テッセラ大陸の首都・ラダ(Lada / the Tessera Continent)。
「地球は5つの地理区分に分類され、5種類の知的生命体に支配されています」
晴れた昼下がり、市街地の荘厳なコンサートホールに、壇上を注視する満員の観客。
客席に座る十代を中心とした若者たちは、期待と高揚感の入り混じった表情で、固唾を飲んで壇上を見守る。
真っ暗な舞台上には、快活な少年の声音と鮮明な立体映像が投影される。
「まずは、陸地に暮らす人間。労働人口が多く文明は発展しているが、資源や技術を他民族に依存する僕たち。通称『地表族』」
真っ暗の空間に、”The Surface (地表族)”の文字と、幼児から老人まで幅広い年齢の数人の人間の立体映像が投影される。精巧なイメージ映像である彼らは、しばらくのあいだ模範に微笑んで手を振り、役目を終えて立ち消えた。
「第2に、地底に巨大な空間を掘り、都市を集落を形成するモグラ。地表族に友好的な性格で、元来温厚で平和主義。ただ、近年は好戦的な勢力が徐々に興隆しつつあり注視が必要な、通称『地底族』」
先ほどと同じく、精度の高い立体映像がひとりでに浮かび上がる。”The Subterranean (地底族)”の文字とともに、体長1mほどの2足歩行のモグラが数体、壇上に登場する。どの個体も、長い毛並みに覆われ隠れている大きな丸い目に丸い鼻、ふっくらとした頬、皮膚がむき出しの大きな手のひら、というモグラ固有の特徴を有する。ある個体はスーツにネクタイを着用し、別の個体はワンピースを着用する。服装の違いから、年齢や性別の違いが見て取れる。
「第3に、地球で最も知能の高い生物、高度な科学技術を他民族に売りさばき、莫大な外貨を稼ぐホッキョクウサギ。僕たち地表族にも、多くの技術品目を輸出している。通称『天空族』」
少年のはきはきとした言葉とともに、浮遊する物体と”The Firmament (天空族)”の文字が投影される。楕円形の浮遊する円盤には、体長50cm程度のホッキョクウサギが座る。真っ白のふかふかの体毛に、赤く大きな目が暗闇に光る。ホッキョクウサギは意味深な笑みを口元に浮かべ、円盤を駆使し上下左右に自在に移動する。
「第4に、”水鳥の餌場”と呼ばれる巨大カジノを海上に浮かべ、他民族を食い物にする水鳥。能弁で生粋の商人気質。他民族の中で唯一地表語を話すことができ、地表への不法潜伏数も多い。通称『海表族』」
”The float (海表族)”の文字とともに、体長1.5 ~2m程の2足歩行の海鳥たちが立体投影される。細身だが引き締った体躯に、大きく尖った手足の爪、鋭いくちばし。ウミネコのような切れ長の目元。商人のように懐に入ることが得意な、柔らかで愛嬌のある表情。タキシードを着た海表族の若い海鳥が、手に持ったトランプを客席に向けて楽しげに振る。
「そして第5に、海底資源を牛耳り、地底族以外との交易を完全に遮断する正体不明の民族。生体どころか、その存在の有無にさえ疑問を呈する学説もある。通称『海底族』」
ステージ上に”The Cryptid(未確認生物)”の文字と、大きなクエスチョンマークが浮かび上がり、音もなく消える。
「4つの他民族の脅威から、人間である地表族を守ること。それが僕たち、『地表同盟』という組織の存在意義です」
”The Surface Alliance (地表同盟)”の文字と、金星の軌道を模したいくつもの曲線が複雑に絡み合う円形のロゴマークが舞台上に浮かび上がる。地表同盟のシンボルであるロゴマークの登場に、客席が期待にどよめく。
「ご存知の通り、僕たち地表族には語り切れない反省すべき過去がある。中には特殊な背景をお持ちの方もいる。地表族、つまり人間同士の争いもあった。そんな悲しい歴史を経て、『地表同盟』という組織を形成して他民族に立ち向かい、現在は多民族と対等の立場を築いている」
婉曲した表現で力説を続ける声の主が、舞台の端から悠々と姿を現した。
社交的で人懐っこい笑みを浮かべる利発そうな少年が、舞台の中央へと歩いていく。煌々と輝くスポットライトが、多方向から一斉に少年を照らす。
観客の視線を一身に受ける15歳の少年は、年相応の線の細い体躯に、黒のTシャツと茶色のチノパンを纏っている。Tシャツの上羽織る光沢のある黄色の外套が、空調の気流に緩やかになびく。若者らしく派手に染めたピンクのパーマに、両耳で揺れる大小さまざまなピアス、小さく光るネックレスが、少年の動きに合わせて揺れる。
幼さの残る丸顔に整ったアーモンドアイが印象的な少年は、誇らしげに何度も黄色の外套を触り、形を整える。外套の背中部分には上下に2つの刺繍されており、上部には、金星の軌道を模した地表同盟のロゴマーク。その下には、人間とモグラが手を繋いで並立つシルエット。
「未来ある皆さん。一般市民の方々の幸せな生活を、一緒に守っていきませんか。地表同盟への入盟を、心よりお待ちしています」
自信に満ちた雄弁な少年が、満員の客席に一礼する。
期待と高揚感に満ちた若者たちが、盛大な拍手と歓声を送った。