って座り、ポーカーに興じている。

 少年少女の恰好は普段着からスポーツウエアまで様々だが、全員が少年と同じ刺繍の入った黄色の外套を羽織り、針のない文字盤のみの揃いの時計を腕に巻いている。

 一仕事終えた百日紅は気だるげに、挨拶もなしに控室に足を踏み入れる。顔を上げた少年たちが、口々に「おつかれ」と百日紅に声をかける。入り口付近に座っていた坊主の少年が百日紅に気安く手を伸ばし、二人は流れ作業のようにハイタッチをした。

 「リクルート・イベントは、必ず僕が客寄せパンダをさせられている」

 控え室中央の空いていた一人がけのソファーに、百日紅が腰かける。少年は不服そうに足を組み、深くため息をつく。

 「エリートの宿命だよ。サルは、最年少で地表同盟に合格した秀才なんだから。見栄えとイメージがいいんだよ」

はつらつとした無邪気な少女の笑い声が、百日紅の背後から投げかけられる。

「誰が説明したって一緒だ。録画した動画と録音した音声を流すだけでいいし、そもそも志願者を一か所に集める必要もない。オンライン配信で事足りる。すべてが非効率的で非論理的で、時間の無駄」

 不満げな百日紅が顔を上げ、声の主である同世代の少女へ視線を移す。「君もそう思うくせに。デイジー」

「理屈っぽい男子はモテないよ」声の主であるデイジーと呼ばれた少女が、百日紅の元へ近づいてくる。「仕事選びなんて、結局感情で決定するでしょ? だからこういうイベントは、どれだけ理にかなっているかではなくて、どれだけ心を動かされるかが重要なの。志願者と同年代の私たちがイベントの運営を任せられているのは、あくまで感情論ありきだよ」

嬉々として持論を展開するデイジーは、長身で適度に肉付きのいい健康的な体躯、目鼻立ちのくっきりとした顔立ちに、若さ溢れる流行りの化粧。デニムのショートパンツにタンクトップ、ビーチサンダルとラフな恰好。歩みとともに長い金髪のポニーテールを揺らす彼女は、丸めた黄色の外套を脇に挟み、小型の拳銃を腰のホルダーに携えている。彼女は片手に持った手鏡で手遊びをしながら、いたずらっ子のように微笑んだ。

 「そんなの合理的じゃない。地表族を率いる組織が、感情で動くなんてあり得ない」

百日紅が失望したように肩をすくめ、デイジーが笑顔でなだめる。

「まあまあ。それにさ、発表者は毎回じゃんけんで決めてるじゃん。この小隊の中で一番若い私とサルの負けた方が、同盟所属の若者代表としてプレゼン。勝った方が音響とかの設営をする。そういう公平な約束だったでしょ?」

「9回連続、僕は君に負け続けている。これが公平って本気で言っている?」

「あらら。すごい偶然だね」

華美なデコレーションを施した手鏡を片手に握るデイジーが、百日紅の座るソファーの肘掛けに腰を下ろす。不機嫌な百日紅と対照的に、デイジーは心底楽しそうに笑う。

 「“ギフト”を使ってるんじゃないの?」

 「んー? あ、そういえば」

 訝しむように眉を寄せる百日紅の質問に、デイジーは答えず話を逸らす。デイジーは背伸びをしながら、手鏡の鏡面を指先で触り、右に左にスワイプを繰り返した。

「それにしても、舞台上のサルは随分と安牌な言い方だねー。”地表族には語り切れない過去がある”なんて」高い位置から百日紅を見下ろす少女が、百日紅に身体を近づけてピンクの髪を片手で弄ぶ。「現実をはっきり言えばいいのに」 

 「人間同士で長年、無意味な内輪もめを続けました。特殊な能力を持つ血統、つまり何らかの“ギフト(gift)”を持つ人々を迫害したり、奪いあったり、抗争したり。その結果、他民族に地球の覇権を取られかけて窮地です、とか?」

 百日紅が鼻で笑い、馴れ馴れしく髪を触る少女の手を、やんわりと払う。

 「そうそう」少女が納得したように満面の笑みを浮かべる。長い睫毛が、弾むように瞬く。「これまで搾取・・・。じゃなくて、優位な関係で交易をしてた他民族が、力をつけて徐々に地表族に対して反抗的になってきました。このままじゃ、侵略とか戦争とかされちゃうかもしれません。古い世代のしりぬぐいが、皆さんの仕事です」

 「今度、会議で偉い人たちに言ってみなよ。デイジー」

 「えー。左遷は嫌だー」

 タンクトップ姿のラフな格好のデイジーが、旧態依然の組織体制を揶揄し、おどけて笑った。

世間話に飽きたデイジーは腕時計を手早く操作し、空いている空間に映像の投影を始めた。先ほどまで百日紅が立っていたコンサートホールの壇上が、立体的に浮かび上がる。

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